第31話 クズ、雑魚狩りを狩る
『……シェイド様、き、聞こえますでしょうか』
『おう、聞こえるぞ』
グリガネンがメガネを押さえながら念話してきた。
普通は額やこめかみに指を当てたりしそうだけど、やっぱりグリガネンの本体はメガネかもしれない。
『おし、念話も慣れてきたな。俺はプリンの足元にいるから適当に進んでくれ』
この先なるべくプリンの影に入って移動したい俺としては、こいつらと声以外のコミュニケーションを取る必要がある。余計なことを話されると困るからな。
念話は便利よ。
『それにしてもこのまま道なり歩けば楽勝だと思ったんだけどなぁ』
人の手が入った階層は、広々とした道が用意されていて、ちんたら歩けばポータルに着くと簡単に思っていたが。
「ヒャハー、ここから先は有料だぜぇ」
「荷物と女は置いていきなぁ!」
「お前らルーキーだろ、ダメじゃないかぁ。――護衛はちゃんと雇わないとよぉ!」
人の手が入るということは、その階層に拠点を設けて活動する奴らもいるということだ。
地上で何かをやらかしたお尋ね者や社会不適合者には、1階層や5階層のように各国の都市とつながる拠点がある階層は住みにくい。となれば、比較的魔物が弱い3階層は悪者達の溜まり場としては最適なのだろう。
『シェイド様、盗賊です。……正直、人数が多すぎて僕らでは無理です』
グリガネンがメガネを通して話しかけてくる。
いやメガネ関係ないわ。
同時にエンヤとプリンから『シェイド様案件』という念が伝わってくる。
「はぁ……そういうときは『先生、出番です』と言え」
プリンの足元から真っ黒い大玉サイズで飛び出てみた。
なお、アニメキャラの瞳は評判が悪いので今はのっぺらぼうだ。
「おいおいこんなデカい魔影初めて見たぜぇ!」
「お宝たんまりっ!」
「待て……なあ、今こいつ喋ってなかったか?」
俺の登場で荒くれ者たちのテンションが上がる。
「なあ、お前らみたいな奴はこの階層に多いのか?」
この場にいるのは前方に5人、背後に回り込んでいる奴らが3人の合計8人。
……少し離れた場所にもう1人いるな。
「おおん? 何だよお前ら、俺たちが怖くて最弱無能の魔影に隠れるとか雑魚すぎかよ」
「ギャハハハハ、情けねえテイマーがいたもんだぜ」
「喋るってことはテイムされると多少は知能が上がるのか? くひひ。いやぁメガネ君、器用だなぁ」
「おーい、こっちは準備いいぞ。……俺は女を攫うとするかギヒヒ。安心しろ、俺のスキルにかかればあっという間に天国気分だぜギヒィヒィ」
完全に囲まれたし、背後にいる奴らも不意打ちをすることもなく普通に話しかけてきた。
何人かは勘違いしているのか話が噛み合わない。
「くっ! みんな背中合わせで一つにかたまるぞ」
グリガネンたちが邪魔にならないように一箇所にかたまる。
「おーい、質問しているのは俺だぞ。どうなんだ、お前らみたいな社会のゴミの集団はこの階層には多いのか? 最大勢力とかさ、頭領がいるなら紹介してくれよ」
「……おい、メガネ! いい加減、てめえの口で話せよ。なめてんのか!?」
「泣く子も殺す盗賊団〝雑魚狩り〟たぁ俺達のことよ。ヘヘヘ」
「大道芸がしてぇなら地上に行けよ、ビビってお人形出すの忘れてるぞコラ」
……腹話術と思われてて悲しい。
あと〝雑魚狩り〟って名前はあまり格好よくないぞ。
「余裕があれば3階層の人間狩りしてもいいんだけどな。とりあえず安全地帯を確保するのが先だ……グリガネン、伏せッ!」
俺の指示に従って、グリガネンたちがさっと伏せる。
影糸を様子を見ている奴の足に気づかれないように巻きつけたし、ここの奴らは――
「鞭のイメージより、真っ直ぐ折れない超長剣……いや如意棒がいいか、アチョー!」
「グブァ!?」
黒い如意棒というより、物干し竿みたいな味気ない棒が前方の盗賊Aの腹を貫いた。
「しっかり頭を下げてろよ、ホアチャー!」
中華風なかけ声と同時に一周ぐるりと回せば、盗賊たちの上半身と下半身がすっぱりよ。ついでに伏せの仕方が甘かったエンヤのツンツン頭の中央部がゾリっと剃れて、落武者ヘアーになった。
「……ああっ俺の自慢の髪がぁ!」
エンヤが涼しくなった頭頂部分に両手を置いて消えた髪の毛を探している。
もう少し
危うく死ぬところだったんだから、お
魔空の中に次々と動かぬ盗賊たちをご案内、さくっと吸収して糧にしていく。
【短剣術+1】【細剣術+2】【脳汁分泌】【窃盗】【逃げ足】【ヘアカット】【投擲術+2】【罠解除】【隠密】【棒術+1】【気配察知】【ヘアメイク】【忍び足】【ひげ剃り】と盗賊系スキル、謎のスキル、重複スキルと……待て、美容師がいたのか!? あと【脳汁分泌】スキルってヤバない!?
