第4話 ポイズンフロッグ討伐
サディールとミレット湖の間に位置するルーデル森林地帯。
結構な広さがある鬱蒼とした森ではあるのだが、ところどころ開発され拓けている場所もあり、俺達はそのうちの一つに居た。カイルとソマリアに剣と魔法を教える為だ。
依頼の期限は三日を切っている。
カイルにはああ言ったが、確かにカイルの言う通り、依頼の期限に間に合わないのはさすがに拙い。
そもそも冒険者ギルドに出される依頼って言うのは、王族や貴族の道楽は別として、それを必要としている人が居るから出される物だ。
特に討伐系の依頼ってなると、それで困ってる人や組織が居るから出される訳で、依頼人にしてみれば、依頼が流れる=困り事が解決しないって事だからな。
場合によってはその困り度合いが生死に関わる場合もあるだろうし、何より受けた依頼が流れるというのは、仲介した冒険者ギルドの信用問題にもなってくる。
冒険者ギルドに頼んだのに解決しなかったって話が広まれば、冒険者ギルドに依頼を発注するのに二の足を踏む者も出てくるだろう。そうなればギルドの運営にも影響が出てくる。
それはサディールみたいな大都市の冒険者ギルドにも当てはまる事で、だからこそ、そこに属している冒険者としては、依頼が期限内に果たせず流れるという事態は出来れば避けたいところだ。
とは言え、それこそ先程俺がカイルに返したように、死んだらそれこそ元も子もないのは事実。ギルド的には失敗扱いになるので信用云々の問題はそこまで出ないだろうが、信用も何も命あっての物種だ。
サディールへの帰還の時間を考えると使える時間は一日程。その一日で何処まで二人を鍛えられるか。
どうしても付け焼刃になるのは仕方ないとして、とりあえず二人が死なないようにと言うのと、彼等の動きも込みで、ポイズンフロッグを倒せるようにしないとな。
「さて、と……とりあえず、魔法に関しては簡単だな。ポイズンフロッグに有効な魔法を覚えてもらうんだが、火炎球が使えるなら後は応用で別属性の球系の魔法習得はわりとどうにかなる」
「そうなんですね」
「問題は、カイル」
「お、おう」
安堵した様子のソマリアと、話を振られて緊張している様子のカイル。気の抜き過ぎも、張り過ぎも、どちらも良くないんだがな。
「ソマリアは魔法使いだから後ろから魔法で攻撃できるが、俺やカイルはポイズンフロッグに迫らないといけないからな。立ち回りと有効打になる攻撃方法を、今日一日で叩き込むぞ」
「……あぁ」
「まぁ、実戦じゃ俺もフォローするからそこまで硬くなるな」
そう言うと若干カイルの緊張が和らぐ。
「じゃあ、始めようか」
そうしてその日はポイズンフロッグ討伐に向けた対策に費やした。
宣言した通り、ソマリアには火炎球とは別種の魔法を。
「いいか。ポイズンフロッグには体液が飛び散るような攻撃は、準備が無い限りは厳禁だ。だからここは……」
「な、なるほど。それでコレなんですね」
カイルには、ポイズンフロッグを討伐する際の手順を教え、それに則した動きが出来るように。
「……本当にそんな簡単にいくのかよ?」
「あぁ。倒すだけならこれで十分だ」
「解ったよ」
素直に新しい魔法の習得に取り組むソマリアと、最初よりかは幾分態度を軟化させて俺の言う通りに討伐の手順を練習するカイル。
そして二人の習熟度合いを見て、三人で動きを合わせる。
そんな風にして、その日は過ぎていった。
翌日。
俺等三人はミレット湖に居た。
俺等が居る場所の少し先には、全長が三メートル程ある巨大蛙……ポイズンフロッグ。まだ俺等には気づいていない様子でのんびりと湿原に鎮座している。
「いいか、油断はするな。だが緊張もし過ぎるなよ?」
「あぁ」
「はい」
昨日までと違って二人に緊張している様子は見られない。昨日剣技と魔法の手解きをした効果はしっかりあったようだ。ある程度対策法を教えたのも大きいか。本来なら依頼を受ける前に調べておく事ではあるけどな。
「じゃあ……いくぞ!」
俺の号令と同時に三人それぞれが動き出す。
カイルはポイズンフロッグの右手に回り、ソマリアは後方に下がって魔力を集中させ、俺はポイズンフロッグの左手に回る。
さすがにここまで来ると俺等の事を察知したようで、奴は右手に回ったカイルをじっと睨みつける。
「土石球<ストーンボール>!」
そんなポイズンフロッグの横っ面を、昨日教えたソマリアの土石球が狙い、小さな土石の詰まった球体が奴の頬に叩きつけられる。
火炎球では体表の毒が気化する。
水流球でも体表の毒が流されて周囲に毒を垂れ流す。
ましてここは湖だから一回溶け込むとちょっと見ただけでは見分けがつかなくなる。
色々手はあるが、こいつを討伐する際に最適なのは土石球なんだよな。
警戒している相手と実際に危害を加えてきた相手。
やはり優先度は後者の方が高かったようで、ポイズンフロッグは視線を移し、ソマリアに標的を定め、後ろ足に力を入れて飛び跳ねる為の前動作を取る。
「おっと、この状況でその動きは悪手だぜ?」
俺はそのタイミングを見逃さず、ポイズンフロッグの左後方から、飛び上がる直前の力を溜めた後ろ足を剣で切り裂く。
しっかり踏み込んで深く切り付けたため、切り裂いた後ろ足が機能しなくなる。人間で言えば足の腱を切られたようなものだ。
そしてそうなれば……
「グェェェェ!」
ズズン!
「まぁこうなる、と」
ポイズンフロッグの咆哮が周囲に響き、その後に地響きが鳴り渡る。
左の後ろ足の支えを失い、また右の後ろ足は力を溜め、それを今にも解放しようとしていたポイズンフロッグは、完全にバランスを失い前につんのめる形で地面に伏す。さて、これでお膳立ては整ったな。
「カイル!」
「あぁ!」
俺の呼び掛けにカイルが勢いよく答える。
昨日何度も打ち合わせをしていたおかげか、足を取られやすい水場だと言うのにカイルの動きはスムーズで早い。
機敏な動きで地面に転がったポイズンフロッグの目の前に回ったカイルは、手にした剣をポイズンフロッグの口の中に突っ込み円を描くように捻る。
直後、ポイズンフロッグの身体がビクンと跳ねる。
「よし、下がれ!」
瞬時に飛び退きポイズンフロッグと距離を取るカイル。俺も距離を取り二人の近くに行き不測の事態に備える。
一瞬の後、起き上がり態勢を整え直そうとするポイズンフロッグだったが、起き上がりきる前に再び地面に転がる。何度かそれを繰り返し、徐々に動きが緩慢になり、そしてしばらくすると動かなくなった。
「……ふぅ、終わったな」
ポイズンフロッグが完全に動かなくなったのを確認してから、剣を鞘に収める。
「ほ、本当にこんなあっさり倒せちゃった」
「うそだろ……」
「さぁ、帰るぞ」
俺は唖然としている二人に向き直り、そう告げた。
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