第38話 一人では成し得ない事
「まずは、おさらいだ」
俺は剣を高く掲げ、そこにウンディーネの力を付与し、水を大量に剣に纏わせて、さながら水で出来た巨剣を作り出す。
「魔浄斬!」
そしてその剣を勢いよく、飛来する炎を纏った岩石の槍へ叩きつける。
二つの武器が接触した瞬間、ジュウウウという蒸発音がして、その直後に接触部を中心に小さな爆発が起き、その反動で俺の身体が剣ごと弾かれる。
「うぉっ!?」
たまらず数メートルほど吹っ飛んだ後、態勢を整える。
見上げれば、そこには先程と変わらない様子の、迫り来る槍。
「……やっぱり、これじゃ無理だよな」
俺は強がるように笑みを浮かべながら、そう独り言ちる。
「そうだなぁ、その程度のなまくらで、私の無敵の槍を止められる訳ないよなぁ」
ニタニタといやらしい笑みを浮かべながら、俺の方を見ている奴。
そんなに俺が悩み苦しんでるのが楽しいって事かねぇ、良い趣味しているぜ。
「まぁな、ここまでは予想通りだ」
「ほぅ、ではここからは違うと?」
「……まぁ、見てな」
俺はそう答えて、剣を正眼に構える。
ここからは初めての試みだ。以前ティアナの使役する精霊を借りていた時も、二体同時にその力を利用するなんて事は無かった。
先程、奴が二属性の融合なんて事をやってのけるまで、二つ以上の属性の魔法の同時発動なんて事は出来ないというのが常識だったし、そもそも、そこまでの事をして相対するような状況になる事自体がまず無かった。
精霊の力を借りての魔法は、人間が普通に魔法を行使するよりはるかに威力が出るし、それで十分事足りたからだ。
しかし、今回この状況に至っては、単独の精霊の力だけではどうにも出来ないだろう。実際に今、俺がウンディーネの力を借りて放てる最大の技である魔浄斬でも、全く太刀打ち出来なかったのだから。
予想していた事ではあるが、こうして全くの無傷でその存在感を示す、奴の放った魔法を見ると、少なからずショックはある。
けれども、だからと言って両手を上げて降参し、大人しくアレに貫かれる気も無い。
目の前に、常識を超えて迫ってくる脅威があるなら……こちらも常識を超えてその脅威を打ち払う。
「ウンディーネ、そしてシルフ……頼んだぜ!」
俺は構えた剣にまずウンディーネの水を収束させる。
そしてそこにシルフの力を借りた烈風を更に纏わせ……
「……!?」
剣に纏わせた水が、風にぶつかり合って消滅する。
代わりに俺が手に持つ剣には、今起こした烈風が付与され、剣を中心に風が竜巻の様に渦巻いている。
やはり、普通のやり方で二つの属性を混ぜるのは無理なのか?
……いや、これは……
「俺の力不足……か?」
もう一度、消滅する直前の光景を思い返す。
すると、正確には二つの属性がぶつかり合って消滅したのではなく、風の属性を付与する直前、剣に纏わせた水が維持出来ずに消えていた事に気付く。
そして元々俺は魔力の制御が上手くなく、魔法で発生させた火や水などを維持する事が出来ないのも、魔法を使えない要因の一つだったなと、そんな事をふと思い出す。
くそっ……こんな事なら魔力の制御法だけでも訓練しておけばよかったな。
「二つの属性を同時に行使するってのは、難しいもんなんだな」
「あぁ、そうだともぉ。元々二つの属性を合わせるのは、私ですらこの身体になるまでは全く出来なかった芸当だぁ。果たしてお前にそれが出来るかなぁ? アルスゥ」
ったく、いちいち癇に障る喋り方だな、こいつ。
あと、気軽に人の名前を連呼しやがって。名前を教えるんじゃなかったかな?
「アルスさん」
「シルフィ?」
奴の言葉に苛立ちを覚えていると、いつの間にか傍に来ていたシルフィが、俺に声を掛けてくる。
「今ので確信しました。二つの属性を合わせる事は出来ます」
「……え?」
シルフィの確信を込めた言葉に、俺は目を丸くする。
今の失敗を見て、それでも出来るとは。
「あの魔族が先程二属性を合わせた魔法を行使する時に魔力の流れを見ていたのですが、火も土も、どちらの属性も掛け合わせる前も後も全く勢いを衰えさせてなかったんです」
「お前、あの状況でそこまで感じ取ってたのか」
「はい」
エルフが感知能力に優れるとはいえ、ここまでとは……エルフが皆そうなのか、シルフィが特別凄いのか。どちらにせよ、人間に出来る芸当では無いな。
「対して、アルスさんは今、二つの属性を掛け合わせようとして失敗してしまいましたよね」
「ああ……」
「なので……こうします」
そう言ってシルフィはおもむろに手を伸ばし、剣を持つ俺の手に、自身の手を重ねる。
「な、何を!?」
「アルスさんは、精霊の力を剣に集める事に集中してください。二つの力を維持して纏めるのを、私がします」
どうやら、俺が魔力の制御が苦手だという事もばれているようだ。
エルフの感知能力おそるべし。
「……解った、頼む」
「はい!」
答えてシルフィが俺の手越しに剣をぎゅっと握る。
思えば、こうして誰かを頼るってのは久々……いや、初めてかもしれないな。
ティアナやトーマと一緒の時は、どちらかというと二人の引率的な立ち位置の方が強かったしな。兄妹である事や、俺がパーティー内の年長者と言った関係性もあった。
その後もソロでやってきたし、基本的に依頼一つ終われば解散の関係だったからな。こうして、ティアナやトーマ以外の誰かを信頼して任せるとか……なんだか、妙な気分だ。
そんな事を想いながら、俺は手にした剣を握る手に力を込めた。
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