第27話 アルスの元パーティー


「じゃあ、俺から説明させてもらう……でいいな? アルス」

「あぁ、頼む」


 俺としても、ブリッツ……ギルドマスターの目から見て、俺達の事がどう映っていたのは聞いてみたいと思っていた。俺から口止めを頼んだ経緯から、俺とブリッツの間では、今までこの話が話題に上げる事自体無かったからな。

 まぁ、さっきのからかいみたいにネタとして扱われる事は何度かあったが……意地の悪いオッサンめ。


「さて、何処から話すかな……面倒だから、最初から全部話すか」


 部屋の天井を見るように宙へ視線を移し、ブリッツは昔を懐かしむように語り出した。


「アルス達がサディールギルドに来たのが、俺がギルドマスターになってすぐくらいの頃だから……十年程前か」


 そういえば、あの頃はブリッツも前任からギルドマスターを引き継いだばかりだったっけな。


「あんた、アルスの元パーティーに関しては何処まで知ってる?」

「ええと、アルスさんと、妹さんと、もう一人の三人でパーティーを組んでいた事くらいでしょうか」

「そうか。後は?」

「難しい依頼を沢山こなしていたのを見……知ってるくらいですね」


 あぁ、そういえば遠見の術で見ていたと言っていたっけか。

 ……今改めて考えると、完全ストーカーだよなぁ、それ……


「あぁ、アルス達の受注依頼とその達成率は凄かったからな。あんたに限らず知っていてもおかしくないが……その内容に関してはどうだ?」

「内容、というと?」

「遂行中の様子とか、戦い方だな」

「それも知っています。精霊の加護を駆使したもの……ですね」

「そうか、そこまで知っているか……それなら話が早い」


 ふぅと溜息を一つ吐いてブリッツは続ける。


「結論から言うと、それがパーティー解散の原因だ」

「え?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔というのはまさにこんな表情を言うんだろうな。

 そんな表情でシルフィが声を上げ固まる。


「……普通の人間は、精霊を扱わないからな?」


 俺は見兼ねて、理解が追い付かないシルフィに声を掛ける。

 シルフィ達エルフにしてみれば、精霊が身近に居る事や、その力を借りる事は日常的な当たり前の事過ぎて、実感がわかないのだろうが、こと人間の世界ではそれはとても異質な事なんだ。


「それも、精霊を従えて一方的に使役できるなんざ、お前は規格外すぎるんだよ。人間で精霊を召喚できるお前の妹さんもな。んで、そういう特別な奴っていうのは、大体にして利権争いに巻き込まれる」


 あの頃、俺達が自分達の戦い方などの冒険者としてのやり方をひたすらに隠していた理由は、今ブリッツが語ったまさにそれだった。


 俺は精霊従技を使える。そして今ブリッツが言ったように、妹は精霊を召喚できる。そんな俺達兄妹を、あいつがサポートする。それが俺達パーティーのスタイルだった。

 これは、精霊が絡んでいる以上、他のパーティーでは真似しようとしても出来ないだろう。

 故に、俺達の希少性が広く知られれば、変な輩に目を付けられる可能性が出てくる。国だの貴族だのといった、な。

 俺がブリッツに自分からスキルの事を話したのも、なんだかんだこのオッサンが信用出来る人物であり、またギルドマスターでもあるため、解散後に変な探りを入れる奴が出た時に上手く対処してほしいと頼み込んだからだ。サディールのギルドマスターとなれば、一国の王とまでは言わないが、相当な影響力があるからな。

 また、俺達が活動拠点を、そういった影響を受けにくい、独立した都市である此処、サディールに選んだ理由の内の一つは、そうした一連の懸念への対策でもある。


「で、こいつは妹夫婦がそういった争いに巻き込まれるのを嫌ったんだ」

「妹……夫婦?」

「あぁ。旦那は、俺と妹とパーティー組んでたもう一人だ」

「そうだったんですか!?」


 驚きの声を上げるシルフィ。

 そういや、遠見の術って声とかまでは伝わらないらしいしな。

 シルフィの様子から、ずっと俺の事を追跡してたのだろうから、妹達が故郷に帰ってから結婚した事は、多分知らなかったんだろうな。


「あいつ等……妹のティアナと、その旦那のトーマは元々幼馴染でな。トーマも精霊は扱えないが優秀な魔法使いで、支援魔法のエキスパートだったんだ」

「あぁ、トーマの魔力量も尋常じゃなかったよな。お前やティアナには負けるが」


 そりゃ、俺やティアナは精霊を従えたり契約したりがあったからな。精霊の魔力も加算されてる訳だから、そんじょそこらの人間に魔力量で負ける事は無い。

 そんな俺達に、勝るとも劣っていなかったトーマは純粋に凄い奴だと思う。


 それにしても、ティアナとトーマの二人……最初はそんな感じじゃなかったんだが、いつの間にかデキてたんだよなぁ。男女の仲ってのは不思議だ。

 ともあれ、そうして二人が結ばれる事になったため、俺はパーティーの解散を決め、二人を故郷に戻らせた。


 冒険者家業なんて本来危険極まりないものだし、本当は俺一人でどうにかするつもりだったんだ。ティアナを連れて行くのは危険に晒す事になるので嫌だったしな。

 ティアナが強引について来たものだから、なし崩し的にパーティーを組む形になってはいたが。


 だがティアナが所帯を持つともなれば話は別だ。

 可能であるならば妹には普通に幸せになってほしい。そう願うのは、兄としては当然の願いだろう?


 ティアナとトーマもA級にまで上がっていたので報奨金を貰っていたし、あいつ等は酒とかの娯楽も嗜まなかったからな。故郷がある辺りは田舎の方だし、普通に暮らす分には十分すぎるだけの貯金は出来ていたはずだ。

 冒険者としては、良い引き際だったんじゃないかと、今でも思う。


 ちなみに、ティアナが召喚した精霊との契約は、パーティー解散と共に全て解消している。

 互いに近場に居るままだったらあまり支障は無かったが、俺と契約したままだとティアナがその精霊を使役出来なくなるからな。

 ティアナは俺と違い、武術の才能はからっきしだったから精霊が使役出来なければただの女の子だ。

 そんな訳で、何かあった際に備え、ティアナの安全の為に精霊達は全部契約解除しティアナに返した。

 俺は剣の腕一本で冒険者をやっていかなきゃならなくなった訳だが、まぁこれもティアナの為ならやすいものだ。


「まぁ……そんな訳で、あいつ等の結婚を機に、パーティーは解散して、あいつ等は故郷に帰るようにさせたんだ」

「そうだったんですね……でも、それならアルスさんはどうして冒険者を続けているんですか?」

「そういや、それは俺も聞いた事無いな。ギルドマスターやってる俺が言うのも何だが、アルス、お前、何でソロになって、降格まで受け入れて、冒険者なんて家業を続けてんだ?」


 あぁ、そういえばそれはブリッツにも話した事は無かったっけか。

 ……まぁ、この二人になら別に話しても支障は無いか。


「俺達の……俺とティアナの父さんを探すためだ」


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