第90話 共闘

アシリアは、1歩、後ろに下がった。

替りにキリシアが前に出る。

その左手が、ムチのようにしなった。



かわした。


そう思ったドミトラの顔が跳ね上がった。

さっきよりも軽い。しかし、その分疾パンチだった。

続けざまに、顔面を捉える。


鼻が潰れ、鼻血が顔を濡らした。

本当ならその程度は、ダメージにならない。

ドミトラは、“貴族”の血を引くものだ。耐久力も回復力も再生も、人間をはるかに上回る。


だが、怒りに任せて突進しようとするドミトラの顔をパンチは、揺らし続けた。


ずる。

ドミトラの足元の地面が浮かび上がった。


魔法?

いやいや、そんなものではない。


打撃が脳を揺らして、平行感覚を失っただけだ。

意識はある。だが、立てない。



タマルアルジュイラと呼んだ黒い円形の盾をもったトーアが、ドミトラを庇った。


「よけいなことを!」


地面には倒れたまま、ドミトラは言った。


「そう思うならば5秒で回復しろ。」

トーアが呻いた。

「次は、魔法攻撃が来る。わたしの盾は不完全だ。そう長くはもたない。」


次の瞬間。

二人の足元が陥没した。

ほとんど、腰まで埋まったトーアは、動くことも出来ない。

冷笑をうかべるギリシアの後ろで、アリシアは、自分の魔法の杖、その先端を面につきこんでいた。


反射的に飛び上がって、難を逃れたたドミトラを、またキリシアの拳撃が襲う。


「大きく、避けるんだ!」

トーアは叫んだ。

「ギリギリで見切ろうとするな! 相手の術中に嵌る!」


言われた通りに、空中に逃れたドミトラを、アリシアの火炎放射が襲った。

手にした鎖で、それをなぎ払いながら急降下。

トーアを抱き抱えて、半分埋まった彼女を助け出そうとする。


「バカモノが! 悪手だ。」


またも、キリシアの拳が、ドミトラに炸裂した。その打撃からトーアをまもるために、ドミトラはそのパンチをかわさずに、すべて自分の体で受け止めた。


「これでいい。」


ドミトラは、血まみれになった顔で、笑った。


「所詮は人間の筋力、人間の技が生み出す打撃だ。打たれるものと、覚悟したいれば耐えられる。」


土の中から、抱き抱えられるようにして救い出されて、トーアは、彼女の盾、

タマルアルジュイラを掲げた。

その盾の上部にヒビが入った。


ヒビの間から、光がもれた。


「なにをするのか、わかりませんが」

アシリアの杖の宝玉が真っ赤に輝いた。

「させません!」


赤い衝撃波が、トーアとドミトラを襲った。


ドミトラの鎖は、渦を巻いて、2人のを守ろうとしたが、一瞬で切断された。

掲げられたトーアの盾もまた。


ひび割れした、上半分が砕け、破片となって飛び散った。


「終わり、だ。」


キリシア前に立ち塞がったドミトラに

に、キリシアの拳が襲いかかる。 たまが、それは拳ではない。

指をヤイバに。

そのまま、人体につき込む、手刀であった。


ドミトラの顔は、頬からコメカミまで、ざっくりと切り裂かれ、腹部に孔が穿たれた。

出血の量はこれまでの比ではない。


鮮血を吹き上げながら、それでもトーアを守るように、その前に立ち塞がるドミトラの胸に。


キリシアは、指をつき込んだ。


少年の口から鮮血が溢れた。


「お前の心臓を握ったぞ?」

キリシアは、返り血でそまった顔で笑った。

「ここまで、しなくても。と思うが、ここまでしなくては倒れないなら、そらはそれで、あっばれではある。

せめて、苦痛なく滅びよ。」


「ひいて! キリシア!」


理由も分からず。しかし、キリシアは、アシリアの言葉に従った。

その目前を、黒い塊が通過してい

った。、


一瞬でも遅れていたら、それに腕を上げ切断されていただろう。


通り過ぎた黒い塊は、再度旋回して、キリシアを襲う。


「さっき、砕いたヤツの盾よ!」


アシリアが叫んだ。


「正確には砕いたんじゃなくって、自ら分離したのよ。破片は三つ。

来るわよ!」


そう言いながら、キリシアは、再び赤い衝撃波を放った。


もつ、本来あるべき姿の3分の1ホどらに、なってしまったトーアの盾はなんとか、その衝撃波を防いだ。


盾の破片の攻撃はやっかいだった。


目に止まらぬほどの早さで飛行するのに加えて、人間を一撃でうち倒せるだけの質量をもっている。

それでもキリシアは、感と反射神経で。

アシリアは、魔法障壁を展開することで。

なんとかその直撃から逃れた。



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