あやしい影に転生しましたァ!? 〜最弱無能の影になったクズは勝手気ままに最強を貪る〜

yatacrow

第1話 クズ、最弱無能に転生する


 腹がいてぇ。

 ピリピリピリピリと……。


 ここはどこだ……?


 ごつごつとした岩肌の天井から壁、俺の前後左右には真っ黒なピンポン玉がところ狭しとひしめき合い、俺の足元にはでこぼこの地面。その見えている。


 俺の視野ヤバない!?


 そして景色が自然と流れてる……後ろの黒ピンポンたちが俺を押してくるから。


 押すなよ、押すなよ、押すなよ……あれ、後ろの黒ピンポンたちが俺を押さなくなった?

 『3回押すなよ』は、強く押せって意味だ――ぁああああ!? って強く押してきたあぁ、嘘うそっ! 止まれ止まれぇ!


 ……止まった!


 なんだこいつら、俺の考えが伝わってるのか? 共感力すごいの? あれ? でも、俺より前にいる奴らは先に行っちゃった。


 俺は『鶏口牛後』よりも『牛の尻尾にぶら下がり』が好きだ。さっさと先行組に追いつこう。


「はい次ー!」

「よいしょお! 人が出ましたー」

「人は左ッ! 次ー!」

「あ、ほいよぉ! お宝出ましたー」

「お宝は右だ。次ー!」


 お? 薄暗い通路の終点か? 軽快なリズムと元気な掛け声がこっちまで届いている。


 前方が気になるけど、危険には近づきたくない。でも前の方が見たい……。


 ――松明の灯りに照らされて巨人な奴らの影が映る。

 一人は台座に何かを置き、一人はハンマーでそれを叩き割り、一人は割れたあとに飛び出る何か――人もいるらしい――をどこかへ運ぶ役回り。


 え? なんで見えてるの!? 黒いピンポン玉は俺の体の一部なのか? 謎ぉ!!


 巨人の作業は、置く、割る、出る、運ぶのリズムを繰り返している。


 ……問題なのは一人目が台座に何かを置くときのなんだよなー。


 手のひらサイズの玉を台座から転がらないように窪みに嵌めるような動きをしているのよ。


 松明が近づいてきて、シルエットだったものがはっきりと見えてきた。俺が視界を借りているであろう黒ピンポンに、巨人の手が伸びてきてつままれた。

 黒ピンポンは窪みに置かれ、もう一人の巨人の振り上げる鉄塊が俺に向かって……――ウゴッホぅ!?


 視界が切れた。

 あまりの大迫力に思わずゴリってしまった、ヤバない?


 なるほど、このまま進めば謎の巨人どもに掴まれ、窪みに置かれ、ハンマーでペッキンされちゃうわけね。完璧な未来視だて……。


 ――ってヤベぇよぉ!! 後ろのピンポンズは押すなよぉ! あ、お先にどうぞ! はい、どうぞ! あ、俺はまだ後ろで……。


 このピンポンズ、俺と同じ生物のようだが意思はないようだ。

 意思はないけど俺の意向に従い、感覚を共有できる謎。


 この先に明確な終わりが待っているにもかかわらず、ピンポンズはひたすら真っ直ぐ前へと進む。

 なんとなくだけど、俺も前方の何かに惹かれているから本能ってやつかも。


 それなら仮定として同じタイプの俺はなんなんだ?


 これからぺしゃんこになる未来を知った俺、死を感じて恐れる俺、元人間だった頃の記憶がある俺、世界の知識を持つ俺は一体……なんなんだよッ!?


 ――最期に見た景色は赤だった……。


 とか回想してる場合じゃない!


 考えろ、逃げるな、いや逃げるために考えろッ!

