第十五話 過去は過去、今は今


「これで案内は、

 終わりになりますお疲れ様でした」

「ご苦労様でした。さっ若様、

 奥様の所に行きましょうか」

「うん」


案内人と別れ春蘭と母上がいるという部屋に向かう。


「春蘭は、母上が荘園に行くときは、

 ついて行かず、ずっと家にいるよね?」

「はい、そうですけど何かありましたか?」

「いやそれにしては、迷いなく歩いてるなって」


春蘭は、ふふと笑って、

「私は、この荘園が故郷ですので

 時々、奥様の計らいで命令書を

 運ぶ役目を仰せつかっておりました」


「確かに時々、春蘭は里帰りさせてるって

 母上が言ってたな」


「ありがたい事です、

 母が一人こちらにいるので少し心配ですので」


「えっ?それなら県の屋敷に連れてくればいいじゃない?」


うちは、使用人が望めば屋敷の一角に

家族を住ませる事ができるようになっている。


「いえ!!それは、ダメです!!

 母は、問題児なのでご迷惑をおかけします」


食い気味に春蘭が拒否する。

…そんなに全力で拒否するって

逆に興味がある。


「とっところで若様、

 奥様が言っていた幽州の問題は、

 わかりましたか?」


明確に話を逸らされたが

まぁ話に乗るか。


「戦争による流民の増加だね」


流民の増加これは、

前世で政務した中で一番頭を悩ませた問題だ。


流民は、なかなか厄介な物で

重い税や軍役から逃げ出した者が多く

放っておくとすぐに盗賊になる。


その為、対策を取ろうとすると

流民を囲い込んで自分の力にしたい

豪族達が裏から妨害してくる。


正直言って、前世ではあまりにも豪族の妨害が酷く一時期匙を投げた。


まぁ最終的には、

反抗的な豪族を一斉に粛清した為

妨害は、止んだが結果、

幽州に大きな傷痕と血が流れてしまった。


…もし、が上手くいってれば、多くの血を流さずに穏便に

幽州は、豊かな州になっていただろうに。


「はいその通りです。

 ご存じの通りこの幽州は、

 長い間、北の異民族と戦っていました

 その為、戦えなくなった兵士や

 戦いで家族を失った者が多くいます

 …私もその一人です」


「そうか…春蘭も」


「私は、幸せ者です。

 奥様に拾われなければ母と私は、

 今頃どうなっていたか…」

 

春蘭は、そう言ってふっと笑う

確かに流民のまま女二人で生活するなど

悲惨な生活しかなかっただろう。


「奥様は、常々言っております。

 家を栄えさせる為には、地盤が大事じ

 地盤たる民が豊かになるほど

 我々も栄えるのよと」


「母上が……

 わかったよ母上達が伝えたい事」


「バレましたか?」


「そりゃ…ね」


母上は、こう言いたいのだ

天ばかり見ずに地を見ろと


「確かに、私は幽州がとか派閥争いが

 とか上の政治の事しか

 考えてなかったかもしれない」


…反省だ、前世に引っ張られて

今もまだ幽州を差配できる立場だと

無意識に思ってしまっていた。

ただの何もなせてない子供のくせに。


その態度を母上達は、心配していたのだろう

不甲斐ない事だ。


「よかったです、若様がこのまま

 自分の立場も見れない愚か者にならなくて」


「…手厳しいね」


春蘭の厳しい言葉に苦笑いを浮かべる。


「申し訳ありません

 …ただ私は、若様は将来

 偉大なお方になると信じています」


春蘭は、強い眼差しで劉良を見る。


「ですので厳しい事を言わせていただきました。ご機嫌を損ねたかもしれませんが

 どうぞお許しいただきたく」


「ううん、気にしないで春蘭

 君のことは、感謝してるし信頼しているよ」


「ありがとうございます」


春蘭が頭を下げる。


…春蘭本当に感謝してるよ


「春蘭は…私にとって姉のような存在だからね」


劉良は、小さく呟く。


「え?今何と」


「何でもない、さぁ行こう!!

 母上が待ってる」


「え?あっはい」


劉良は、歩き出す一歩一歩

足を地につけて確実に。



 

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