「お前らもう立ってもいいぞ」
失ったものを探して泣いているエンヤがふらふらと立ち上がり、グリガネンたちも周囲を警戒しながら立ち上がる。
血も含めて吸収しているから道は綺麗なままだぞ。
「エンヤくん、落武者ヘアーは見苦しいからちょっとじっとしてろ」
水聖霊の涙でエンヤの頭を濡らし、短くざらざらする剃り残しを【ひげ剃り】スキルで整地する。中央フリーウェイがつるやかになったので、両側のばらついた赤い髪をそれぞれ集合させて――【ヘアメイク】
「よし、逆モヒカンの完成だ。酒瓶を額にくっつけて中身をグラスに注ぐ練習をしておくんだぞ」
「は? はあ……」
異世界間ギャップのせいか、エンヤは意味がわかっていないようで残念。
とりあえず変なスキルが活躍できて良かった。
『むう……私のおでこ狭いから難しいです』
コップをおでこに乗せようとしているアンジェ。
『アンジェは無理しなくていいぞ』
挑戦しようとする心意気は偉いので、
……あれ、気づいたらアンジェを甘やかしてないか。この俺が……!?
『……ぁ』
撫でるのをやめたら寂しそう、もう少しだけ続けておく。これはペットの飼い主としての義務だ、義務。
「おっほん! グリガネン君、盗賊は討伐したらなんか成果になるかね?」
黒い大玉に立派な髭を生やしてみた。
「そうですね、生きて捕まえれば奴隷として売れますが今回は……」
「生きて捕まえることはないなぁ……ダブったスキルとかもったいないけど、誰が持っているスキルかもわからないし、魔素も必要だからな。今後も見つけたら
ゴミ掃除して強くなるって異世界
さてと、遠目で様子を見てた盗賊くんは無事にアジトに逃げ込んだようだ。
頭領っぽいのが朝方のせいか眠そうにしながら話を聞いている。
「あー? 魔影のテイマー? 何言ってんだてめぇ、寝言は寝て言えぇぇぇ――」
イエーイ、早朝寝起きゴッフをどうぞ。
話の途中で魔空する、油断大敵よ!
しかし雑魚狩りの盗賊団の頭領はやっぱり雑魚だな。
目の前から頭領が消えるという不思議体験をした盗賊も、その辺でごろ寝している奴らも残さず魔空する。
アジトにあっためぼしい物……といってもほとんど吸収して、雑魚専門の盗賊団〝雑魚狩り〟は誰にも気づかれることなく壊滅した。
ちなみに、3階層はフォレストウルフ以外に森の熊さんことフォレストベアや角を構えて猪突猛進してくるホーンボアとかね、見かけたら魔空しておいた。
『【突進】――え、足が勝手に……――いーやーー! とまってーとまってーーーーーー!!』
……ホーンボアを倒してスキルを手に入れたアンジェが訓練場を走り回っていたけど、進路を横切る魔獣たちを蹴り飛ばして止めを刺していたので良しッ!
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