 意思のない黒ピンポンの中で生まれた俺にはがある。


 まず逃げ道としては1つ目、逆走。

 2つ目、3つ目はあの巨人たちの隙をついて、右か左かの道に逃げる。


「ほらほら止まるな、進めぇー」


 1つ目の案は秒で潰えた。

 巨人……緑色の皮膚、醜悪な顔の奴が後ろから松明の光を振り回して最後尾の黒ピンポンたちを追い立てる。


 2つ目、人が運ばれる道。3つ目はお宝への道。

 お宝ざくざくぅ! に行ってみたいが、おそらくお宝なんて倉庫かどん詰まりに置いていく感じだろ。


 人を運んでどうするのか想像したくないが、この醜悪な巨人たちは女なら襲いそうだし、男なら食べそう (偏見)

 だって見た目がゴブリンだもの。


 俺の大きさがリアルにピンポン玉の大きさとするなら、こいつらは巨人だ。

 しかし、もしも俺が人間だったら見下ろせるぐらいの背たけだし、何よりブサイクな顔を晒す人型。


 ……それはもうゴブリンだもの。


「あん?」

「どしたべ?」

「……いやぁ? なんか魔影まかげから視線を感じてよ」

「ギャハッ! 魔影は何も考えてねえべ。お前、疲れてんだべ」

「だよなぁ、魔影は本能で近くにあるものを体内に入れるだけの無意思の魔獣……プッ! 考える頭がねえから獣扱いされてっけど、一緒にされる獣が可哀想だな」

「自分より大きなもんをどうやって中に入れてんだべ?」

「さてな、俺も詳しくは知らねえ。容量はあるのとあまり長いことは入れられねえってことだけ覚えてるぞ」


 マンガあるあるな設定の説明ありがとう。ただ馬鹿にされてムカつくからいつかコロりんしてやる。


 俺は魔影なのか? で、腹の中に何かを入れている。意識を腹に……――


『え?』


 ……なんかいるぅ!? 目が合ったんだけど!! 俺の謎空間、先住民がいるんですけどぉっ!?


 ピリピリする敷物の上に、いくつか物が置かれていて、その一つを使って水を飲んでいる奴と目が合った。なにあれこわい。


「んだぁ? なんか一匹止まってるべ」

「ほら、さっさとすすめぇ!」


 謎空間の謎生物にびびっていたら、いつの間にか最後尾になっていた。

 松明の火の熱さというより、光が近づくと体が削られる気分になる。少し前に進んでおくか。


『あのぅ……?』


 無視だ、無視。


『あれぇ、気づいていないのかな。〝水聖霊の涙〟お借りしてま~す』


 さっきの水が出る道具? いや俺のかどうかもわからないけど!?


 落ち着かないから、いっそ先頭まで行って謎空間の生物を取り出してもらうか?

 いや、それは俺が死ぬから却下。


 謎空間のなかを消化……ピリピリが無理かも。

 ものすごく頑張れば消化できそうだけど、不味そうなので残したい。


 そもそもさ、俺って最弱の魔獣って言われてたけど、本能で行動するのが魔獣だとするなら、俺は一体なんなんだ?

 意思のない魔影と同種にして意思がある俺。


 我ら個にして全みたいな? ヤバない?


 疑問だらけで頭がおかしくなりそうだけど、抱える頭がどこかもわからない!


 まずは謎空間は忘れて、目の前の危機について考えよう。


 ――お前ら、俺に同調できるなら速度を落としてくれ。


 おお、スピードが落ちてきた。やるやん!


 こいつらは俺の指示に従うから子分だな。

 あ、最後尾の子分たちが松明の光を嫌って押してくる。ふーん、俺の意思より本能に従う感じか。


 集団全体に俺の意思をつなぐイメージで、浸透させていく。

 いいぞ、先頭集団は少しずつゆっくり進め。


 周囲の岩壁や天井、床に隠れられるような場所はない。


 となると、ゴブリンたちの作業リズムを狂わせて一気に突入で奥に逃げるしかないか。

 ……あと何かプラスワン欲しい。


 そうだ、中身を放り出せばゴブリンたちがそっちに気を取られるのでは? よし、お前ら中身を外に出すのだ! ……本能的に出したくないって? おのれ本能っ!!


『あのー? あれ聞こえないのかなぁ。すみませーん』


 じゃ、俺の中身を外に……? いや、あれを外に出すのはちょっと怖いな。ずっと呼ばれてて恐怖しかない。


 隣を転がる魔影くんを見る。

 そうだ! 君の謎空間に俺が入ることで、君は割れるけど、俺は割れない! どうよこのマトリョーシカ作戦は。

 ……え? 同種は入れない? 吸収するかされるかだと? 俺が吸収されたら死ぬだろがい! むしろお前を吸収してやるよ! ピタリと体を合わせて――吸収!


