勇者が魔王を倒したので、勇者は魔王城を管理することになりました

愛内那由多

魔王討伐後の勇者

 

 大理石でできた城の大広間にて、その儀式は行われている。

 異世界から転生してきた勇者は魔王を倒した。その功績をたたえて、今、勇者に聖王国の国王から直々に感謝の言葉が与えられる。

「勇者よ、そなたの魔王討伐の偉業、いくら感謝しても足りない。余がそなたに賜う宝物はそなたをたたえるのには小さ過ぎる。が、これが、余の、ひいいては、この聖王国の最大の賞賛であることを、理解してもらえるか?」

 その宝物で、勇者は一生を遊んで暮らせる。いや、孫の孫の代まで遊んで暮らせるほどだろう。

「痛み入ります、国王陛下」

 勇者は片膝を立てたまま、言った。

(ここまで長かったなぁ)

 勇者は思い出す。前の世界のことを。



 勇者はこの世界に来るまで、サラリーマンとして働いていた。けれども、その生活は豊かとは無縁だった。

 朝から晩まで働いて、睡眠時間は1日5時間。3時間なんて日もざらにあった。食生活も、当然乱れに乱れて、三食カップラーメンとコンビニ弁当のローテーション。

 そんな生活で、長生きできる訳もなく、30を手前にその世界では死んでしまう。

(こんなのってあんまりだ)

 恋も知らない。人生の楽しみも、喜びも分からない。なのに、死を迎えてしまった。


 けれど、奇跡が起きる。


 彼は異世界で、勇者として転生し、魔王を倒した。

(魔王を倒したという地位、使い切れないほどの金……。それだけあれば、スローライフできるな)

 勇者はそんなことを考えていた。

(あとは……)



「勇者よ、さらに余から、そなたへの頼みがある」

「なんなりとお申し付けください。閣下」

(もう、のんびりと暮らしたいなぁ)

「そなたが倒した魔王の残党は、まだ魔王城の付近に多い。この国の安寧のため、そなたに魔王城の管理を任せたい」

「御意に」

 勇者ははっきりと言った。

(なんだ……それ……)

 勇者は国王の言いたいことが理解できなかった。

 これが後世における、聖王国最大の汚点になる。



 翌日、早速勇者は無人になった魔王城に向かった。

(まさか、勇者の自分が、魔王城の管理を任されるなんてな……)

 勇者は多少なりとも、不安を感じている。道中で何度思ったか分からない。

(魔王の残党と、その魔物。どちらも魔王を倒した勇者でなくとも、倒せるのではないか?)

 そういう疑念があった。国王は、勇者が邪魔だったのではないか、と。

しかし、国王は勇者をねぎらうつもりで、魔王城を任せたのではないだろうか?と思いもある。

仲間が何人も死んだ。その何十倍も多くの敵を殺してきた。最後の戦いで、勇者はひとりになった。

 そんな、戦いの日を忘れられるように国王は勇者に魔王城を任せたのではないだろうか。

 勇者はそう思うことにした。

 これからの平穏な日常に、勇者は期待し始めた。

(まぁ、なんとかなるか)



 勇者はスローライフを満喫していた。

 魔王の残党はほぼいない。年に数回来るか来ないか。戦いはスローライフの敵であるの勇者にはそれが心地よかった。

(なにもせずにダラダラできるの。最高だな)

 家事も、城の手入れも、なにもかも下僕にやらせればいい。勇者は家主として、ただ単に、そこにいるだけでいい。

 さらに、夜になれば勇者の元に可憐な少女から、絶世の美女までが彼を慰めに来る。花弁に蜜を垂らしたような欲望がいくらでも満たせる。

(異世界ハーレムなんて簡単に作れていいなぁ)

聖王国で国王の次に自身の欲望はなんでも満たすことができた。

 けれど、いつの間にか『飽き』がくる。



 (なんか……退屈だ)

 花弁に囲まれながら、勇者はなぜ自身の退屈が満たせないのかを考えた。甘ったるい匂いがするベットで、どうにかそれを無視しようとする。

 美酒だって、美食だって、美女だって、財産だって、権力だっていくらでもある。   

 けれども、退屈だった。

 勇者は退屈のあまり、下僕を集めた。そして、最悪の言葉を口にする。

「この中に役に立たない人がいるなら、首を切り落とす」

 勇者は命令を下した。

 選出されたのは城のガラスを割ったメイド、仕事の遅い庭師、警報を間違えて鳴らしたことのある衛兵である。

 この命令に従い、3人の下僕の首を、勇者ははねた。

(なんか……いい)

 勇者の飽きと退屈は消える。



勇者が聖王国に戦争を仕掛けたのは、魔王を倒してから3年後のことだった。勇者は3人の下僕の首をはねてから、自身の心境に驚いた。

(俺は、人を殺すことでしか生きていけない)

聖王国は勇者のいる魔王城に1万の兵を送った。国王は勇者が裏切ったと半信半疑だったため、わずかな兵、それも陣を構えさせるのみである。けれども、そんな半端な人数では、勇者の前では嵐の中のロウソクのようなものだ。勇者はわずか半日で1万人を鏖殺おうさつした。

 このとき、勇者は自分が戦いの中でしかいきられないという思いは確信に変わった。勇者は自身の国を持つため、聖王国にたいし、本気で戦争を仕掛ける。

 その戦争は、半年で終戦となった。あまりに勇者が強すぎたことが主な原因である。聖王国の兵、計30万が5回に及ぶ大規模攻撃をしたにもかかわらず、勇者と魔王城には全く意味を成さなかった。そのため、聖王国が白旗を揚げた。

 勇者はこのとき条約を結び、勇者は自身の国を『勇者国』と名付けて、治めることとなった。そのときにはもう、勇者を慕う者はなく、ただ、敵として恐れられるだけ。

 このときになって、はじめて聖王国の国王は、異世界からの使者を激しく憎んだ。そして、ある決断をする。



 それから、何十年かして、勇者国に聖王国からの旅人がやってくる。

 それは――新しい勇者だった。

その勇者は、かつての勇者に言った。

「貴様が魔王か!!」

 聖王国は、異世界からの勇者を新たな『魔王』と認定して、多くの勇者を討伐に向かわせたのだ。

 新たな魔王は、新たな勇者に首をはねられた。



 その後、聖王国では条件を満たさない異世界からの使者は斬首にする法律が定められた。その法律を定めた聖王国の王曰く、

「行き過ぎた正義感。倫理観の欠如。こちらの世界の常識を知ろうとしない。傍若無人で好き勝手生きていけると思っている者は、聖王国の敵である」

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勇者が魔王を倒したので、勇者は魔王城を管理することになりました 愛内那由多 @gafeg

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