高学歴コンプレックス

葉方萌生

第1話 京都、四条河原町交差点にて


「ねえ、きみ、どこ大の人?」


京都、四条河原町の交差点は、夜になると学生カップルや仕事帰りの大人で溢れかえる繁華街です。

ここではよく、夜のお仕事の勧誘をしている男の人に遭遇します。

京都に住んでいた頃、大学生だった私は、そこで二度ほど男性に声をかけられたことがあります。

ナンパではありません。二度とも、同じ男性だったから、わかりました。

髪の毛の色が金色で、派手でした。

歩き方も、弾むような足取りで特徴的だったので、間違いなく勧誘の人だということを察知したんです。


「お姉さん」


一度話しかけられると完全に無視することができない性分の私は、「面倒くさいな」と思いながらも、男性に適当に相槌を打ちながら駅の方まで歩きました。

とにかく、その状況を早く脱することだけに集中して。


「大学生?」


「はい」


本当は答えちゃいけないのだと分かっていても、「無視」という手段を選べなかった私は、臆病です。


「そっか、何回生?」


「三回生」


男性は私の横にぴったりとついて、次から次に質問をしてくれます。

話がどんどん進んでしまうことに、「あ〜何やってんだ私!」と自分を詰りたくなりました。

男性は、フンフンと軽く頷きながら、私の身分を徐々に明らかにしてゆくのです。


「へえ、どこ大の人?」


ついに、その質問が飛んできたとき、私はドクッと心臓が跳ねるのがわかりました。


ああ、いやだ。

いやだ。

答えたくない。


「ああ、分かった。同志社でしょ。そんな感じする」


「いや……」


もうすぐ、京阪電車の駅の入り口に到着します。

改札へと続く階段が、その時の私には天国への道筋に見えて仕方ありませんでした。


「すみません、もう帰るので」


「ああ、残念。またの機会に」


意外とあっさりと引き下がってくれてた男性を見て、ほっとしました。

彼を振り切ったあと、どっと疲れが出て、しばらく夜の四条河原町交差点には寄り付かないようにしようと、心に誓ったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る