第79話 千剣
「楽しそうに見える。」
と、アウラが言った。
そうかな。
ぼくは、自分の顔を撫でた。
相変わらず、ランゴバルド冒険者学校は、賑やかだ。
標準的には、15、6歳で入学。だいたい3年で卒業なのだが、これは個人差がある。
読み書きから教えないとならないような10に満たない子どもの姿もある。
逆に、いいおっさんが、顎髭を掻きながら、ベンチで寝そべったりしてるのは、既に自分の住む地域では、いっぱしの冒険者として生計がたってる連中だ。
正式な冒険者資格がいまさらながら必要になって、授業料が破格に安いランゴバルド冒険者学校に資格を取りにきたのが、こんなタイプである。
「なんでいまさら、正規の冒険者資格がとりたくなるのかな。」
闘技場に向かいながら、そう言うアデルも、楽しそうだ。
物珍しそうに周りをキョロキョロしている。
なにしろ、ランゴバルド冒険者学校には土地に制限がなく、建物は基本立て放題なのだ。
たぶん、北方育ちのアデルは、初めて見るような数十階建ての建築物がいくつも立ち並んでいる。
「なんだと思う?」
「うーん、西域で冒険をしたいから?」
「それはけっこう少数派だよ。」
ぼくは言った。
「たいていの場合は、結婚とか地元の街でギルドを開きたいとか、そんな理由になる。
ようするに、泊をつけたいんだよな。
ここで、何年か我慢すれば、一人前の冒険者としての資格が手に入る。」
「物知りだな、ルウエン。」
アデルは、通りかかった同じくらいの年頃の学生が食べていた、揚げ団子を串にさした食べ物をみて、あれが食べたいと、騒いだが、ぼくらは持ち合わせもなく、そもそも学校内の施設が、学生でもないぼくらにものを売ってくれるかどうか、定かではなく……。
「おまえらっ!!」
ぼくらを先導するシールドさんが、顔を赤くしてどなった。
「はい、なんですか? ちゃんとついて行ってますよ?」
「でかい声て怒鳴るな。恥ずかしいだろう。」
「これから、おまえたちは、わたしに殺されるんだ。なぜ、そんな呑気にしていられる。」
「きいたか、ルウエン。これは稽古じゃなくて、実戦らしい。」
アデルは、物凄くうれしそうだった。
「これなら、怪我をさせても大丈夫だってことだよな?」
「ダメだよ、アデル。」
ぼくは、言った。
「シールドさんみたいなタイプは、いくら負かしても負けたと認めない。恨みつらみだけを増幅させてくるタイプなんだ。」
「それは困るな。」
「だから、徹底的に負けたと思わせないとダメだし、かと言って殺してしまうと、あとおとぼくらの学園生活が暗くなってしまう。」
「着いたぞっ!!」
シールドさんは振り返った。
そこは雨ざらしの小さな窪地。
直径は50メトルもあるだろうか。
四隅にたつ石像は、衝撃が外部にもれないための障壁をはるための装置だろう。
事実、シールドさんが、小声でなにか唱えると、案の定、石像から光のベールが立ち上がって、窪地を包んだ。
「これでおまえたちは、逃げられない。」
シールドさんは、宣言した。
「やれることはすべて、やって見るがいい。
泣き叫んで助けを呼ぶことも含めてな。」
ダン!
と、シールドさんは、足を踏み鳴らした。
足元の地面から、剣が垂直に飛び出した。
一本ではない。
二本、三本、四本。
次々と剣が、飛び出す。
シールドさんを、囲むように、八本の剣がうかんだ。
「驚いたか?」
剣はそのまま、ゆっくりと回転し始めた。シールドさんを守るように。
「冒険者としてデビューしたら、“千剣”のシールドとな乗ろうと思っている。」
そのまま。
さらに剣の動きは加速する。
ほとんど、人間の目にはとまらない速さに。
「“千剣”は盛りすぎでは。」
ぼくは言った。
「剣の数ってせいぜい12本くらいでしょ?。」
アデルは、少し腰を落とした。
アデルの、その妙な形状の剣は、前から気になってはいたのだ。長さは通常の片手持ちの長剣程度。
だが、先端に行くに連れて膨らみ、また剣の肉厚も増している。
おそらくは、戦場働きなどは、そうした剣の方がよい事も、あるだろう。
剣の刃は、するどすぎると脆い。
剣と剣が噛み合えば、刃こぼれもするし、曲がることもある。
、血と脂に塗れれば、斬れ味は格段に落ちる。
そんなとき、重量でたたき割りができるまるで、斧に似た刃先をもつこの件なら剣ならば、長い戦闘にも耐える「」知れない。
ならば。彼女にこの剣を与えたアウデリアさんか大公陛下は、最初から一対多の戦いを想定していたのか。
そして、疑問の二つ目。
肉厚の剣は頑丈ではあるが、どうしても剣速は、遅くなる。
すなわち、決闘には不利。
いや。そもそも武器が重ければ長時間の戦闘にも不向きだ。
いったいアウデリアさんは、なにを考えて。
ぼくの愚考は、一瞬で消滅した。
アデルの一閃は、同時に二本の剣を叩き折っていた。
なるほど。
アデルの筋肉の搭載は、いささか過剰なような気もしたがちゃんと理に叶っている、というわけだ。
「ば、ばけものめ。」
シールドさんが埋めいた。
確かにね。この重さの剣でこの斬撃を放たれたら、青ざめるよね。
「まったくだよ。」
アデルが頷いた。
え、なんでそろってぼくを見る?
ぼくは、出現した剣の一本をキャッチして、もう一本を薙ぎ払っただけだぞ?
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