無能な悪役貴族はLv9999になりました〜効率厨がひたすら周回レベリングしていたらいつの間にか世界最強〜

AteRa

効率重視のレベリング

第1話 もしかして、これが転生

「ふう……これで一時間二十三分か……ようやく新記録更新だ……」


 俺はヘッドマウントディスプレイを外し、ゲーミングチェアに身を預けながら深い息を吐く。


 長い道のりだった。

 というか、無駄に長い道のりだった。


 このVRRPG『ブラッド・ワールド』は、とにかく無駄が多いのだ。お遣いクエストが多いくせにマップが異常に広いせいで移動時間だけが無駄に多い。それに加えて、レベリングもメインクエストだけでは攻略できなくなってくるので、ちゃんとしなければならない。しかし運営側の無駄な良心なのか魔物とのエンカウント率が低く、逆にレベリングが難しかった。


 その中でRTAをしようと思っている酔狂なプレイヤーたちは、効率の良いレベリングや攻略法を手探りで探していくことになるのだが、俺がもともと他ゲーでも効率厨だったこともあり、色々と効率の良い攻略法を見つけ出していた。最新のゲームではバグというものが駆逐され、ショートカットや裏技でRTAすることができなくなり、正規ルートでのチャートとテクニックが求められる。つまり正々堂々の勝負ってことで、その枠組みの中で俺は最速攻略を叩き出すために何度も繰り返し続けていたってことだ。


 それで俺はようやく最速RTAを叩き出した。総プレイ時間は一万三千時間。中学生の頃から初めて、もう社会人になろうとしているので、現時点での人生のほとんどをこのゲームのRTAに捧げたといっても過言ではない。


 他に競い合っている同志たちが強すぎてなかなか勝てなかったが、ようやく世界最速を叩き出せた。


「ようやく眠れる……。もう一週間寝れてないんだ……」


 毎日三本エナジードリンクを飲んで無理して追い込みをかけていたからな。そろそろ社会人になる。そうなったら時間なんて取れなくなるので、今のうちに記録を更新しておきたかったのだ。


 そうして俺は眠りにつき、そのままその世界では目を覚ますことはないのだった。



+++++



「アレン様、アレン様!」


 俺はそんな声と共に目を覚ました。聞き慣れない声だ。瞼を開けると最初にどこまでも広がっている大空が目に入り、少し視線をずらすと三角帽を纏った銀髪ロングの魔法少女っぽい女の子が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。歳は俺と同じくらいで大学卒くらいだろうか。しかし格好が普通じゃない。現代日本にしては異質すぎる。


「大丈夫ですか、アレン様! ちょっと強めにやりすぎてしまいました! 本当に申し訳ございません!」


 ぼんやりする頭で状況を理解していく。どうやら俺はこの魔法少女と、手に持っている杖で魔術の特訓をしていたみたいだ。そしてその結果、俺は吹き飛ばされ気を失いかけたと……。って、なんだこの記憶? そこで俺は元々持っていなかった記憶が混在していることに気がついた。


「もしかして、これが転生か……?」

「どうかしましたか、アレン様? その、転生とは……?」

「いや、なんでもないが、少し休憩したい」


 俺が思わず言葉をこぼすと、女魔法使い――レイアは不思議そうに首を傾げた。やっぱり知らないはずの名前が分かる。何かがおかしい。おそらくこのアレンとかいうやつに転生して、彼の記憶が混在してしまったのだろうが、なかなか受け入れ難いな。しかしそれが事実なら、俺もアレンも一度は死んだってことになる。どうにも実感が湧かないが、ともかく生きているなら行幸。


「は、はい。流石に今のはやりすぎてしまいましたからね。少し休憩すると良いでしょう」


 そう言ってレイアは屋敷の方に戻っていった。その間に俺は芝生に座り込んで記憶を参照していく。どうやら俺はアレン・オックスフォードという名前の少年に転生したらしい。歳は現在一〇歳。オックスフォード家の長男で……オックスフォード家の恥さらしとまで言われている少年だ。


 どうやらこの家は魔術の名門の公爵家で、知恵と強さこそ正義みたいな風潮があるらしい。しかしアレンには魔術の才能がなかったのか、強くなれずに半ば虐げられていた。弟エイジの方には才能があったみたいでそっちが優遇され、アレンは冷遇されていた……って感じみたいだな。


「……やっぱりこの世界って『ブラッド・ワールド』か?」


 そこまで記憶を参照してようやく確信に辿り着く。さっきまでプレイしていた『ブラッド・ワールド』の世界観と全てが酷似しているのだ。ステータスやレベルという概念があり、スキル周りの名称や地理常識歴史、その他諸々がほとんど同じだ。


「アレンってキャラは……ああ、あいつか」


 アレン・オックスフォード。そのキャラは『ブラッド・ワールド』において最初にやられる噛ませ的な無能な悪役だった。ただのちょい役なので、どうして悪役になったのかも一切本編では語られなかったが、この調子を見るにおそらく家庭環境が原因だろう。


「なるほど……これは面白くなってきたんじゃないか?」


 思わず口元が緩む。俺はこのゲームを一万三千時間もプレイして、世界最速のRTAを成し遂げた男だ。この世界において俺ができないこと、知らないことなんて何一つなかった。


「さて、それなら早速レベリングでもするか。このアレンの記憶が正しいならオックスフォード家は東部地方のアルカナ国の北西端にあるはずだ。ってことは近くに『巨人ダーマの精神世界』っていうダンジョンがあるわけで……」


 そこは俺がRTAの序盤で何度もお世話になった超高効率レベリングに必須のダンジョンであり、今のレベル帯でも簡単にお手軽に周回ができる優良ダンジョンなのだ。敵が強く経験値が美味しいくせに一方的にハメ殺しができるので、安全かつ最速で周回ができる場所なのだった。まあコツを掴んでないと安全とは言い難いのだが。


 とりあえず俺はこの世界を謳歌し、攻略し尽くすためにレベルを上げる。そう決めて立ち上がると同時にレイアが屋敷から戻ってくるのだった。

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