第10話(後編)
西軍の本陣のテントで、
「はっ! 手玉に取られてだっせー!」
「……うっせぇな」
そんな2人の手には大きな扇子があり、王座(と呼ぶにふさわしい豪華な椅子)に座っている
「お静かになさい。グッドルッキングガイ」
「……はい」
「……はい」
しゅん、と2人のボルテージが下がります。
その様子を見て、
「なぜあのお2人がああも従順なのでしょう……?」
「ん~? なんじゃったかな。金髪のは姉がどうの、黒いのは妹がどうのと言っておったのぉ。ま、身内が知り合いとかファンとかで逆らえないとかそんなとこじゃろ」
「なるほど……」
「あ~、悔しい……」
「まだ言ってるのか、
「だって結構練習したんだよ。みんなでさぁ、多少忘れさせられてもすぐ思い出そうって」
ジャージ姿で、半袖の袖をさらに捲っている
それを聞いて、
「鳳凰のじいさんが出りゃあ勝てたんじゃねーの」
「ワシか?」
「残念じゃが、今年は無理じゃ」
なんとも重苦しい声色でした。
「と、言いますと?」
恐る恐る
「今年は
「……ちっ、なら仕方ねぇな」
「仕方なくはありませんわ。まったく、
「
「む。わたくしがあの男に劣ると?」
「そうは言わん。そうは言わんが、今回は一本取られたろう?」
「むむむ」
両隣にいるグッドルッキングガイが扇子のテンポをちょっと上げました。
「おーっほっほっほ!」
「しかし! 午前最後に行われるのは『応援合戦』。わたくしたちの圧倒的世界観の前に東軍はひれ伏すことになるでしょう!」
西軍のテントでは歓声が上がり、拍手が巻き起こりました。
「さぁ、ショーの始まりですわ……!」
応援合戦。
芸能科の体育祭において、これほどアイドル的な競技はありません。三・三・七拍子のような王道だけではなく、現代的なアイドルのライブ、HIPHOP的なダンスやDJによるパフォーマンスなどなんでもありの舞台です。
百人を超える生徒をどう使うかはもちろん自由。しかし全員参加は必須です。大人数をうまく使いこなせるかが印象を大きく変えます。
コスチュームは全員モノトーン。それぞれの意匠やアイテムが違います。サングラスや手袋、ハット、ステッキなどなど。
音楽は洒落ているもののどこか犯罪的な、怪しげなイメージを抱かせます。それに合わせたダンスもゆとりがあり、自分たちの格好良さや美しさをよく魅せるものになっています。
また二つの勢力の抗争というストーリーも展開され、観客を魅了しました。やたら顔のいい金髪の男と黒髪の男が戦うシーンでは興奮のあまり失神する生徒がいました(両目が隠れた背の高い男子生徒です)。
スタンディングオベーションで西軍のショーは終わりを迎えました。
「なるほど。……やるな」
しかし負ける気はさらさらありません。世界観を打ち出すのは結構ですが、よりシンプルに、より多くの観客の心に突き刺さる武器を用意しました。
(本音を言えば、文化祭に取っておきたかったが……)
出し惜しみをして負けるわけにもいきません。
コスチュームはそれぞれ異なりますが、そんなことがどうでもよくなるくらいビジュアル面で眼を惹く要素があります。
男装と女装です。
華やかな衣装に、太鼓の音、掛け声など、いかにもお祭りらしい調子です。
東軍のショーも大いに盛り上がり、拍手喝采に包まれながら終わりました。
かくして、両軍の応援合戦は終わりました。
「こりゃまた一本取られたのぉ……」
「むむむむむ」
応援合戦そのものは点数には入りませんが、
「男装に女装なんて……ずるいですわ! わたくしもやりたかったのに……! 自制したのに……!」
「
「……そうだね」
「ルリがやたら隠してたのはこれのことだったのか……」
「
「
2人でパシャパシャと
「これで午前の部は終わりか……」
「
「……二人三脚」
「誰と?」
そう、誰と出るか。それが
「――とだ」
「え?」
あまりに小さい声に、
「
きーんと耳が痛くなりながら、
耳まで真っ赤でした。
「そ、そんなに緊張してんの……?」
「ばっ、あの
「憧れてるんだ」
「ち、違う! ただその歴史的に、客観的に考えたときにその功績ははかり知れないという話を――」
「わかったわかったから……」
そんな2人のやり取りを見て
(こいつ、だからルリと馬が合ったのか……)
なんとなくすっきりした
そんなこんなで、体育祭は午前の部を終え、お昼休みを挟み、午後の部へと続きます。
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