精霊剣士の冒険譚~雇われ冒険者は世界を救う~

ロウ=K=C

第1話 冒険者、雇われる


 大都市サディールの冒険者ギルドは今日も人がごった返している。


 規模が大きく経済的にも恵まれているため、何処の国にも属さない独立した都市として栄えているこの街は、街の警護団と共に、冒険者が街を護る戦力の要として重宝されている。

 だから冒険者は、この街で人気上位に入る職業でもあり、他の街や、国と比べてみても、冒険者の数が圧倒的に多い。

 言ってしまえば、ちょっとした小国にも匹敵するだけの戦力を、経済力と共に持ち合わせた巨大な都市だ。


 俺は、そんなサディールの冒険者ギルドで、隅にあるテーブルにてエールを飲みながら、人々が行きかう様子を眺めていた。


(さて、今日は俺の出番はあるかな?)


 テーブルに届いたばかりのエールはよく冷えていて、一口含むと程良い苦みが口の中に広がる。

 きちんとした冷却処理出来る設備がある街でないと、ここまで味わいのある冷えたエールは飲めない。そしてそんな設備がある街はそうそう多くは無い。

 このエール一つ取ってみても、この街の規模と言うか、繫栄度合いってのが解るっていうものだ。


「……ん?」


 そんな事を考えながら視線をギルド内に戻すと、受付カウンターに二人組の冒険者が並んでいた。

 片方は短髪で剣を腰に下げた剣士。もう片方の長髪の方は、杖を持ちローブを羽織った魔法使い……かな。見た感じどちらも若いし、挙動などからすると冒険者になりたてと言ったところだろうか。


 その二人は、長身痩躯の片眼鏡を掛けた短髪で茶髪のギルドの受付係と揉めている。時々漏れ聞こえてくる会話の内容からすると、受注したい依頼と彼らのランクが合わないようだ。


「これは……出番かな?」


 俺は半分程エールが残っているジョッキをテーブルに置き、おもむろに立ち上がる。

ジョッキに残ったエールは惜しいが、仕事をして稼がなければ、明日のエールを美味しく飲めないからな。


「俺達はどうしてもこの依頼を受けたいんです!」

「申し訳ありません。こちらの依頼はあなた方のランクではお任せする訳には……」

「ラ、ランクは足りてないかもですが実力はあります!」

「そうであったとしても、ある程度実績が無い方にはお任せ出来ませんので……」


 この感じ、やっぱりこの二人は新人のようだな。ランクの件もだが、普通の冒険者ならこんな事で受付係に食って掛かる事は無いだろう。受付係も困っている様子だ。


「やぁ、君等」


 三人の視線が俺に向く。


「あぁ、アルスさん」


 俺の名を呼ぶ受付係はやや安堵した表情を見せる。


「何だよオッサン! このカウンターは今俺達が使用中だ!」


 対して受付係に噛み付いていた新人冒険者とおぼしき剣士君は、今度は俺に矛先を変えて、今にも斬りかかってくるんじゃないかと言わんばかりの勢いで噛み付いてくる。


「まぁまぁ落ち着け。エスタさん、彼等が受注した依頼は?」

「あ、はい。ミレット湖に発生したポイズンフロッグの討伐です」

「なるほど」


 受付係のエスタさんは、彼らがカウンターへと持ってきたと思われる、依頼内容が記載された依頼書を手渡してくる。

剣士君が狂犬のような眼差しで睨みつけてくるが、まぁ放っておいて内容を確認するか。


 ポイズンフロッグとは、言ってしまえば大型の化け蛙だ。ただ、その名が指し示すようにその身に強力な毒を持っており、下手に傷付けて飛び散った体液を浴びたり、体表に触れたりすると、その猛毒に侵される。対処を誤ればベテランの冒険者でも返り討ちに遭うような厄介な魔物だったりする。


「ん?この依頼、期限が……」


 用紙を確認していた俺だったが、気になる点がありそこに目が留まる。これは……


「はい。あと三日で掲載期間が終了です」

「返せよオッサン。聞いただろ? もう時間がねぇんだよ!」

「おい、落ち着けって……」


 魔法使い君が剣士君をなだめている様子を尻目に、俺は依頼書をエスタさんに返した。


「エスタさん、いつもの手続きでこの子等にこの依頼を受けさせてやってくれないか」

「「え?」」


 俺が受付係のエスタさんへ掛けた言葉に、間の抜けた声と共に一瞬彼らの動きが止まる。


「はい、それなら問題無いですね」


 エスタさんはエスタさんで、待ってましたとばかりに笑顔で答える。


「じゃあそう言う事で頼むよ」

「はい」

「ちょちょちょちょっと待った!」


 俺とエスタさんが話をまとめたところへ、剣士君が割って入ってくる。


「いつもの手続きってなんだよ?」

「簡単な話だよ、俺が君等に雇われる形で同行する。勿論ポイズンフロッグ討伐も手伝ってやる」

「はぁっ!?」


 俺の言葉を聞いて、剣士君が素っ頓狂な声を上げる。


「仕方ないだろう? 君等じゃランクも実績も足りてないんだから」

「そ、そりゃそうだけどよぉ……」

「カイル、僕は悪い話じゃないと思うよ?」


 それまで様子を見ていた魔法使い君が、おずおずと言った感じで剣士君へ話しかける。ふむふむ、剣士君はカイルと言うのか。


「どういう事だよ」

「正直僕達じゃポイズンフロッグは倒せないよ。いくら皆の為って言っても無謀すぎると思う」


 ほぅ、この子はわりと冷静なのかな?


「だから、この人が倒してくれるって言うなら任せちゃった方が僕等は安全じゃないかな?」


 ……冷静と言うよりは、臆病なのか人任せなのか。まぁそういう奴の方がこの手の職種は生存率が高くなるもんだが。


「あー、勘違いしてるかもしれないが、俺は手伝ってやると言っただけで、俺が倒すとは言ってないぞ?」

「え?」


 今度は魔法使い君の方が変な声を上げる。


「あくまで手伝うだけだ。勿論君等もしっかり働いてもらうからな。あと報酬は三分割だ」

「ほ、報酬は別に良いけどよぉ」


 あぁ、やはりそういう感じか。ならまぁ話は早い。


「と言うか、どのみちこうしないと君等はこの依頼は受けられないぜ。さぁどうする?」


 俺の言葉に一瞬顔を見合わせた二人は、すぐさま俺に向き直り首を縦に振った。

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