第19話 魔族ウルガンディ
魔族。
それは魔法に長けた一族の総称で、俺達が住むこの大陸の端の方に領土を持ち、そこで生活をしている者達。
寿命は人間よりも長いが、個体によっては数百から千年程生きるというエルフよりは短いと言った感じか。
人間やエルフとは違う独特の肌の色と、頭に角を持っているのが特徴だが、特筆すべきはその戦闘能力の高さにある。
個々の強さで言えば、人間と比べて軒並み高く、 その魔力の大きさは、エルフすら凌ぐとも言われており、魔族一人に対して、戦闘に長けた人間が十人位で、大体戦闘能力的にはトントンとなるだろうかという具合だ。
その上、残忍な性格の者が多く、昔から悪戯好きな子供なんかに聴かせる怖いおとぎ話なんかにはよく出てくる存在で、世の多くの子供達を恐怖に叩き落として泣かせてきた生物ナンバーワンと言っても良いだろう。
……で、そんな存在が、今、俺の目の前に居る訳だ。
「まさか人間如きに我が姿を見られるとはな」
そう言われて、俺は改めてその魔族の姿を確認する。
背丈は……俺と同じくらいか、やや低い位か。その顔色で解りにくいが、やや青色の混じった白髪。顔立ちも良く、角と顔色の事が無ければ、とても女性受けしそうな感じですらりとして整っている。
「なんだ、そんなに姿を見られるのが恥ずかしかったのか。シャイな性格なんだな」
目の前の魔族は、俺の軽口には反応せず、身に着けているローブに手を掛けると、勢いよく脱ぎ捨てる。
直後、強烈な魔力が魔族から放たれる。
なるほど、さっきシルフィしか奴の魔力を感知できなかった時点で、何かしら仕掛けがあるとは踏んでいたが、あのローブが魔力を遮断していたって感じか。
一般的にエルフは、他種族に比べて魔力の操作や感知に優れているとされる。
感知の妨害を破って、俺やオウルが見抜けなかった奴の魔力を感知出来たのは、多分そのおかげだろう。
「我が名はウルガンディ、お前達人間が魔族と呼ぶ存在だ」
「ウルガンディ、ね」
俺が奴の名を復唱すると、魔族ウルガンディは不快感を滲ませた表情を浮かべる。
「人間如きが我が名を口にするな!」
「お前、言動が滅茶苦茶じゃないか!?」
名乗ったのはお前でしょうが!
っていうか話すんだったらもう少しまともなコミュニケーションをだなぁ!?
そんな内心の突っ込みを余所に、ウルガンディは魔力を練り始め、奴の周囲の空間の魔力の密度が濃くなり、風景が歪む。
「獄炎槍<ヘルフレイムジャベリン>!」
獄炎槍。
それは火炎系の魔法でも最上位の魔法で、その名を叫んだ奴の頭上に、超高熱の巨大な炎の槍が顕現する。
さすがは魔族と言った所か、こんなとんでもない魔法を簡単に使ってきやがる。
「先程までとは威力も質も違うぞ。さぁ、消し飛ぶが良い!」
ウルガンディが狂気を孕んでいるかのような笑みを浮かべてそう言い放つと、奴の頭上の炎槍が俺に向かって飛来する。
「これはちょっとやそっとじゃ斬れないな……仕方ない」
「斬るだと! そんな事が出来る訳は無いだろう!」
そう言って高笑いをあげるウルガンディ。
こいつ、ここまで三下悪役ムーブしかしてないな。
「さて、それはどうかな? ウンディーネ!」
剣を天に向けて掲げ、水精の名を叫ぶ。
すると俺の剣の周りに水が集まり、それはどんどんと大きくなっていく。
「ウンディーネだと……貴様、何故人間の分際で精霊を!?」
「人の話を聞かない奴に答える道理は無いね」
俺がウルガンディの問いをばっさり切り捨てるのと、ウンディーネが魔力を帯びた水のエンチャントを終えるのはほぼ同時だった。
ウンディーネが水を付与した俺の剣は、元の三倍くらいの大きさになっている。
「その槍、たたっ切らせてもらう!」
そして、その水の柱とも言える剣を振り下ろす。
水剣が俺の間近に迫っていた炎槍と激突し、水蒸気を上げながら炎槍を切り裂く。
まぁ、サイズからして倍以上の差があるし、こっちは精霊の付与した水だからな。当然の結果か。
「なにぃ!?」
その様子を見て慌てたのはウルガンディだ。
本来獄炎槍だってそんじょそこらの魔法使いが使えるような魔法じゃない。
どころか、才能が無い魔法使いならば、下手をすれば獄炎槍を使うまでの域に達せずに生涯を終える事すらある。
そんな強力な魔法を易々と破られたのだから、放った側としたらそりゃ驚くだろうな。
「動揺してるところ悪いが、まだ俺の剣は止まってないぜ?」
「!」
俺の言葉にウルガンディがハッとする。
そう、俺のこの水の剣は炎槍を切り裂いた後も存在したままで、今もその刀身にまとわせた水が、陽の光を反射して輝いている。
「さぁ、次はお前だ……いくぞ!」
「おのれぇ!」
掛け声と共に駆けだす俺に、慌てふためいた様子で、馬鹿の一つ覚えのように大量の火炎槍を放ってくるウルガンディ。
「お前、相性ってのを知らないのか?」
自身目掛けて飛んでくる火炎槍を水の剣で横薙ぎに切り払う。
水の剣の刀身に触れた火炎槍から、ジュッとまるで手持ち花火を水に浸けた時のような軽い音をあげ、次々と消滅していく。
「水に火は悪手だって、子供でも解る事だろうが」
「だまれぇ!」
俺の言葉にウルガンディは逆上し、今度は獄炎槍を何本も発生させる。
普通の冒険者にとっちゃ、絶望的な光景になるんだろうけどな、これ。
「残念、相手が悪かったな」
俺は手にした水の巨剣を振り上げて。
「魔浄斬<クリアスレイブ>!」
叫びと共に一気に振り下ろした。
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