第47話 精霊従技の真実
「……えへへ……ぐへへ……」
「もう一発、いっとくか?」
「い、いえ! もう結構です!」
ベッド上で身を起こした状態で、さっきからずっとにやけ顔になっているシルフィ。
そんなシルフィの様子を見て、憎らしいやらいたたまれないやら複雑な感情を抱いた俺がそんな事を言うと、シルフィは慌てて額を抑えて少し後ずさる。
まったく……調子に乗りやがって。それに、ぐへへってなんだぐへへって。なんかにやけ方にちょっとやばさを感じるぞ。
「ったく、起きてるなら起きてるって言えよ」
「いえ、その……ちょっと悪戯しようと思いまして、ね?」
「趣味が悪い。人がどんだけ心配したと」
「すみません……アルスさんがそこまで私の事を気に掛けてくれるとは思わなくて……えへ、えへへ」
謝りながらにやけるシルフィ。器用だなこいつ。
どうやらこいつは俺が来る少し前には目を覚ましていたらしく、さっきの俺の独り言もばっちり聞いていた。
そして、これだ。さっきからずっとニヤニヤニマニマしてやがる……どうにかしてさっきの俺を止めて、あんな事を言わせないようにする方法は無いものか。
「私が居ないと寂しいって……えへへ……うへへ……」
「……おーい、いい加減戻ってこい」
「はっ!? ……つ、つい、先ほどの素晴らしい出来事の反芻をですね」
「気絶するまでデコピンしてやろうかお前」
はぁと大きく溜息をつく俺を、申し訳なさそうにしながらも、何とも言えない緩んだ表情でじーっと見つめてくるシルフィ。や、やりにくいなおい。
「あ、でも……どうして私が狸寝入りしてるって気付いたんです?」
「いや、そりゃ解るだろ。あんだけ急激に顔が真っ赤になれば」
そう……先程俺が、シルフィが起きていると気付いた理由。それは彼女の顔が、俺の言葉を聞いて徐々に赤らんでいき、最終的には真っ赤になったからだ。
今のシルフィの反応を見るに、あの時点でも内心狂喜乱舞していたんだろうが、表情は全く変わっていなかった事は、よく我慢したと褒めてやりたい。
……いや、なんだ褒めてやりたいって。評論家の言か何かか?
俺も少なからず動揺してるな、くっそぉ……
「それは迂闊でした。今度は顔色にも気を配って」
「しれっと当たり前のように次を画策するんじゃない!」
「あうっ!?」
良からぬ事を考えて油断していたシルフィの額に、再度俺のデコピンがクリティカルヒットした。
その後しばらく、シルフィがはしゃいでは俺にデコピンを受けたり、俺は俺で、先程自分がした発言が俺自身の羞恥心的な何かを抉ってきて不意に恥ずかしくなってきたり、そんな俺を見てニマニマとしているシルフィにまたデコピンをしたりと、そんなやり取りを繰り返した俺達だったが、シルフィの額がデコピンによるダメージで物理的に真っ赤になった頃にようやく落ち着く。
「こんなになるまでデコピンしないで下さいよぉ……」
「されるような言動や反応する方が悪い」
「うぅ、酷いです……」
額をさすりながらやや涙目になって訴えるシルフィの言をばっさり切り捨てつつ、俺は気になっていた事を彼女へ問い掛ける。
「シルフィ、あの時精霊達から聞いたんだが……俺のスキル、思っていた以上にやばいものだったんだな」
「……あの子達から詳しく聞いたんですね」
首肯する俺に、シルフィは額を抑えながら真面目な表情を向ける。
そして何事か呟くと、部屋の外の音が全く聞こえなくなる。
防音の魔法か。どうやら今から彼女がするであろう話は、重要な話になりそうだな。
「あのスキルは、本来エルフ族……それも王族にしか発現しないスキルなんです」
どんな話が為されるのかと身構えていた俺だったが、第一声から結構な衝撃的事実がシルフィの口から語られ動揺する。
「え……俺は人間だぞ?」
「そうですね、アルスさんは間違いなく人間です。だから、アルスさんがそのスキルを持って生まれてきた事は、本当に特異な事なんです」
「……ちなみに、前例は?」
「ありません」
その後、シルフィが精霊従技に関して説明してくれた話を要約するとこうだ。
まず、精霊従技は精霊王が認めた者にしか付与されないスキルで、精霊とエルフの関係性から、今まではエルフにしか発現しないものだったらしい。基本的にはエルフの王族に付与され、その付与された者が、アルカネイアの次代の国王になるんだとか。
そしてこのスキルの本来の用途は、基本的に自由を愛し奔放な性格の個体が多い精霊達を統率する……要は、エルフの国であるアルカネイアを反映させる為に使われるというのが、本来の使い方らしい。
ちなみにこの精霊達を統率する為という用途に関しては、精霊王以外の精霊達には知らされていない事でもあるらしい。先程も挙げたが精霊は自由を愛している。そんな精霊達が、自分達を纏める為にそんなスキルが用意されたと知れば、不満が募り爆発する可能性が高いからだとか。なんか話を聞く限り、好き勝手遊びはしゃぐ子供みたいだな、精霊。
にしても、となるとこれは……
「じゃあ、あれか……シルフィが俺に近付いたのも、結局はこのスキル目当てだったって事か」
「それは違います」
「……え?」
ぼそっと呟いた俺の言葉に、即座にシルフィの否定の言葉が重なる。
「前にも言った通り、アルスさんに一目惚れしたからですよ……結構恥ずかしいんですから、何度も言わせないでくださいよ、ばか」
そう言って顔を俯かせ、ぷいっと俺から顔を背けるシルフィ。
その表情は彼女の綺麗な黒髪で隠れてしまって上手く見えないが、髪の間から見える真っ赤に染まった耳から、どんな顔をしているのかは何となく窺い知れる。
「あー……ありがとうな、シルフィ。すごく嬉しい」
「……!?」
俺が素直に感謝の言を述べると、ぎゅんと音でもしそうな勢いで、目を丸くしたシルフィがこちらに顔を向ける。
「な、なんだよ……」
「……アルスさんが……デレた……?」
うん、額はもうさすがに痛いだろうからやめてあげようか。
そんな風に考えた俺は、今度はシルフィの柔らかそうな両頬をむにっと引っ張るのだった。
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