第17話 証明する男

 ようやく50時間が経ち【称号:ダンジョンに住まう者】を手に入れた俺は、エリカを連れてダンジョンの外に出た。そのまま俺たちはバンドムがいるであろう大部屋に向かう。その大部屋に近づくに連れ、住人たちは怯えるように蹲っている様子が見受けられ始めた。何に怯えているのかと思いながら大部屋に向かうと、外に響くほどの大きな音でバンドムが誰かを罵倒する声が鞭を打つ音とともに聞こえてきた。


「クソがッ! あのガキのせいでずっとイライラしっぱっなしだッ! ふざけやがってッ! 何がレベル300だッ! あんなガキに不可能に決まってるのに、大口だけ叩きやがって……ッ! 戻ってきたら絶対にぶっ殺してやる!」


 おうおう、メチャクチャ苛ついているようだ。パンッ、パンッと鞭打つ乾いた音と男の悲鳴が廊下まで響き渡る。エリカはそれを聞いて顔を顰めた。俺は出来るだけ大きな音を立てて部屋の中に入った。


「よお、帰ってきたぞ、バンドム」

「……ガキィ。ようやく帰ってきたかァ」


 バンドムは手に鞭を持っていて、目の前にはボロボロの状態で蹲る男がいた。その周囲には怯えるような女たち、俺のことを仇かのような目で睨みつけてくるバンドムの部下たちがいた。俺はそんな中を胸を張って歩き、バンドムの前まで行った。


「覚悟は出来てるんだろうな?」

「覚悟だって? 覚悟を決めるのはそっちだろう」


 俺はバンドムの言葉に不敵な笑みを浮かべてそう返した。そう煽ってやるとバンドムは余計に苛立ったのか、額に青筋を立てて俺を射殺さんとするほどの眼力で睨みつけてきた。俺はステータスと高らかに宣言して自分のステータス画面を開いた。そしてスワイプしてバンドムの前まで俺のステータスが書かれた半透明のウィンドウを送る。バンドムはそれを見て、口をワナワナと震えさせた。


「お前……本当にレベル300になったのか……」

「これで理解したか? 俺がレベル9999……カンストまで至る男だと」


 バンドムは俺を見た。その表情は畏怖に塗れていた。


「く、クソがッ! 信じられるか! こんなのハッタリだ!」


 バンドムは慌てたように壁に立てかけられていた自分の得物の直剣を手に取ると、鞘から抜いて俺に斬りかかってくる。俺は剣を鞘から抜くこともせず、その攻撃を真っ正面から受け止めた。


「グ、グググッ……! う、動かねぇ……」


 もちろんレベル差があるので、バンドムの攻撃を俺が受けるはずもない。バンドムがいくら力を込めようとも筋力値の差によって俺はピクリともしなかった。そのことをようやく理解したバンドムは剣の柄から手を離し、カランカランと地面に落とすと、そのまま座り込むように地べたに膝をついた。


「そんな……馬鹿な……。本当にレベル300なのか……」


 心が折れたように力の抜けた声でバンドムは言う。そんな彼に俺は近づき【竜人の実】を手渡した。


「これは……」

「それは【竜人の実】というものだ。おそらく【ワイバーンの天空世界】のボス、竜人王バーラお気に入りの果実だ」

「そうか……これを持っているということは、本当に【ワイバーンの天空世界】を攻略したんだな……」


 そう項垂れる彼に俺は言う。


「食ってみろ。美味いから」

「……いいのか?」

「ああ、もちろんだとも。お前たちは既に俺の部下なんだからな」


 そう言うと彼はパクリと大口を開けて【竜人の実】を食べた。瞬間、ガツンと殴られたように倒れ込んだ。そのまま動かなくなったかと思ったら、急に立ち上がって俺に詰め寄ってきた。


「なっ、何だこの美味い果実はッ!? もっと、もっとくれ!」

「そう言うと思ってた。――ほらよ」


 俺は更にいくつかの【竜人の実】をバンドムに手渡した。それを夢中になって食べ始めるバンドム。彼は一瞬で手渡した分を食べ終えると再び俺に詰め寄ってきた。


「もっと! もっとないのか!」

「ある」

「じゃあ、くれ! もっとくれよ!」


 そう縋るバンドムに俺はニッと笑い言った。


「お前が俺の役に立ったと思ったら、いくらでもやろう。だから俺の役に立て」

「ああッ! もちろんだとも! このためだったらいくらでも役に立とう! 何でもしてやろう!」


 バンドムの我を失ったような言葉に部下たちが慌てて言った。


「バ、バンドム様ッ! そんなガキの傘下に加わって本当に良いんですか!? コイツ、オックスフォード家の面汚しですよ!?」


 そんなことを言う部下にバンドムは怒鳴り返した。


「うるせぇ! んなこと、どうでもいいんだよ! 俺はこの果実をもっと食いたいんだ!」


 完全に目が血走っている。口からぶくぶくと泡を吐き出しながら叫んだ。バンドムは悪党だし、今の惨状にも罪悪感が全く湧かないな。俺はそんな彼の目の前に果実を取り出し見せつけながら言った。


「もっと俺の役に立つか?」

「立つ! 立つに決まってるだろ!」

「バンドム組は俺の傘下に下るか?」

「もちろんだ! いくらでも下ってやろう!」


 よし、言質は取った。俺はそう必死に縋ってくるバンドムにこう言い渡すのだった。


「それでは、任務を言い渡す。俺とともに【ゴールデン・フォレスト】へ向かい、一週間で800万ペソカを稼げ。これが最初の任務となる」

「なっ、何だと!? 800万ペソカなんて無理だ! それだけあれば人が何年暮らしていけると思ってるんだ!」

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