第11話(後編)
体育祭はクライマックスを迎えます。
最終種目は騎馬戦。
両軍それぞれ15騎が参加します。1騎は馬役が3人、騎手が1人の四人組で構成されます。芸能科生徒の約半数が参加する大規模競技。配点も高く、例年通り、騎馬戦で勝てば優勝です。
またこの騎馬戦はチャンバラのルールも取り入れています。
「この風船を割られたら退場、か」
騎手役の
「そうじゃ。
同じく騎手役である
「任せてくださいよ! なっ、
「なんでボクが馬なんだ……」
「まぁ身のこなしじゃろうなぁ……」
どんなルールでも騎馬戦である以上、一般論として騎手は運動神経が良い方が向いています。相手の動きを見切る洞察力、不安定な状態で相手の風船を割る身のこなしは
「おーほっほっほ! 騎馬戦でもあの男に勝ってみせますわ~」
と高笑いする
「男女混合なんですね」
「うむ、女子はハンデで薙刀が持てるからのぉ。毎年何人かは騎手で出てきよる。……心得のあるものもいるしの」
「見られてるぞ、
「……そうだな。やつは頭は悪いが、視力はいい」
互いに騎手である
その横でシンプルに苦しそうな顔の馬役、
「なんでこの配置……」
「頼みにしてるぜぇ、馬ども!」
「「オウ!」」
騎手役の
「すでにきついっす、ワシ先輩」
「軽量級の騎馬だけでは対応できない場面を想定してのことだ」
涼しい顔で言ってのける
「騎手がどれだけ強くとも、勢いで押し切られ、馬ごと潰されることもある。その点どっしりと構えた重量級の騎馬、長いリーチを活かしての攻撃ができる
「お、おれがここである意味は……?」
「馬役の前衛は司令塔だ。状況を見極め、進路を決める必要がある。ときには踏みとどまり、耐えるしかないこともあるだろう。うまくやれ」
「……うーっす」
と返事はしたものの、
スタジアムに響くのは太鼓の音。
ドン……ドン……とゆっくりと打ち鳴らされ、少しずつ早くなっていきます。そして音と音の境目がなくなるほど叩かれ、最後に大きく間を開けて、強く太鼓が叩かれました。
「東軍、前へ!」
スタジアムの東側、芝生の上に立ち並ぶ15騎。東軍の大将にして生徒会長の
「西軍、前へ!」
対になる西側に、また別の15騎が並んできます。中央にはやはり大将、風紀委員長の
「両軍、前へ!」
30騎が一斉に前に一歩前に進みました。ずんっと大きな音がします。90人の馬役の足音、その上には武器を構えた30人分の騎手役の重みがあります。両軍の距離は50メートルほどです。サッカーコートをフィールドとする騎馬戦において、前進、後退、左右への展開など、開始直後から多くの選択肢が広がっています。
太陽はすでに天頂を通り過ぎ、西日にじりじりと照らされます。ときおり吹く弱弱しい風がとても気持ちよく感じます。
「開戦!」
ホラ貝の音と共に、30の騎馬が動きます。
「全軍突撃! ですわ!」
「た、大将が一番前!?」
「うろたえるな、
西軍とは対照的に、東軍は
しかし、西軍はぴたりと動きを止めます。
進み続けるのはたったの一騎。
「ワシじゃ!」
ここで凹型の両端、つまり「敵が突っ込んできたら機動力を活かして回り込み、包囲する役目」の騎馬が反応します。たった一騎ではあるものの、大将の風船が割られれば負けです。リスクは排除すべきという考えで、左右2騎ずつが
「おうおう! ちゃんと勉強してきたようじゃのう! しかし、すまんがのぉ、つい今しがた、思い出しておいたばかりなのじゃ!」
敵の騎馬に乗り移り、息をつく間もなく騎手の風船を割り、そして自分の馬役の上に戻ります。っそしてそれを繰り返し、もう一騎を撃破。
「……紅霞の能力が効いていない。いや……早座居か」
「デバフがなければ勝てるという判断か……」
「なら──、私が出る」
「むっ! ……なんじゃあ邪魔くさいのぉ」
「私たちの出る幕ではない、
「ワシら騎馬戦リアタイ勢じゃぞ、手本を見せねば、
2人の朱凰の一騎打ちに誰もが注目し、足を止めました。
誰も割り込めるはずもなく、と思いきや。
「やったらぁ! 行くぞオーガンマル!」
「合点承知! いけ
すぐ横の統は小さい声で「それでいい」と呟きました。
「でもよぉ、ちょっと無粋なんじゃねぇか?
「無粋言うとる場合か! 風船を割られたら、能力も使えんくなる!」
風船を割られれば、退場。能力の使用も禁止されます。で、あれば、能力的にも経験的にも最強の『
「こっちの『忘却』が誰を対象にしているかを見つけるまで、あっちは『想起』でリカバリさせることはできん! 『弱化』だけじゃきついからダブルチームで女子の
タイミングも対象も絞らせない分、能力戦は仕掛ける側が有利です。
「正直よくわかんねぇが……んで、どうする? 俺ぁ
「せやろな! でもおんなじことをやってくれ!」
「あ?」
もはや
「かかっ、その意気やよし! かかって──、こ、待て待て待て待て!」
「やってくれる!」
しかし、
「っ! ハイカラなトサカじゃな……!」
大和のリーゼント(厳密にいうとワックスで固めた前髪部分)が
「どんなもんだ!」
「じゃがこれで決まりじゃっ!」
またしても身を翻し、今度は
「道連れじゃ」
「……はぁ」
大きく歯を見せて笑う
ぱぁん! と大きな音がして、
東軍 残り10騎
西軍 残り14騎
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