第23話 オウル、虎の尾を踏む
俺とシルフィは、元の大きさに戻ったオウルの背に乗っていた。
そして俺等二人を乗せたオウルはと言うと、木々が生い茂る森の中を、木や木の枝にぶつかる事無く、とても早い速度で器用に走り抜けている。
向かう先はサディール。街道を戻るよりも森を抜けた方が早いとのオウルの意見で、俺達は森の中を駆けていた。
あの後、俺とオウルは主従の誓いを結んだ。いわゆる契約だ。
驚いたのは、その誓いを交わすやり方が、精霊との契約とほとんど同じだった事だ。
今回の場合は事前にオウルの名を知っていたから、ウンディーネの時のように真名を読み取る必要は無く、俺とオウルが、俺の差し出した手から放たれた一条の光で繋がり、それで従属の為の儀式は終了となった。
(もしかしたら精霊従技は、テイマーの技術に近いのか……基になっていたりはするのかもな)
そう思わせるくらいには、精霊従技と、従属の誓いの儀式は酷似していた。
『アルスよ』
そんな風にさっきの事を思い返していると、耳元で風を切る音が聴こえるくらいの猛スピードで走りながら、オウルが念話で話し掛けてくる。器用な奴だな。
「ん? なんだ」
『あれだけで本当に良かったのか?』
「あぁ……ラディスン村か」
『うむ。それなりに冒険者も居たので彼等に助力を願うのも手だと思うのだが』
オウルとの従属の契約を行った後、俺達は一旦ラディスン村に戻り、ウルガンディが行っていた疑似氾濫とでもいう企みを止めた事を伝えた。
そして、その企みで集められた普段この辺に居ないような沢山の魔物が周囲をうろついているので、十分警戒するようにという事を、村のギルド支所や住人達へ伝えた。
「そうしたいのは山々なんだがな……ウルガンディが懲りずにサディールを狙ってるとして、いつ動くかなんて分からないからな」
「あれだけの魔物を集めてもまだサディールを襲撃していなかったという事は、まだ足りないと考えていたのかもしれませんね。そうでなくても、知られずにあれだけの規模の仕掛けを準備していたという事は、あの魔族が事を進めるに慎重である可能性は高いですし」
「あぁ。だからまぁ、あれだけの悪だくみが失敗した今、すぐには動かないとは思う」
『ふむ……そういう事か』
俺とシルフィの言葉に、納得がいったような様子のオウル。
「それに、今ラディスン村に居る冒険者が加勢に入ったとしても、言っちゃ悪いが微々たるもんだ。下手すりゃラディスン村の方が人手不足になっちまうからな」
ラディスン村も、さすがにサディールには及ばないが、交通の要所の一つだ。此処は此処で下手に人手や戦力を不足させてしまうと、万一何かあった時に支障が出る恐れがある。
例えば、謎のウルフが道を通せんぼしてしまったりとか、な。
「まあ、アルスさんが居ればきっと大丈夫です」
「シルフィのその俺への信頼は何処から来るんだか」
「愛です」
「やかましい」
『それにしても二人は仲睦まじいな』
シルフィと掛け合い漫才みたいなやり取りをしていると、面白がるようなトーンのオウルの声が脳内に響く。
『そういえばアルスとシルフィに聞きたい事があったんだが』
「おぉ? なんだ」
「はい、なんでしょう?」
『シルフィにとってアルスは何回目のつがいなのだ?』
……は?
「つ、つがいだなんて、やだもぉオウルさん!」
オウルの思わぬ質問に固まる俺と、赤くなった頬に両手を添えながらくねくねと奇妙な動きを見せるシルフィ。
まてこらいつから俺とシルフィはそんな関係になった!?
「おい、オウル。誤解してるようだが俺とシルフィはつがい……じゃなかった、夫婦とかじゃ無いぞ、ただの腐れ縁だ」
「酷いです! アルスさん!」
『おや、そうなのか』
非難の声を上げるシルフィは無視して、俺はオウルに真実を伝える。
…あれ、でも今こいつ、おかしな事を言ってなかったか?
「なぁ、オウル? さっきの何回目ってのは一体」
『隠しているようだが、シルフィはエルフなのであろう? 我には匂いで分かる』
シルフィの正体がばれていた事に、俺とシルフィは思わず顔を見合わせる。
ウルフの嗅覚おそるべしだな。
『エルフはかなりの長寿と聞く。また年齢を重ねても見た目はかなり長い間若いままだともな。だからシルフィもそれ相応の歳で、アルスの前に見初めた異性がいたっいたたたた!?』
突然猛烈な寒気を感じシルフィの方を見ると、良い笑顔でオウルの頭の毛をむしっていた。
……っていうかあれ、笑顔なのか?
なんか身震いする程怖く感じるんだが……笑ってるのに。
あ、いや、眼が……眼だけが笑ってない!
ってか眼のハイライトが消えてる!?
「オウルさん。女性の歳を探るような事はマナー違反ですよ?」
ぶちっ、ぶちっ、ぶちっ。
『いたいいたいいたい! あ、そこは古傷があってよりいたい!』
オウルの悲鳴を意に介さず、独特なトリミングをオウルに施していくシルフィ。
なんかシルフィが毛を抜いた辺りの皮膚に凄い傷跡があるが、このトリミングとは関係ないよな?古傷とか言っていたし……
シルフィがオウルの毛を引き抜く勢いとその雰囲気に、思わず怖気付きながら、俺は一人と一匹の様子を黙って見護る。
「それに私はアルスさん一筋です。何回目も何もありません。初婚です」
いや、結婚はしてないけどな?
そう突っ込みかけたが、シルフィのただならぬ雰囲気にその言葉をぐっと飲み込む。
その間にもオウルの毛はどんどん毟られていく。
「な、なぁシルフィ……オウルも悪気があった訳じゃ」
その様子にさすがに可哀想になった俺は、助け舟を出してやろうとシルフィに語り掛けるが。
「……はい?」
「なんでもないです」
満面の笑顔で、ぶちぶちとオウルの毛を抜きながら、顔だけこちらに向けるシルフィの迫力に思わず気圧されてしまい、オウルの背の上でじりじりと後ずさる。
まずい、これは下手な事を言えば俺も巻き込まれる……!
『あるすぅー!』
許せオウル。元はシルフィの逆鱗に触れたお前が悪い。
脳内に響くオウルの悲痛な叫び声を聞きながら、俺は傍観を決め込みつつ、シルフィを本気で怒らせないようにしようと肝に銘じた。
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