第2話  名誉

         ✛


急ぎ足で玄関を開け、慌てて全ての、窓と扉に鍵をかけ、家の中にはまだ、正直忌々しい母親が、何処かに遊びに出かけているのを知って、一旦、オレはようやく、ホッと一息つくことができた。  


 実はあの書店を出てから帰宅の道中。 ずっと背後から、かと思えば、ワープを繰り返すように周囲の様々な場所から転々と身の毛のよだつ視線を感じていた。


家の戸締まりをすべて済ませると、やっとその気持ちの悪い視線は消え、オレは安堵から若干腰を抜かした。 情けないなんて思わないでほしい、今は亡き親父の職業がら、オレ自身も数度、命の危機に瀕した事があったがその時よりもこの視線は、その不気味さを持ってオレに恐怖のストレスを与えたんだ。


オレは最後に家の地下室に続く階段に恐る恐るその歩を勧め、地下室の扉をノックした。すると中から聞き慣れた、高い綺麗な声で返事が帰ってきた。


「おかえりなさいお兄ちゃん。なに〜?そんな忍び足の音を立てて。」


地下室は今や引きこもりとなった、弟、『神崎昇カンザキ ショウ』専用の部屋だった。いやこのときはもうオレはこいつのことは義弟だと知っていたが。


弟は今年でめでたく10歳になるが、生まれつき身体が弱くその影響か下半身が不自由だった。


 ただ尋常じゃない程に頭が良く、加えて、容姿にも恵まれていた。


その頭脳はまだ小学生半ばの年齢にも関わらず大人でも、思いつかない発想と知識を感じられるほどで、


その容姿はオレの黒い髪とは違い、光を纏う美しい銀髪と翡翠色の目をもち、中性的だがどちらかと言うと、美少年、というよりかは美少女と見間違えられ、男女問わず誰もが振り向くほどのものだった。


 当然身体が悪いくらいで、劣等感を抱くはずもなく、万人に愛されて生きてきた、ショウサイは透き通るような心で持って、他人と関われる外出を好んでいた。



だが、半年前、親父が死に、母親が狂ってから次第にショウは自らの心を急激に閉ざし内気な性格に変貌していった。 最も今にして思えばショウサイはこのとき警察官から聞いたのか、それとも拍子に気づいたのか、きっと自らが養子だということにも、気づいていたのだろう。 


ともかく今では、小学生にも通わなくなり、俺達の世話をしてくれる嫌味なカウンセラーにも一切口を聞かず、唯一まともに会話するのはオレと、もうひとりはアイゾウと言う、オレ達兄弟、共通の親友のみであった。


「今から、オレやることあるから! 勝手にオレの部屋の扉を開けるなよ!」


「お兄ちゃん…僕が最近、トイレ以外でこの部屋から出たことあった? 何で今更そんな事を言うの?」


最近何か、気が立っているのか、苛つき混じりの返答をオレは受けた。 確かに、オレは最近、アイゾウが遊びに誘ったとき以外でショウが部屋から出た所を見たことがない。


部屋の中からは苛つき混じりのショウの言葉とは別に、 火花が散る音や 激しく甲高い金属音、 アーク音がけたたましく鳴り響いていた。 溶接作業でもやってんのか? とも思ったが、どうせ聞いたり、危険を警告しても、答えたり、部屋に入れてはくれないだろうと思い、そこは気にしないことにした。


 それはまぁ、賢くしっかりしていると弟なら大丈夫だろう。とある種の信頼もあったからだ。





「いや…なんとなく…とにかくわかったか?!」


「…。あいあい」


オレは弟の気が抜けた返事を聞いてから、ゆっくりと自分の部屋に続く2階の階段へ足を踏み入れた。 いつも何気なく上がっているはずの階段は、今日は特別上がるのに重苦しい疲労を感じた。


部屋につくとオレは、早速 勉強机で例の本を読もうとした。ところがページを開こうとすると、再び背筋に悪寒が走った。 やはりどうしてもこの本を読むことろを他人に見られることに、またはその可能性を残しておくことに謎の強い抵抗感があった。


オレは自分の部屋の天井にあるドアを見上げた。


オレの部屋は普段家族が使っている部屋の中でも、一番高い所にあった。 それは『屋根裏部屋』に続く扉があるからだ。 それは早速、大事な本を脇に抱えたまま脚立を物置から取ってくると、本とあと、電子式の懐中ランタンを持って屋根裏部屋に向かった。


「ゲホッ ゲホッ 何だよ!! ホコリだらけじゃねーか!! まぁ当然か…。」


真っ暗闇で埃っぽい、屋根裏部屋には、倉庫に入り切らない、昔使っていた机と毛布が雑に置かれていた。 ここ10年誰も利用したことのない小さな部屋だった。というより父親が張り切って買っただけのこの無駄に大きく立派な一戸建てには、他にもいくつか使われてない部屋を持て余していた。


オレは帰路の途中で買った、冷めかけた缶コーヒー、とスイッチの入ったランプを誇りを払った木製の低い机におき、数回深呼吸をしてから鞄の中の本に手を伸ばした。


 本に表紙を触ると、オレの背中にもまるで感覚が共有されているかのような感じで、背中からゾワゾワ感を感じた。


開けてはならない


そうナニカから警告されているのは感じるが、それでも好奇心に似たもう一方のナニカに突き動かされながら、とうとうオレは本の2ページ目に目を落とした。



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 天/空への掌握 ダンスマカブル


タイプ 発導魔法スキル

発導者 アルテリア(奈々常菜員ナナジョウ ナイン


モノリスランク 『!』


精霊繁殖力     ☆☆☆☆☆

能力発動精霊消費  ☆☆☆☆

損壊力/死誘力 ☆☆☆☆☆/☆☆☆☆☆

クールダウン   ☆☆☆☆☆(0.03秒)

能力発動スピード ☆☆☆☆☆   

発展性/進化余地 ☆☆☆☆☆ 



奈々常 菜員、のちのアルテリアがもつ2つのスキルのうち、前世そして生まれながらに持っていた最初の一つ


そのスキルは『空気を含め天候、気象現象の発生、操作をすることが出来る。』


一つの世界の完全崩壊の陰謀、そのキーパーソンとして生み出された11人兄弟の生物兵器その中でも特に特筆すべき力を持った、最強の存在 奈々常 菜員は、人としての全ての心を宿しており、故に大切な者を護るため、最期まで自らの宿命に抗い続けた。


しかし、結局はこの力によって自ら世界を殺してしまう。 それは世紀最大の厄災の始まりとなる。彼はどこまで行っても悲劇の主人公にしかなり得ないのだ

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