第5話 明け方

ネネは眠っていると思った。

これは夢だと眠りながら考える。

頭の中に話しかけてくるネズミも、

きっと夢なんだろうと思う。


こしょこしょと鼻に何かを感じる。

くすぐったい!

ネネは大きくくしゃみをして目が覚める。

ネネの上半身が跳ね上がる。

『どうもです』

さっき夢だと思っていたネズミがいる。

『時間がないので尻尾でくしゃみを誘発しましたです』

螺子ネズミは尻尾を振る。先が螺子になっている。

尻尾螺子がふよふよと揺れる。

ネネは眼鏡をかける。

「時間がないってどういうことよ」

いつものように、ボソッと。

『朝凪の町に行くのですよ』

「浅海ならこの町だけど」

『朝凪(あさなぎ)なのです』

螺子ネズミが訂正する。

『明け方に立ち現れる町なのです』

螺子ネズミは簡潔に説明する。

「何であたしが起きなくちゃいけないわけ?」

『ネネさんは朝凪町をつないでいるのです』

「寝る前に言ってた、線がどうとか?」

『そういうことなのです』

螺子ネズミはネネをじっと見ていた。

そのあと、頭を小さな手でかいた。

何かを思い立ったらしい。

『あの、お願いがあるのです』

「うん?」

ネネはぶっきらぼうに返す。

『螺子ネズミの私に、名前をつけてくれないかです』

「名前?」

『特別な螺子ネズミになりたいのです』

「ふぅん…」

ネネは少し考える。

「ドライブ」

『はい?』

「あんたの名前。ドライブ」

ドライブと名づけられた螺子ネズミは喜び、

ちたちたとあたりを走った。

ネネに微笑が少し浮かんだ。

『ありがとうございますです』

ドライブは一礼する。

「それで、どこか行くんだっけ?」

ネネはドライブを促す。

『朝凪町です。浅海町と線を一本隔ててつながっている町です』

「隣町はそんな名前じゃなかったと思うけど」

『違う線でつながっているのです』

「別世界ってところ?」

『多分それでいいとおもうのです』

ドライブはうなずいた。


ネネはため息をついて、天井を見た。

夢見てるのかなと思う。

いつも世界が嫌い嫌いといっていたけど、

何かに巻き込まれて、順応し始めている自分がいる。

ネズミに名前をつけたり。

くしゃみで起きたり。

嫌いだといって、自分から区切るのは簡単だ。

それでも、ドライブはいいやつだと思うし、

巻き込まれるこの状態が嫌いではない。

何かが起きるような予感。

忘れていた感覚のような気がする。


ネネは起き上がる。

「とりあえず着替えるよ。そしたら出かけよう」

『はいです』

ネネは起き上がって制服に着替える。

ドライブがベッドで何かしている。

ペソペソとベッドを叩いている。

「…何?」

『ベッドメイキングをしようと…』

「サイズが違うからやめといたほうがいいよ」

『…はいです』

ドライブはベッドにちょこんと腰掛けた。


ネネが着替えている間、

ドライブは耳代わりの丸いアンテナを回している。

何かを聞いているのかもしれない。

やがてネネが着替え終わる。

「何か聞いてた?」

『つないでいる線の強度を聞いていました』

「ふぅん」

ネネには何のことやらさっぱりだ。

『まだしばらく朝焼けが続きます。その間に朝凪の町に入ればいいのです』

「そうなんだ」

『そうなのです』

ネネはドライブに手を差し出す。

「肩に乗ったほうがいい?」

『あの、いいんですか?』

「いいよ」

ドライブはネネの腕を伝い、肩にちょこんと乗る。


『朝凪町に続く線は、神社に通じています』

「坂の上の?」

『そういうことです』

「結構歩くかな」

『そうでもないですよ』

ドライブが答える。

『遠かったら空を飛べばいいのです』

ネネの肩でドライブが手を打つ。ぺちぺちと。

ネネの部屋の窓が開く、

風が吹き、ネネは窓から表に飛ばされた。

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