第三十一話 人の格
「どうぞ劉良様」
「…ありがとう」
春蘭からお茶をもらい口をつける。
気づいていなかったが喉がカラカラで
だったらしくすぐに飲み干してしまう。
「おかわりをお持ちします」
「うんありがとう」
茶器を春蘭に渡す。
「さて良、落ち着いたかしら?」
「ええ、大丈夫です」
あの後、一触即発の空気を
簡雍殿がその話術と落ち着いた態度で
鎮め早々に劉備を連れて帰っていった。
そして残された劉良は、
両親に呼び出されていた。
「それでどう言うつもりだ?
劉備に何故あんな事を言った?」
…殺す発言か…時間がたった
今、何故言ったのだろうと後悔する。
「ごめんなさい反省しています」
あそこで我慢して友好的に接すれば
後で暗殺しても疑われなかっただろうに
感情を抑えられなかった。
「我々は、一族なのだぞ!!
それを殺すなど…お前には失望した」
劉良は、黙って頭を下げる。
まぁ父上が怒るのも当然か…
「高春、お前も何か言ってやれ」
「そうね、一族殺し何て将来に
禍根を残す事になるからやめときなさい
せめて別家を建てて
縁を切るぐらいにしときなさいな」
「なっ!?高春何を言っているのだ!!」
思ってもみなかった言葉に父は驚く。
「あら?何かおかしな事言ったかしら?
劉良の将来を考えたら
あの碌でなしと縁を切るのは
いい案だと思うのですけど」
「…高春、前から言っているだろう
劉備は、英雄になり我が一族を繁栄させる者だと」
「官職にもつけず自らの荘園も私任せ
しかも最近は裏のもの達とも
繋がりがあるそうではないですか
そんな男が繁栄?滅亡の間違いでしょ」
「そっそれは…」
母の言葉に父は、言葉を詰まらせる。
今の劉備は、幽州に名高い盧植の塾に
行っておきながら官職にも就けず
荘園も私の母に管理させていて、
日々筵を編んで生計を立てているらしい。
ちなみに母の名誉の為に言っておくが
劉備の荘園から出た収入は、
全て渡しているらしく
普通に親子二人で暮らすには、
十分なお金を持っているはずなのに
何故か困窮していて金の無心にくる
…おかしな話だ。
「それに比べうちの劉良は、
この度、劉虞刺史に認められて
直々に劉良の後ろ盾を
ご用意してもらえる事になったわ」
「…は?それはどう言う…」
母は、先程の刺史との話しを父に話した。
「劉虞刺史は、数年後には中央に
戻り出世されるでしょうから
それについていって
中央官僚になれるかも知れないし
地方でだったら大守、
最低でも県令になれるでしょう
つまり劉良は、将来を約束されたのよ」
母は、誇らしそうにこちらを見る。
まぁ未来を知っている身としては、
そう上手くはいかないと知ってるが
今、言う必要はないだろう
「そっそんな」
「…ねぇ旦那様?」
いつの間にか父の後ろに母が回り込んでいる。
「劉良と劉備では、
人としての格が違うの」
「…その言葉は…ッ!!」
後ろを振り向いた劉子敬は、
妻の見たこともない
冷たい目を見て恐怖する。
「…高春」
「旦那様よく考えることね
家族を取るか劉備を取るか」
そう言って母は、父から離れ扉を開ける。
「良、行くわよ」
「はっ…はい」
そう言って部屋から出ていった
母を追いかけ部屋の外に出る。
項垂れた父を残して…
ー後書きー
次回一章終わりになります。
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