「お前は誰だ」
仁城 琳
「お前は誰だ」
鏡に向かって「お前は誰だ」って毎日言い続けると精神が崩壊するんだって。
最初に言い出したのは誰だったか、誰に聞いたのか、思い出せないけどふとその事を思い出した俺は試しにやって見ることにした。鏡は家にあるし、それに向かって「お前は誰だ」と言うだけ。極めて簡単だ。どうせ精神崩壊するというのも自己暗示だろう。自己暗示なんかで俺はおかしくならない。実際にやってみて嘘じゃないかと笑ってやろう。鏡の中、俺がいる。俺は俺に向かって問いかけた。
「お前は誰だ。」
何も起こらない。ただ少し不思議な感じはする。鏡の中のこれは俺だ。俺に向かって俺が「誰だ」と問いかけている。変な感じ。ただこんなので精神崩壊するとは思えない。もう少し続けてみるか。
あれから一ヶ月、俺は毎日鏡の中の俺に問いかけている。今のところ何も起こらない。やっぱり嘘なんじゃないか。
「あ、おーい。この間の写真、送っといたけど見てくれた?」
「よう。写真?まだ見てないな。ありがとう、見るよ。」
学祭の写真か。この友人は写真を撮るのが好きだ。遊びに行った時、行事があった時、いつも写真を撮って送ってくれる。俺はスマホを見る。何枚もの写真が送られている。少し前のことだが懐かしい気持ちになりながら写真を見る。一枚目、二枚目、三枚目、送られてきた写真を見ているうちに俺は異変に気付いた。
「なぁ、これ俺に送るの間違えてないか?」
友人が送ってくれた写真はどれも俺が写っていないものばかり。他の誰かに送るものを間違えて俺に送ってきたのか?
「え?そんなことないと思うけど。ほら、お前が写ってる写真ばっかりだろ?」
友人が指さす画面の中には見知らぬ男。…これが、俺?冗談だろうか。俺を脅かそうとして?でも鏡に向かって毎日問いかけている事は誰にも言っていない。何故だ。
「いや、これは俺じゃないだろ。なんの冗談だよ。俺、結構お前の写真毎回楽しみにしてるのにさ。」
「はぁ?お前だよ、これ。お前に似たやつもいないし、どう見てもお前だろ。どうしたんだよ?」
友人は冗談を言っているようには見えない。これが、俺?背筋を這い上がるように寒気がした。呼吸が浅くなり、冷や汗が流れる。『鏡に向かって「お前は誰だ」って毎日言い続けると精神が崩壊するんだって』。
「ごめん…。ちょっとトイレ…。」
「おう。大丈夫か?顔色悪いぞ?」
震える足を必死に動かしトイレに向かう。鏡を見るのが怖い。あいつはあの見知らぬ男を俺だと言った。俺はおかしくなったのか?
トイレに入り、鏡の前に立つ。鏡を見たくない。しかし確認しなくては。俺は恐る恐る顔を上げる。そこに映っていたのは知らない男。誰だよお前。俺じゃない。
「…お前は…誰だ…?」
鏡の中の男がニヤリと笑う。俺は血の気が引くのを感じた。
「お前は誰だ。」
鏡の中の男がニヤニヤしながら聞いてくる。知らない。俺が聞きたいんだよ。お前は誰なんだよ。
「お前は誰だ。」
知らねぇよ。お前は俺じゃないのか。
「お前は誰だ。」
じゃあ俺は誰なんだよ。鏡の中の俺はニヤニヤしながら何度も問いかけてくる。
「お前は誰だ。」
「俺は…誰なんだ。」
「お前は誰だ」 仁城 琳 @2jyourin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます