第2話 最初の夜


 しばらく木を切り倒していって、木材ブロック×500を集めることができた。

 うん、これだけあればとりあえずの家はつくれそうだね。

 私はインベントリから木材ブロックを選択し、地面に置いてみることにした。


「えい!」


 すると――ポン、と軽快な音と共に、地面に真四角の木材ブロックが現れた。

 大きさは大体1辺が1mの立方体。

 これなら私でも簡単に建築ができそうだね。


 私は次々にブロックを床に敷き詰めていった。

 床が出来たら次は壁。

 壁が出来たら天井。


 次は窓と扉をクラフトで作る。



 ◆木の窓

 必要素材

  ・木の棒×10


 ◆木の扉

 必要素材

  ・木の棒×15



 クラフトした窓と扉を設置して……っと。

 よし、これで完成だ……!


「って……これ、すごい豆腐ハウスだあああああああ」


 四角いブロックを並べて作っただけだから、ただの大きな立方体になってしまった。

 もっと装飾品とかで工夫できればいいんだけど……今のところクラフトレシピにそれらしきものはない。

 まあとりあえずはこれでいいか。

 今はとりあえず雨風をしのげて、夜を安全に過ごせる家があればいいや。

 この際だから見た目は気にしない。


 もっと生活基盤が整って、クラフトのレシピとかも増えたら、おいおいやっていこう。

 あ、階段とか作って、それを屋根に敷き詰めてもいいな。

 そしたら簡単な三角屋根くらいなら作れそうだ。

 まあそれも後回しでいいや。


 とりあえず、さっそく豆腐ハウスの中に入ってみよう。


「おじゃましまーす。って、私の家だった」


 扉を開けて中に入ると、中はめちゃくちゃ暗かった。

 わずかに窓から光が入ってるのみで、あとは真っ暗で不気味だ。


「これじゃ夜になったらなんも見えないな……。灯りが必要だ」


 なにか灯りになるものはないかな……っと。

 私はクラフトメニューを開いて、レシピを探す。


「あった、松明だ」


 

 ◆松明

 必要素材

  ・木の棒×1

  ・木炭または石炭×1

 


 だけどどうやら松明を作るには木炭が必要なようだ。

 木炭ってどうやって作るんだ?

 どうやらかまどで焼けばいいらしい。

 そして、かまどを作るには石ブロックが必要なようだ。

 石ブロックを取ってくるには、つるはしが必要だね。

 まずはつるはしを作ろう。



 ◆石のつるはし

 必要素材

  ・小石×10

  ・木の棒×1



「よしできた」


 さっそく石のつるはしで、その辺にあった大きな岩をコンコンと叩く。

 すると10回くらい叩くと、石ブロックが現れて、私のインベントリに収納された。

 私は無心で石ブロックを集めた。


「よし、こんなもんかな」

 

 集めた石ブロックでかまどを作る。



 ◆かまど

 必要素材

  ・石ブロック×10



「よしできた」


 家の中の壁際に、かまどを置いてみる。

 うん、なかなかいい感じ。

 さっそくかまどを使ってみよう。


 かまどに近づくと、かまどメニューが表示される。

 私はインベントリからいくつか木材をかまどの中に入れた。

 すると、かまどはチリチリ音を立てて燃えはじめた。


 真っ暗だった部屋の中がほわっと明るくなる。

 かまどの近くはほんのり暖かい。

 冬はこれも重宝しそうだ。


 しばらく待っていると、木炭ができあがった。

 私はさっそく木炭を取り出して、松明をクラフトした。

 完成した松明をいくつか部屋に置いてみる。


「おお……! 明るい!」


 これなら夜でも安心だね。

 なかなかおしゃれに置けたんじゃない?

 まあ、豆腐ハウスですけど……。

 

 家が出来たから、じゃあ今度は食料を確保しなきゃだなー。

 なに食べれるんだろう……?

 とりあえず、川を見つけたいな。

 魚とか釣って食べれればいいかもしれない。


 そういえば、泉があったよな。

 泉のほうに行ってみると、泉は川につながっているようだった。

 よし、この川で釣りしてみよう。


 まずは釣り竿をクラフトしよう。


 

 ◆釣り竿

 必要素材

  ・木の棒×3

  ・糸×3



「糸……!?」


 糸ってどこで手に入れたらいいんだろう……?

 もしかして、これでもいけるのかな……?

 私は木の間に張っていた蜘蛛の糸を見つける。

 試しに、蜘蛛の糸をはぎとってクラフトメニューに入れてみる。

 すると――。

 なんの問題もなく釣り竿が完成した。


「おお……! 蜘蛛の糸でもいけるんか……!」


 なんだか気持ち的に微妙だけど、この際蜘蛛の糸でもなんでもいいや。

 私はさっそく、釣り竿を川に垂らしてみる。

 エサはその辺で捕まえたミミズみたいな虫を使う。


 しばらく糸を垂らして待っていると……。


「お……! 来た来た来たぁ……!」


 思い切り釣り竿を引く。

 すると――。


「とったどおおおおおお!!!!」


 名前はわからないけど、おいしそうな魚が釣れた。

 これ、食えるやつなのかな……?

