ドラゴンの襲来

 エルミナと一緒に暮らすようになってから一月が過ぎた。


 最初はどうなるかと思っていた山暮らしであるが、川魚が取れるようになったこと、ルルカが作った畑のおかげで意外と生活は安定していた。


 ただ、その畑は、本来とは使用方法が違った。

 本来なら、作物を育てたりして収穫するのだがこの畑はなんと蔦を伸ばして、自分で作物を収穫してしまうのだ。


 朝収穫にやってくると、畑の前には、山の実がいくつも置かれていた。

 ただ、その畑は、どう見ても魔物にしか見えない。


 平穏に暮らしたい俺としては歓迎できるものではなかったが、あまりにも便利すぎるため使い続けていた。


 そんな日々の暮らしで、いっぱいいっぱいの俺とは対象的にエルミナは毎日の苗木の世話のほかに、いつの間にか自身の家も作り上げており、さらには家のそばに小さな畑まで作っていた。



「あっ、マオ様。今日もお野菜です?」

「いつもすまんな。俺のほうも取ってきた魚があるから」

「ではお食事を作るのです。今日もお屋敷へ行ってもいいです?」

「もちろん構わないぞ。来てもらう一方で悪いな」

「気にしないで欲しいのです。私がやりたくてしていることなのです」



 エルミナは嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに笑みをこぼしながら言ってくる。


 何やらルシフェルが裏でこそこそ動いているのが怪しかったが大きな問題も起きることがなく過ごせているので、ようやく俺が魔王であることを諦めてくれたのかもしれない。


 さらにそのルシフェルの用事にルルカも連れて行かれているために本当にエルミナと二人暮らしをしているみたいだった。


 ただ、そんな平穏も長くは続かなかった。



「こんな所に良い魔力を生み出す場所があるじゃないか。よし、吾輩の寝床に使ってやろう」



 突如として空から現れたのは白銀のドラゴンだった。

 そこで俺は原作のことを思い出していた。


 表のボスを倒し終えた後のやり込み要素として最難関ダンジョンで待つ俺、ラスボスたる災禍の魔王がいる。

 ただそれとは別に高難易度クエストとして討伐依頼が出る隠しボスの一体に龍種がいた。


 白龍王、ウィルバール。


 表のボスをも上回る力を持ち、一定ターン数以内にこのドラゴンを倒すとボーナスアイテムを貰えるという相手である。


 当然ながら生半可な力ではまるで叶わない相手ではあるが、必中攻撃というものをしてこないために低レベルクリアとかの対象にされる相手でもあった。


 ただ、今の俺のステータスでは当然ながら一瞬でやられてしまうのが想像できる。

 できることなら戦いたくないが……。



 俺の後ろにエルミナがいるので引くに引けなかった。



「マオ様、大丈夫なのです?」

「問題ない。すぐに話をつけてくる」



 ゆっくりと降りてくるウィルバール、

 その近くへ寄ろうとしたのだが、次の瞬間にウィルバールの姿は消えていた。



「えっ?」

「ぐおぉぉぉ!? な、なんだ、何が起こったんだ!?」



 よく見るとウィルバールはルシフェルが魔王城を爆破した際にできた大穴にそのまま落ちていったようだ。

 しかし、エルミナの光景からしたら俺が何かをして一瞬のうちにウィルバールを消したように見えただろう。



「おっと、ずっとこの穴を開けたままでしたね。閉じておきます」



 俺が驚いているうちにいつの間にかルシフェルが戻ってきて穴の上から巨大な岩を落としていた。



「うぉぉ、や、やめろ……」



 穴の中から聞こえくるウィルバールの断末魔であった。

 キョトンとしている俺に対して、ルシフェルは不思議そうに聞いてくる。



「何かあったのですか!?」

「いや、何もない……」

「聞いてくださいなのです。マオ様がなんか強そうなドラゴンを一撃で、跡形もなく消してしまったんです」

「強そう? もしかしてそのお方は白銀色をされていませんでしたか?」



 ルシフェルが目を点にして驚いている。

 いや、そいつを倒したのはお前だからな。



「はい、綺麗な白銀色をされていたのです」

「やっぱり……。その方はおこがましいのですが、世間ではマオ様に次ぐ能力を持つと言われているトカゲでございますね」

「とかげさんだったのです? 大きくてビックリしたのです」



 いやいや、どこをどうみてもドラゴンだろ?

 しかもルシフェルはウィルバーンのことをかなり毛嫌いしている節があった。



「圧倒的な力を持ち、その潜在能力の高さは魔族をもしのぐと言われているドラゴンだぞ!?」

「マオ様の前ではただの分をわきまえないトカゲだったと言うことですね」



 本当に俺は何もしていないのに。

 それにただ穴に落として穴を埋めただけでウィルバーンを倒せるとは思えなかった。


 そう思っていると穴を塞がれた場所から何やら声が漏れてくる。

 やはりしっかり生きてはいるようだった。



「暗いのじゃ。な、なんでもするから早くここから出して欲しいのじゃ――」




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