第32話 援軍


 俺とシルフィ、そしてオウルの手で次々と倒れていく巨人型の魔物達。

 しかし、倒しても倒しても、次から次へと湧いて出てくるかのように、その数は減る気配がない。


「オッサンもだいぶ倒しているはずなのに全然減らないな!」


 また一体、巨人型を倒し地に沈める。

 ずずんと地鳴りを上げて倒れ伏す巨人型から飛び降りた俺を、シルフィの起こした風が優しく地面へ降ろしてくれる。


「それでも、もうだいぶ倒したはずですよ」


 シルフィが視線を向けた先には、絶命した巨人型魔物が地面を埋めるように沢山転がっている。数にしたら十……いや、二十はあるか。

 そして吹き飛んだ防壁の方へ目を向ければ、その数と同じくらいか、下手するとそれ以上の数の巨人型が、町に侵入してこようとする様子が見える。

 ブリッツも別行動で結構な数を倒しているところを見ると、総数三百程ってのは本当だったんだろうか……もっと居たんじゃなかろうかと疑ってしまう。


『そろそろ我も空を飛ぶのに飽きてきたのである』


 うんざりした声を飛ばしてくるオウル。

 ……やっぱりお前、風で飛ばされるのを楽しんでたな?


 だが、オウルがそうぼやきたい気持ちも解る。

 本来ならこの巨人型の魔物だって、以前シルフィが俺に依頼してきた水龍の討伐には劣るものの、こいつ等の討伐の難易度は結構高い。

 俺やシルフィ、オウル、そしてブリッツのような、ある程度以上の実力を持つ冒険者(オウルは違うが)だから簡単に倒せているように見えるが、それ相応の実力を持ったB級冒険者が複数人で組んだパーティーで一体を相手にするのが安全かつ妥当ってところなんだ。

 まぁ、俺達の場合は、俺とオウルを上へ打ち出せるシルフィが居るってのも大きいが。


 さて、そんな相手がまだぞろぞろと……どうしたもんか……


「火炎槍!」


 悩む俺の耳に、ついさっき聞いた声が響く。

 その声と共に俺達の後ろから放たれた火炎槍は、目の前の巨人型の顔に命中し、顔面に火が付いた巨人型は両手で顔を押さえながら悶える。


「アルスさん、大丈夫ですか!」

「ソマリアか!」


 後ろを振り向くと、そこには、巨人型に向けて手をかざし、火炎槍を放ったと思われるソマリアが立っていた。

 この短期間で槍系まで使えるようになったのか、思ったよりセンスあるじゃないか。


「俺も居るぜ!」


 そして近くの物陰から声を張り上げて飛び出してくる影が一つ。

 そいつも俺が見知った人物だった。


「カイルか!」


 カイルは俺に対してサムズアップをし、すぐに先程顔を焼かれた巨人型に向き直り、駆け出す。


「ソマリアっ!」

「うん!」


 名を呼ばれたソマリアは再度魔力を集中させ、今度はその手の中に岩の槍を作り出す。


「石岩槍(ストーンランス)!」


 その槍を巨人型の足下に向けて放つソマリア。

 焼かれた顔の方へ意識を集中していた巨人型は、ソマリアが放ったその岩の槍に右足を貫かれ、地面に右足が張り付けられたような状態になりバランスを崩し倒れる。


「ナイス、良いタイミングだぜ! 喰らえこの野郎!」


 巨人型が倒れたと同時に、駆け寄っていったカイルが、巨人型を手に持つ剣で捉えられる距離まで接近し、巨人型の太い首を剣で何度も切り付ける。


「グァァァァァ!」


 足を地面へ縫い付けられて身動きが取りにくくなっていた巨人型は、じたばたと手を振り回して抵抗を試みるも、カイルは器用に切り付けながら避ける。そして次第にその巨人型の動作は弱々しくなり、カイルの斬撃が十を超える頃には動かなくなる。


 驚いたな。この二人がここまでやるなんて……才能があったのかねぇ。

 数か月前まで冒険者なりたてのD級だったってのに、今はもう実力だけなら二人ともB級冒険者レベルって事か。


「あの子達、なかなかやりますね」

「あぁ。思ったより向いてるのかもな、冒険者」


 二人の連携を見ながら、そんな会話をしている俺とシルフィのところへ駆け寄ってくるカイルとソマリア。


「俺達も色んな依頼を受けてきたからな! これくらいは!」

「頑張ったんですよ!」

「……!」


 嬉しそうに話す二人の後方。

 俺の視界に見過ごせないものが映り、一瞬で距離を詰め手にした剣でそれを一閃する。


「ガァッ……」

「まぁ、詰めの甘さは残るけどな。下手すりゃ今頃お前達のどっちかは握りつぶされていたかもな」


 俺は振り返り、今の一撃で完全に絶命した、残る力で二人に向けて手を伸ばしていたのであろう、先程二人が相手をしていた巨人型に背を向けながら、カイルとソマリアへ答える。


「す、すまねぇ」

「ごめんなさい」


 極まりが悪そうな二人の様子を見て、まだまだ若いなと思って少し微笑ましくなるも、俺はふと湧いた疑問を投げかける。


「お前達、なんでこんなところに?」

「あ、ついさっき町に侵入した魔物の掃討があらかた片付いたんです。そしたら今度は巨人型の魔物が沢山、壁の空いたところから入ってくるのが見えて」

「俺達だけじゃないぜ、他の冒険者や警護団もこっちに来てる」


 そう言われて周囲の様子を再度確認すると、何体かの巨人型と冒険者や警護団の面々が交戦しているのが見える。


「そうか……他の魔物は大体倒し切ったんだな」

「あぁ、俺達も結構な数を倒したぜ」

「アルスさん、ここは……」

「そうだな」

「?」


 周囲の状況と巨人型が入り込んでくる場所を交互に見つめて俺に声を掛けるシルフィ。

 言いたい事を察した俺は、得意げにしているカイルと、俺とシルフィのやり取りに首を傾げるソマリアに向き直る。


「カイル、ソマリア、ここは皆やお前達に任せた。俺とシルフィとオウルは先を急がせてもらう」

「あ、あぁ……あぁ! わかったぜ!」

「だ、大丈夫なんですか?」


 俺に任せると言われたのが嬉しかったのか、良い笑顔で答えるカイルと、対照的に心配そうな表情を見せるソマリア。


「なぁに、これでも元A級だ。心配するな。それにこいつ等も居るしな」


 言って俺はシルフィとオウルの方へ視線を送ると、シルフィはウインクをし、オウルもふんすと荒い鼻息を吐いて返す。


「それよりお前等も、さっきみたいな油断はするなよ? しっかり倒しきるまで確認するんだぞ」

「あぁ!」

「はい!」


 そうこうしている間に、段々と冒険者や警護団員達がこの場に集まってくる。

 この感じなら、この辺の巨人型は任せても大丈夫だろうな。


「じゃあ、ちょっと元凶を探って止めてくるぜ」


 元気よく答える二人にそう返事をし、俺達三人はその場を皆に任せて、巨人型が侵入してきている地点へ急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る