第2話 シルバーウルフの襲撃
サディールの街からミレット湖へ向かう道中は、ギルド内での出来事とは打って変わって静かなものだった。
俺と、剣士風と魔法使い風の二人組パーティーは、石畳で舗装された、左右に森林が生い茂る街道を行く。
サディールくらいの大きな都市に繋がる道だからか、街道の舗装も立派だな。
辺境の町や村辺りの道は、ある程度整備されてはいても、ここまで立派に整えられた道はまず無い。
まぁ、此処を毎日のように物資や商品を運ぶ馬車が行き来するんだから、これくらいしっかりした道じゃないと、通行量に耐えられないって言うのもあるのかもしれないが。
周囲の景色を眺めながらそんな事を考えつつ、ふと二人に目をやると、ガチガチに緊張している。
「……で、カイルとソマリアだったかな。」
「はい」
「……あぁ」
このルーキー達の緊張をほぐしてやる為にも、明るめの声色を作って話しかける。
こういう静かな道程って言うのも嫌いじゃないが、このままじゃ使い物にならないだろうしな、この二人。
その意を察してくれたのか、魔法使い風のソマリアは素直に返事をしてくれるが、剣士風のカイルは渋々と言った感じだ。
「今のうちに聞いておきたいんだが、君等、ポイズンフロッグの事はどこまで知っている?」
「どこまでとは?」
「例えば特性や倒し方とかだな。討伐の依頼を引き受けようとしていたんだから、それらの情報くらいは調べてあるんだろう?」
俺の言葉に目を背ける二人。いやいや、おいおい……
「あのなぁ、ポイズンフロッグがどれくらい危険な魔物かくらいは、冒険者でなくても知られてるはずだぜ。それを退治しに行くのに下調べの一つもしないってのは自殺行為……」
「うるせぇ! それでも俺達はやらないといけないんだよ!」
俺の言葉を遮ってカイルが声を荒げる。元気が良いのは悪くないがこういう場所では静かにしないと……
「ガルルルルルルルッ」
「……まぁ、こうなるわなぁ」
カイルの大声に反応して俺等の目の前に姿を現したのは、白い毛色の大型の狼が四匹……いや奥からもう一匹来たな、五匹か。
ただの狼じゃない、シルバーウルフと呼ばれる魔物だ。
魔物と言うのは、普通の動物に似ているが、魔力を有しているのが特徴で、動物は魔力を持たないのに対し、魔物は種類によっては人間と同等か、それ以上の魔力を持つ種も居る。
発生の原因は不明だが、基本的には凶暴であり、主に人や動物を襲い喰らう。
このシルバーウルフと言う魔物は、そんな魔物の中でもかなり弱い部類に入るが、群れを成して行動する習性を持ち、沢山集った大きな群れの場合には、それなりに無視出来ない存在でもある。
「ひっ!」
「な、なんでこんなに!」
「いや、君の声が大きすぎるんだよ」
この反応、本当に二人とも新人だな。さっきの情報収集不足の件と言い、これでよくポイズンフロッグを討伐しようとしていたもんだ。
苦笑いを浮かべながら俺は腰から下げている剣を抜き、こちらの様子をうかがっているシルバーウルフの群れに向けて構えを取る。
「おたおたしている暇は無いぞ。来るぞ!」
二人が動揺している様子を見てチャンスと見たのか、俺が二人に声を掛けると同時に、群れのうち二匹が左右から飛び掛かってくる。
「ひぃ!」
「来るなっ!」
「ったく……よっと」
二匹は完全に怯えきってしまっている二人に狙いを定め走るが、その二匹が彼等に喰らい付く前に、間に割って入った俺の剣が二匹の胴体を薙ぐ。
切り裂かれた二匹は裂かれた胴から多量の血と中身を周囲にまき散らし、すぐにそのまま動かなくなった。
「命の取り合いはびびったら負けだ。次が来るぞ!」
「「!」」
俺の再度の𠮟咤にようやく二人の硬直が解ける。まぁ新人にしちゃ早く立ち直った方か。
一方シルバーウルフの方は、二匹が俺にやられた事と、その俺の声に怯んで、彼等とは逆にややたじろいだ様子を見せている。
「残り三匹。ちょうど俺等と同数だ、一人一匹相手するぞ」
その言葉に二人は緊張した面持ちながらそれぞれ武器を構える。さすがにシルバーウルフ位は一人で倒してもらわないとな。
そんな事を思っていると、残る三匹のシルバーウルフが俺等に向かって走ってくる。
さっきの二匹が一瞬で斬り伏せられたのを見ても襲ってくる辺り、さすがは低級の魔物と言うか。互いの戦力差が解ってないらしい。いや、解っていたらそもそも俺が居るこのパーティーを襲ったりはしてこないか。
(まぁ、さすがに群れの頭の相手はきついだろうからな。大体一番強いか賢しいやつが統率してるってのが常だし)
動きや連携を見るに、恐らくこいつが群れの頭だろうと見定めた一匹は俺が受け持つ事とし、自ら前に出てその一匹の動きを抑える。
「その二匹は任せた、上手くやれよ」
「は、はい!」
「あ、あぁ!」
動きも返事もまだ硬さがあるが、まぁあの感じなら食い殺される事は無いだろう。
シルバーウルフは人や動物を狙うだけではなく、畑を荒らす害獣でもあるため、冒険者でなく一般人でも排除したりする事はあるからな。
要は、単体じゃそれくらいの強さって事だ。
「はぁっ!」
「火炎球<ファイヤーボール>!」
腰から下げた剣を鞘から抜き放ち、横に薙ぎ払いを放ったカイルの雄叫びと、オーソドックスな初級魔法である火炎球を放ったソマリアの声が重なる。
二人に向かった二匹は、それぞれ、切り裂かれ、また盛大に燃える。
「……カイル、そっちのはまだ生きてる! 油断するな!」
ソマリアの火炎球に焼かれた方はそのまま絶命し動かなくなったが、カイルに斬られた方は一撃で仕留めるには至らず、負傷とカウンター攻撃に怯みつつも一歩後方へ飛び退いた後、再度カイルに飛び掛かる。
「その位置なら突き刺せ!」
「あぁ!」
両者の距離的に薙ぎは有効打になり得ないと判断し、カイルに突き刺すように指示を出す。
先程まで反抗的な態度を取っていた彼だが、さすがにこの状況では悪態の一つも吐く余裕は無いのか、素直に返事をし剣をシルバーウルフに真っ直ぐ向けて突き出す。
直後、その剣に自ら突き刺さりに行くような形でシルバーウルフが飛び掛かり、呆気無く命を散らす。こいつ等思ったより単純で、獲物に向かって走りだすとまず止まれないんだよな。
そういう意味では初心者冒険者にとっては、こいつ等の相手をするのは戦闘の良い練習にもなるんだが。
「さて、じゃあお前も逝っとけ」
二人がそれぞれ一匹ずつ仕留めたのを確認し、対峙して抑えていた頭と思われる一匹に素早く近寄り、剣を一閃させ瞬時に葬る。
「とりあえず怪我は無いようだな。良かった良かった……って訳で、こっから先は大きな声は禁止な?」
剣に残ったシルバーウルフの血を拭い、鞘に収めながら二人に声を掛けると、まだ戦いの緊張が残っているのか、二人とも強張った面持ちで頷いた。
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