第45話 とある少女の想い
「はい! 出来上がったよ!」
「おぉ、ありがとう……ってお前、それ……」
「ん? なぁに?」
先程と変わらないニコニコ笑顔で店の奥から戻ってきたリーシャが手にしていたのは一見整えられた綺麗な花束。ただその使われている花の内容が……
「確かその花は無害だけど根が毒を持ってるやつじゃなかったっけ。綺麗だけど見舞いとかでは敬遠されるやつじゃなかったか? あとこの花も、縁起が悪い謂れがあって、人に渡す物としては向かないってやつじゃ……」
よく見れば他の使われている花も、根がしっかり張るから入院中の人に渡すのには避けられていたりとか、ことごとくアレな花ばかり揃っている。
「ちっ、気付かれた……」
「リーシャ?」
「あははー、ちょっと間違えちゃったー。もう一回用意してくるねー」
やけに感情のこもってない様子でそんな言葉を口にしながら、くるりと方向転換して背を向け、また店の奥に戻っていくリーシャ。
「……んー……」
その背中を眺めながら、俺はシルフィに以前言われた事を思い出していた。
再度戻ってきたリーシャの手には、さっきとは別の花束が収まっていた。
見た限り、今度はどれも、お見舞いに持って行くに適したものが使われている。
「はい、お待たせ」
「あぁ。ありがとうリーシャ」
花束を差し出すリーシャから受け取り、その後、彼女の顔をまじまじと見る。
「どうしたの? アルスさん」
その表情は先程同様笑顔ではあるのだが、何処となく寂しそうな不満そうな、何とも言えない複雑な雰囲気を感じる。
「……なぁ、リーシャ?」
「ん? なに?」
「お前さ……もしかして妬いてる?」
「ふぉっ!?」
俺の言葉に変な声を上げて驚いた表情をし、直後顔を赤くするリーシャ。
「なななななにをいってるのかなー!? なんで僕が妬いたりするのかなー!?」
「いや、さっきのお前……なんからしくなかったし、あんな花束持ってきたしさ」
「っ!」
じーっとリーシャの眼を見ながら言うと、彼女は言葉を詰まらせ俯いてしまう。
これは……リーシャが図星を突かれた時のリアクションだ。
そうか、やっぱり妬いてたのか。シルフィに、リーシャが俺の事好きなんじゃないかと言われた時は、まさかそんな事は……と思ってたけど、もしかして本当に?
「……そーだよ。アルスさんが女の人に花束持ってくの考えたら、なんかヤだった。例えお見舞いとかでも」
「そ、そっか……つまりそれってお前は俺の事を」
「だってアルスさんは僕の大事なお兄ちゃんだもん」
「す……へ?」
ちょっと予想していなかった返答に、今度は俺の方が変な声を上げてしまった。
そしてそんな返答をした本人は、顔を上げて俺の方を真剣な表情で見つめてくる。
「アルスさんには子供の頃からすっごくお世話になって、とっても良くしてもらってるし、その……大好きだし、僕にとってはお兄ちゃんみたいなものだもん。そんなお兄ちゃんが、別の女の人に花を持ってくなんて言ったら、そりゃ経緯はどうあれヤキモチ妬くよ!」
「……そういうもの、なのか?」
「そういうものなの!」
更に顔を赤くして、まるで赤林檎のようになったリーシャは、一気にまくし立てた後、俺の身体をがしっと掴み、くるりと反転させて背中を押してくる。
「わ、わ、おい! 何だ急に、押すなよ!?」
「ほらっ! お見舞い行くんでしょ! 早く行ってあげなよ!」
物凄い力でぐいぐいと押してくるリーシャ。
こいつ、小柄で華奢な身体の何処にこんな力が!?
「わ、わかったから! わかったから押すなって!」
「はいっ! まいどあり! 行ってらっしゃい!」
そのまま店の外に押し出された俺は、リーシャの手荒い見送りを受け、花束片手によろけながら歩き出す。背後ではアルマイト商店のドアベルが、いつもより激しく鳴る音がしていた。
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