第18話 ハングリーベア


 いきなり現れたハングリーベアが、ヴィルを襲う。


「ヴィル! 危ない!」


 私は自分の身の危険も顧みず、勢いで飛び出していた。

 気が付いたときには、身体が動いていた。

 後ろからヴィルを押し倒して、なんとかハングリーベアの攻撃を避ける。


 目標を失ったハングリーベアはそのまま地面に攻撃を当てた。

 ハングリーベアの恐ろしい、するどい爪が、地面に突き刺さる。

 あれが当たっていたら、ヴィルも私も死んでいた。


 私とヴィルは地面に転倒する。

 ヴィルに私が覆いかぶさる形になって、顔がものすごく近い。

 ヴィル……まつ毛長い……こうして近くで見ると、ますます男前だ。

 

「ヴィル……大丈夫……?」

「サクラ……! あ、ありがとう……」


 しばらく二人で倒れたまま、目が合って、時間が止まる。

 正確には、時間は動いているのだけど、まるで二人だけ時が止まったような感じになる。

 心臓の鼓動が高鳴る。

 って、そんな場合じゃなかった。

 ハングリーベアはこうしている間にも、地面から手を抜いて、起き上がり、再びこちらに襲い掛かろうとしている。


「ガルルルル……!」


 ハングリーベアは、私たちより早く起き上がると、後ろから襲い掛かってくる。

 私は後ろで待機していたゴーレムたちに命令を出した。


「ゴーレムたち! 私たちを守って!」


 すると、ゴーレムたちが、ハングリーベアの前に立ちはだかった。


「ゴゴゴゴゴゴゴ」

「ガルルルル!!!!」


 ハングリーベアはおかまいなしに、ゴーレムに攻撃を加える。

 だけど、石や鉄でできたゴーレムが、そう簡単にやられるわけがない。


 ――キン!


 ハングリーベアの攻撃は、ゴーレムの堅い表皮に弾かれる。

 ハングリーベアの鋭い爪が欠けて、宙に舞う。


「ガルゥ……!?」


 ハングリーベアは痛みを感じたのか、のけぞって、ひるむ。

 今のうちだ。


「ゴーレム! やっちゃって!」

「ゴゴゴゴゴゴゴ!」


 ゴーレムたちが一斉にハングリーベアを取り囲み、パンチを加える。

 巨大な鉄の塊で殴られては、ハングリーベアとて無事ではすまない。

 ハングリーベアはノックダウンして、地面に倒れた。

 よし、トドメだ。

 私は起き上がると、魔法を唱えた。


「ファイアⅠ――!!!!」


 私の手から放たれた火炎球が、ハングリーベアに直撃する。


「ガルーーーー!」


 ハングリーベアはそのまま火炎に包まれて、絶命した。

 今日の夕飯は焼いた熊肉だな。


「ふぅ……危ないところだったな……」


 最初はいきなりのことで、放心状態になっていたヴィルも、ようやく落ち着いたようだ。


「……サクラ、すごいな……。ハングリーベアまで倒してしまうなんて……」

「ほんと、私も自分でびっくりだよ。こんな強敵は……ゴーレムのおかげだね」

「でも、サクラにはまた助けられてしまったな。本当に君は命の恩人だよ」

「ヴィルが無事でなによりだよ」


 それから、お互いに怪我がないか確認して、しばらく心が落ち着くのを待って、再び解散した。


「じゃあ、こんどこそ行くね。本当に、ありがとう。また絶対に来るよ」

「うん、こんどは襲われないでよ?」

「ああ、わかってる。今度くるときは、護衛を連れてくるよ」

「帰り道も、くれぐれも気を付けて」


 護衛……?って一瞬思ったけど、そりゃあそうだよね。

 森に独りで入ってくるなんて、結構危ない。

 きっと街では冒険者なんかを護衛に雇えるのだろう。

 それにしても、ノルンちゃんもヴィルも、一人で森の中に入ってくるし、みんな危機感ないよなぁ。

 まあ、そんな森の中に住んでいる私が言えたことじゃないけどね。

 

 この世界の人的には、昼間の森はそんなに安全っていう認識なのかな。

 まあ、私も昼間に危険な目にあったことはないから、たぶん大丈夫なのだろう。

 でも、じゃあなんで昼間にハングリーベアが暴れてたのかな。

 なにか、理由があったのか、それともたまたまなのか。

 詳しいことはわからないけど、森も絶対に安全ってわけじゃないよね。

 私も、これから気を付けないとな。

 ま、罠もゴーレムもあるし、大丈夫でしょ。


 その日は夜に熊肉を食べて、はやめに寝た。

 熊の手は筋肉がたくさんついていて、美味しいってきいたことがあったけど、本当に美味しかった。

 熊肉を食べたのはこれが初めてだった。

 一人で食べるご飯は、ちょっとだけさみしかった。

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