第36話 努力しないで魔術を使いたい ※ルジーナ視点
やったー!!!!!
魔術の才能が!!!! あったみたい!!!!!
『魔力持ち』は10人に一人しかいないすごい力。
実は私、うまれた時の『魔力持ち』の判定なんて受けてなかったの。
筋モノのパパがお金を出してくれなかったとかで、ママは非合法の助産師さんを使って産んだんだって!」
あれ? でも私の父親はお父様よね? あれ? どういうこと?
まいっか、難しいことはいいの!
私が『魔力持ち』で、ママとお父様が好きってことだけが大事なこと!
というわけで私は魔術学校に入学する資格を得た。
でも学校に通ったこともないから、読み書きはあんまりできないし、計算なんて全然。
どうやら入学資格があるからって、すぐに入学できるわけじゃないらしい。
私が魔力を爆発させた一週間後、
魔術に関する偉い職員さん? たちは私とママのところにやってきた。
そして私にいろんな検査をさせた上で、うーんと頭を悩ませていた。
「魔力は強いが、問題は全く学校に通っていないことだ……」
「元々は生活態度を更生させたのち、公立学校に行かせる予定だったのだろう? やはりその流れのままの方が……」
「それで間に合うだろうか、しかし……」
彼らはいろいろ考えた末、私にこう提案してきた。
「働きながら学校に行かないか」
学校にいくのはいいなあと思ったけど、働きながらなんて無理!
それに学校も、お姉様のようなキラキラした学校じゃなくて平民が押し込まれるつまらない学校らしいし。お金がかからないと言われても、気乗りしない。
私がそんなことを言うと、偉い職員さんたちは困った顔をして「また来ます」と言って去っていった。
話し合いが終わった後、私はママと顔を見合わせた。
「ママー、私どうすればいいの?」
「ママもよくわからないわ。でもすぐに魔術を使えるわけじゃなさそうね」
「……つまんない
結局また、皿洗いの日々に逆戻りするようだ。
私は嫌になった。こんな苦労したくない!
せっかくあんな強い魔術が使えるのに!
「お姉様は、学校でキラキラしながら、魔術を使って楽しくやってるのに……」
ずるい、と思った。
◇◇◇
それから十日ほど経った。
結局あれから偉い人は来ないし、私も魔術は使っちゃいけないと厳しく言われている。つまらないと思う。
あれからいろんな人に話を聞いた。
魔術は資格がないと使えないということ。
平民でも貴族でも、学ばないと強い魔術は使えないということ。
つまり、全く学んでいないのにいきなり魔術が使えた、私は超天才ってこと。
「超天才なのに、皿洗いとか雑用とかしかしてないとか、ありえないー」
ある日。
私がぶつぶつ言いながら洗濯物を干していると、木陰から男の人が手招きをしてきた。周りを見回しても、私以外の人は誰もいない。
私はその男の人を睨んだ。
「誰?」
「まあまあ、こっちにおいで、こっちに」
「えー」
私はブザーを手に持ちつつ、そーっと近づく。
そこにはいかにも「どこからか脱走してきました!」といった感じの、汚いおじさんがいた。
「わあ、あなたは誰?」
「逃げ出したロリペドリッシュだよ」
「わー! おまわりさーん!!」
「待って待ってブザー鳴らさないで通報しないで」
大慌てでおじさんは自分の懐を探って、汗でぬるいた手で薬を渡してきた。
「うわ汚い」
「そう言わないで」
おじさんはずずいと私に差し出してくる。
「この薬を飲めば、30分ほどは魔力を大放出できる。なんだってできる」
「ウソッすごい! 欲しい!」
私はすぐに受け取った。おじさんはにっこりと笑う。
「あげるよ。その代わりに、ルジーナちゃんにお願いしたいことがあるんだ」
「何?」
おじさんにルジーナちゃんと呼ばれるとちょっとゾワゾワするなあ、と思いながら、私は尋ねた。だってすごいお薬くれるなら優しくしたいもの。
そんな私に、おじさんはニヤリと笑った。
「ヴィルデイジー男爵家をめちゃくちゃにしたやつに、復讐したいと思わないかい?」
「ふく、しゅう……?」
「そうだ、復讐だ。学園にはフェリシア・ヴィルデイジーを庇う貴族令息たちが山ほどいる。イケメンで学歴もあって家柄も良くて、しかも将来有望で自分たちの未来に何の憂いもないような陽キャ共が……ぶつぶつ」
「なんて言ってるかよく聞き取れないよう」
「おっとすまないね。とにかく、君のお姉さんをちやほやしながら、呑気に暮らしている連中に復讐して欲しいんだ。 君のその魔力でね」
「……私の……魔力で……」
おじさんの甘い言葉を耳にしながら、私は思い出したの。
あの、お父様を誘惑していたすっごい美少年を。
あの人のせいで私たちはめちゃくちゃになったの!
「あの美少年に……お父様をダメにしちゃった、あの美少年に復讐できる?」
「おじさんには誰のことかわからないが、できるよ! きっとできる! そうだ、その美少年はあの忌々しいコーデリック公爵家の人間に決まっている!」
「そうなの?」
「おじさんはよくわからないけれど、多分そうだ! なぜならヴィルデイジー家担当の破産管財人は、コーデリック公爵家の縁の者と聞いているからな! わしを逮捕した連中も、ヴィルデイジー男爵家が破産してすぐに逮捕状を出してきたし……おおっと、その話は置いておこうか」
おじさんは変なことをあれこれ言っている。
でも私にはどうでも良かった。
あの美少年に復讐できるかもしれない。魔力を思いっきり使えるかもしれない。
ーーお姉ちゃんを、ちょっと困らせることができるかもしれない。
それだけで、私は十分だった。
「よし、やるわ! 私に任せて!いんがおほほよ! いんがおほほ!! ほーっほっほっほ!」
「因果応報だよ、お嬢ちゃん」
「おーほっほっほ」
「いひひひひ」
私たちはひとしきり笑ったあと、木陰で急いで計画を練った。
「今魔術学園は学園祭をやっている。呑気なことで、誰でも入って楽しむことができるんだ。……在学生の親族であるルジーナちゃんは、絶対潜入することができる」
「ええ、やってやるわ。……思いっきり、めちゃくちゃにしてやるんだから」
ルジーナは薬を握りしめた。
二人の暗い企みはーー文化祭で浮かれた、魔術学園を襲撃する!!
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