第11話 空中戦(後)
さっき、ナセルが思ったのと、同じことをルーデウスも思った。
剣の先に無理やり斧の形状をした刃をつけても、重くて、バランスが悪いだけだろう。
さらにいえば、この巨体に対して、剣士が振り回す刀がどれだけの損傷を与えられるのか。
全力で刺そうが切ろうが、果たして、ダメージになるのだろうか。
巨大な白骨の尾は、自在に動いて、アデルを襲う。アデルは作り出した空気の塊を足場に、空を駆けているが、速度としては、そんなに早くはない。
尾は、アデルの下方、足元の方向から迫った。
たしかにアデルは、天才肌だ。
ルーデウスは、素直にそれは認めた。しかも武技に魔法に、よく訓練されている。
おそらく、飛翔の魔法もまったく使えないのではないのだろう。
単に「使える」と、実戦で「使える」ものを自分のなかで、きちんと判断し、使えないものはそれに代用できるものを用意する。
才能だけではない。
運用もまた非凡である。
ルーデウスは、援護の魔法を発動しようとして…失速して墜落しかかった。
複数魔法の同時発動は、ルーデウスにとっては鬼門なのだ。
いくら、才能豊かなものが、高度な訓練を受けていたとしても、はじめて戦う相手のはずだ。
しかも場所は、空中。
たしかに、圧縮した空気を足場にして、ジャンプし続けることで、空中に留まりつづけるのも天才的な発想である。
だが。
高度な剣の訓練を、おそらくは剣聖クラスの達人から指導をうけたとしても。
いや、指導をうけたからこそ。
足元から、逆しまに浮かび上がる攻撃に対処するすべなど、剣術で習うのだろうか。
真摯に学んだものこそ、予想外、想定外の攻撃には脆かったりするのだ。
果たして、アルデは。
くるり。
アデルは引き締まった体を空中で回転させると、そのまま、新しく後方に作り出した空気の足場を蹴って、自ら巨大な骨の尾に突進した。
切っ先を、相手に向けて。
尾のスピード、質量、アルデの技、剣のするどさ。角度。
剣は半ばまで、尾に突き刺さった。
アルデは、足から、尾に着地すると。そのまま。
剣の束を両手で握り直して、尾の上を走り出した。
バキ!
バキバキバキ!!
ほとんど肉も革も失った骨の尾から、切断された骨片がとびちるのがわかる。
尾を切り裂きながら、アルデは走る。
走る。
走る。
なんという、剣の切れ味。
おそらく、かなりの名剣、魔剣でも最初の一撃を折れ曲がるだろう。それを半ばまで、ほとんど骨と化した竜の尾に差し込み、切り裂きながら移動する。
それでも剣は折れない。曲がらない。
そして、なんという剛力。
骨まで切り込み、そのまま切り裂きながら走っても刃こぼれひとつせぬ魔剣であるが、なんの抵抗もないほどの切れ味はない。
骨は斬るというより、くだけ、肉はちぎれ、黄ばんだ液体と骨片を噴出させながら、少女は、骨の尻尾を駆け上がる。
なんという体術!
竜の尾は、じっとしているわけではない。
うごめき、のたくり、まがり。アデルに振り落とそうと、動きまくる。アデルは逆さになれば、尾の反対側に螺旋を描いて駆け上がり、瞬時、足場を失っても打ち込まれた剣を起点に、再び尾の上に着地して、竜の尾を、その本体めがけて駆け上がっていく。
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