 ……おお! なんか体に力がみなぎるぅ!! けど腹のピリピリが二つに増えて苦しいっ!


『わわっ! 新しい聖遺物せいいぶつだ。すごい〝木々の恵み〟〝常闇とこやみ聖光せいこう〟もある!』


 謎生物が勝手にお届け物を開いて、謎アイテムを使い始めた。

 とこやみの……なんて? と思っていたら、謎生物が何かを呟いた。

 謎生物の頭部と同じぐらいの大きさの球体に光が宿り、そのままふわふわと宙に浮く。

 ピリピリどころかビリビリビリビリィ!? 衝撃がっ! おい、やめろ――


『ぐぇえええ! おい、それ消せ! 腹がいてぇ!!』


『ええっ! あ、ごめんなさいっ』


 一瞬だけ謎生物が見えたけど、謝罪の言葉とともに高速ヘッドバンキングしている白い髪の少女だった。これは怖い。


 あー腹いてぇ、くそが。


「――はい、次ー!」


 作戦らしきものも立てられないまま、前方のゴブリントリオの姿が俺本体の視界にも入ってきた。

 謎生物と意思疎通ができることはわかったが、まずは死地から脱することが大事よ。

 もう作戦というよりゴリ押しだけど、渋滞を作ってから団子状態で一気にあのデスゾーンを突っ切るしかない。


 成功率を上げるためにも、移動速度に緩急つけてゴブリンズのリズムを狂わせていこう。


 あの三匹のリズムは、置く、叩く、中身をどかす。

 このサイクルが早くなればだんだん雑になってくるはず。


 一匹ずつ丁寧にやっていた作業を、二匹まとめて、三匹まとめて……それでも作業が成立するぎりぎりを見極めていく。


「ほっ、ほっ、ほっ、ほほっ、ほほっ、ほほほいっ」

「はい! はい! はい! はいはい! はいはいはい!」

「右っ左っ右っ右っ……ちょっ! ペースが……おらだけ負担でかいべぇ!」


 選別役のゴブリンの不平不満も聞き流し、せっせと同胞たちを死地へと送り出す。


 さあ、そろそろ俺たちの番だ。


 ――同胞よ、せーので台座を越えて右と左に分かれて逃げろ!


 せーのッ! トッツゲッキィー!!


「ギパッ!? おい、魔影の奴らどうしたんだ!」

「処理が追いつかねえ、わあ逃がした!」

「ばぁか、逃がしたらやべぇべ!」

「いいから探せッ! に入られると面倒だ!」

「追うべ!」


 ははっ大成功ッ! と浮かれる間もなく集団で左の道を進んでいくと地獄にたどり着いた。


「アハハー?」

「夢よ目覚めて……」

「ひっ……ひっ……ひっ……ひ」

「ちがいますちがいますちがいますちがいます」


 体操座りで前後に揺れる奴がいたり、檻にしがみつくやつ、宙に何かを書いているやつとヤバそうな空気が漂っている。


 こっちは牢屋のどん詰まりだった。じゃ右に行った奴らはどうなった? 視界共有――あ、予想通りこっちは倉庫か。


 正解は『来た道を戻るでしたー』って誰が考えたこのクソ問題ッ!


 後ろからギャアギァアとゴブリンどもの声がする。


 くそ、集団エスケープ失敗か。

 ……なら集団で目立たないように1つにまとまるしかない!


 ――この辺の魔影集合ー! からの吸収開始!! 合体合体、ピリピリがキツい……一部を牢屋内にリリースしておく。


 オエッと出てくる新しい人間たち&お宝たち。

 中身を抜いた魔影を吸収する。おお、すんごいエネルギーが流れ込んでくる――み、な、ぎ、るうぅぅぅ!!


 湧き上がる全能感、レベルアップしてるようなこの感覚ッ!


 今ならゴブリンどもにも勝てそうだ――



――――――――――――――――――――――

あとがき


拙作をお読みいただき、ありがとうございます!


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