第2話 浅海町の家庭
授業終了。
ホームルームも終了。
本日は部活がない。
ネネは一応華道部にいる。
テスト前だから、部活はしばらくお休みらしい。
ネネは花に向き合うのが、少し好きだ。
花は裏切らない。そんな気がする。
みんな荷物をまとめて教室を出て行く。
ネネもある程度のものをまとめ、出ることにした。
学校を出る。
浅海(あさなみ)第一高等学校。
ネネの一応いる高校だ。
ランクはべらぼうに高いわけでもなく、
適度にいろいろな生徒を取っている。
ネネは滑り止めでここを受けて、
とりあえずの高校生活を送っている。
高校を出て、バスに乗って帰る。
夕暮れの町。
じっと外を見る。
ここは浅海町。
海が遠くに見える町だ。
やや海の近くに、商店街と住宅街があり、
小高くなった上に、神社がある。
ネネは商店街を行くバスに揺られている。
あと二つもバス停を過ぎれば、
窓の外は、商店街から、住宅街に変わる。
そして、終点の近くのあたりに、
神社前のバス停があるはずだ。
ネネは住宅街に入ってすぐあたりのバス停で、いつも降りている。
大型バス特有の揺れ。
ネネは外を見る。
晩御飯の準備に買い出しに行く人が見える。
お腹が空いたかもしれないと、ネネは思った。
普通にお腹が空くものだなとも。
世の中がすごく嫌いではあるけれど、
お腹が空くのまでは止められない。
この星の上にはお腹が空いても食べるものがない人がいる。
だから食べることに感謝しろとか。
ネネはそんなことを思い出す。
説教臭い。嫌い。ネネは思う。
まずは説教しているお前が、自分の食費を削って寄付しろ。
思い出した誰ともしらない意見に、
ネネは毒づくような感じを持つ。
善も偽善も嫌い。
悪も嫌い。
空腹のこの状態も嫌い。
お腹空いたなぁと思う。
窓の外が住宅街に変わっている。
ネネはボタンを押して降車のランプをつけた。
ネネは家まで歩く。
少しざわざわした住宅街。
公園では子どもがはしゃいでいる。
迎えに来た母親らしい人。
明るく、また明日と別れる子ども。
明日が来ることを疑っていない。
笑顔でまた明日。
家々から、晩御飯のにおいがする。
焼き魚かな、煮物かな、カレーかな。
街灯の明かりがつく。
子どもたちが走って帰る。
また明日、また明日。
今日は何?献立を無邪気に聞く声。
きらきらした目を声から感じる。
疑うことを知らない子ども。
ネネはまぶしく感じた。
子どもは嫌いじゃないかもしれないとネネは思う。
少なくとも子どもは説教しないと。
子どもの知る感覚で話している。
ネネは歩きながら考える。
食べられない人がいるんだから、食を大事にしろではなく、
本能に近いところで、子どもは食事を大事にしている。
善も偽善も悪もないところ。
子どもの中では明日もおいしいご飯があるし、
明日も友達が待っているのだ。
ネネは家に帰ってきた。
普通の一戸建てだ。
二階建てで、二階のうちの一部屋がネネの部屋だ。
ネネは玄関の扉を開く。
だし汁のにおいがちょっとした。
「ただいま」
ぼそっと。
それでも台所から、
「おかえり」
と、声がある。
母のミハルの声だ。
ネネはミハルを普通の主婦と見ている。
ご近所とも普通に付き合うし、
母としても普通かもしれない。
「晩御飯、何?」
「おでんと、ほうれん草のおひたしと…」
ネネに笑顔はない。
仏頂面してたずねる。
ミハルは微笑みながら答える。
いつもうれしそうに食事を作っている。
「お父さんは?」
ネネはたずねる。
「もうすぐ帰ってくるみたい。さっきメールがあったわ」
「そう」
浅海町の普通の家庭。
ネネが空気のように思っている、
かけがえのない家庭。
ネネはまだ、何が自分にとって大事なのかをわかっていない。
ネネにとっていつもの、普通。
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