 そういえば、このゲームって鑑定スキルとかってあるのかな。

 私は魚に向かって目を凝らしてみた。

 んで、「鑑定!」って言ってみる。

 すると――。



 ◆オオアージ

  価値 100G

  鮮度 100%

  美味しさ ★×3

  食用の川魚


 

「おお……! 鑑定できた!」


 どうやら食べれるらしい。

 見た目はアジに似た魚だ。

 異世界の魚ってどんな味なんだろう。

 私はオオアージをインベントリにしまった。

 そのあと1時間ほど粘って、3匹ほど魚を釣り上げた。

 今日の釣果はこんなもんかな。


 日も暮れてきたので、家に戻る。

 夜の森……しかも異世界のゲーム世界の森……絶対に危険でいっぱいだ。

 とりあえず、家の外にも灯りを確保しよう。

 獣とかは火がついていれば寄ってこないはずだ。


 私はクラフトメニューから焚火を選択した。


 

 ◆焚火

 必要素材

  ・松明×5

  ・木の棒×10



 焚火をクラフトして、家の前に置く。

 家の前には切り倒した木の丸太があって、私はそこに座った。

 焚火の周りに、さっき釣った魚を木の枝に刺して置いてみる。

 

 しばらく待つと、魚からいい匂いがしてきた。

 うん、おいしそう。

 一日動いてお腹が空いていたので、私は焼いたばかりの魚にかぶりついた。


「うんめえええええええ!」


 調味料はないけれど、よくあぶらがのっていて美味い。

 なにより、自分で釣った魚っていうのもある。

 欲を言えば塩があればいいけど……。


 さて、お腹もいっぱいになったし、外も暗くなったし、そろそろ寝よう。

 家の中に入って、ベッドがないことに気づく。


「あ……これ、床で寝るパターン……?」


 ベッドをクラフトするには、羊毛が必要らしい。

 だけどこんな夜から羊毛を手に入れる術はない。

 しかたなく、私は木材ブロックを3つ並べて、簡易ベッドを作った。


「うーん、ただ木を並べただけだから硬い……」


 まあ、ほんの少しの我慢だ。

 冷たい地面の上で寝るのに比べればマシと思おう。


「ふぅ……おやすみ……」


 今日一日いろいろと頑張った。

 異世界初日、普段やらないいろんなことをやったな。

 こういうアウトドアなサバイバルは私に向いていない。

 だけど、あの社畜生活を思えば、とても自由な一日だった。

 明日からも仕事にいかなくていいと思うと、よく眠れた。


 真夜中、ドンドンという音で目が覚める。


「え……? なに……?」


 どうやら何者かが家の扉を叩いてるようだ。

 うそ……不審者……!?

 でもこんな森の中で……?


 飛び起きて、窓の外を見てみる。

 すると――。


「ぎゃあああああああああああああ!!!?」


 なんと家の扉を叩いていたのは、人間ではなく、ゾンビモンスターだった。


「ぐおおぉ………………」


 口から毒ヘドロを垂れ流している緑色の皮膚の化け物と目が合ってしまった。

 この森って、夜になるとあんなのが出るの……!?


「無理無理無理無理!!!!」


 え、殺されるの……!?

 怖すぎるんですけど……!?

 とりあえず私は石の斧を取り出して、扉の前にしゃがみ込む。

 もし扉を壊して中に入ってきたら、これで頭をかち割ってやる。

 

 だけど一向に扉は壊れる気配はなく――。


 ゾンビを警戒していたら、気づいたら朝になっていた。


「くそ……全然眠れなかった……」


 どうやらゾンビは家の中までは入ってこないみたい?

 とりあえず、外が明るくなったので、窓からのぞいてみる。

 すると――。


「ぐおおおおおおおおおおお!!!!」


 なんとゾンビたちは朝日に照らされて燃えていた。

 どうやらゾンビは日光に弱いようだ。

 ゾンビたちは頭から炎を噴き出しながらどこかへと去っていく。


「ふぅ……どうやら朝になれば襲ってこないみたいだね……」


 ゲームと違ってこっちは生身なんだから、なるべく危険な戦闘は避けたい。

 確実に勝てる敵とだけ戦おう……。


 ゾンビを見送り、私も日光を浴びに外に出る。

 大きく深呼吸し、朝の新鮮な空気を吸い込んだ、そのときだった。

 

「メッヘッヘ~!」


 森の中から、一匹の羊が現れて、私の方に向かってきた。


「うわ……!? なんだこのモフモフ……!?」

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