魚釣り

 ルルカに畑の相談をしたかったのだが、彼は未だに気絶中。

 仕方なく俺は別の作業に取りかかっていた。


 一旦畑作りは置いておくことにして、側を流れていた川で魚釣りをしようかと考える。


 ただ当然ながら道具は、何一つもない。

 道具作りから始めないといけなかった。



「木はいくらでもあるから、それを使って釣竿でも作るか」



 さすがに本格的なものは無理だが、魚さえ釣れるのなら見栄えは気にしない。


 細長く削った木に糸をつけて針をつけるだけ。


 これならば俺にもできるはずだった。


 餌は土を掘ればミミズでも見つかるだろう。


 何の知恵もない俺がいきなり畑を作ろうなんて無謀なことだったんだ。

 それに比べると釣りのほうが簡単だったな。


 そんなことを考えながら準備を始める。


 ただそこで俺の考えが甘すぎたことを知る。



「糸がない……」



 元々何一つ道具を持っていなかったのだ。

 当然ながら糸もあるはずがなかった。


 何か代わりに使えるものはないだろうかと思い、側にある木のツタが使えないだろうかと考えてみる。


 魚からもバレバレの糸にはなってしまうが、蔓なら川底でも伸びて生えていても違和感はないだろう。


 何事も挑戦だと竿に蔓を取り付ける。その先に針を――。



「針もなかったんだった――」



 針の代わりといえば動物などの骨を削り出してつかうものになるが、当然ながらそんなものは今ここにはなかった。



「……釣り竿で魚釣りをするのは無理か」



 仕方なく俺は別の方法を考える。


 いっそのこと槍で直接突くのはどうだろうか?


 綺麗な川のおかげで川底まで見える。

 だからこそ魚が泳いでいるのもすごくよくわかった。


 ほとんどの道具はないが、槍ならばルシフェルが出してくれたものが小屋に転がっていた。

 今は斧だけ持っているが、さすがにそれで魚を捕れる自信はなかった。


 さすがに俺には扱いきれる気がしない装備たちではあるが、良い具合に山暮らしの役に立ってくれている?気がしなくでもなかった。


 重たい斧は一旦川の側に置いておき、俺は小屋に戻り槍を取りに行くのだった。




        ◇ ◇ ◇




 槍を持ってきた俺は意気揚々と川の中で魚めがけて槍で突く。

 しかし、思っていたとおり上手く魚を突くことができなかった。


 おそらく原因は槍を扱いきれずに動きが遅くなっていることにある。


 それならば、と試しに槍を投げてみることにした。


 自己評価でとても綺麗な放物線を描き飛んでいく槍。

 それは見事に吸い込まれるように魚へと向かっていき――。


 という夢を見た。

 実際はへにゃへにゃな動きで魚に刺さるどころが柄の方が川に沈んでいた。



「くっ、魚も中々やるな」



 実際に、魚がしゃべることができるのならば「誰があんな変な槍に当たるものか!?」と言ってくるだろう。


 それほどまでに才能がない投擲だった。


 結局しばらく続けてみたものの魚が捕れる気配はまるでなかった。


 ただ、どうしても諦めきれなかった俺はなんとかして魚を捕る方法を考える。

 その時、とあることを思い出す。


 石のそばに隠れる小魚はその石に強い衝撃を与えれば、その反動で気絶して浮き上がってくる。

 というのを、何かで見た覚えがある。


 それを利用すれば、もしかしたら俺でも魚が取れるかもしれない。


 ということで、早速近くを探して見つけてきたのは巨大な大石である。

 俺がやっと持てるくらいの重たさ。


 これなら取れるかもしれない。

 ただ今まで散々失敗してきたのだから、あまり期待しすぎるのも良くない。

 失敗するものと思いながら、岩を投げつける。


 しかし、あまりの重さに足元がふらつく。

 その状態で投げようとしたら川にある石ではなく全く見当外れの方向へ投げてしまう。


 当然ながら、川辺にある石にぶつけないと意味がない。


 それじゃあ、俺が投げた石はどこへ行ったかというと、たまたま荷物になるからと置いていた斧に当たる。


 さらにそこから奇跡でも起きたのか、石にぶつかった衝撃で斧が浮き上がる。

 その斧がただの斧なら何も起きなかったのだが、残念ながらこの斧は雷神の斧、ラブリュス。


 雷属性を攻撃に付与する効果のある武器である。


 そんなものが川底を攻撃したらどうなるだろうか?

 答えはあまりにも簡単だった。


 流れた電気によって魚が浮かび上がってくる。

 その数はあまりにも多く、俺たちだけで食べきれるのか不安に思うほどである。


 結果としては最高のものが出たのだが、それが俺自身の失敗から来てるせいで素直に喜べない自分がいた。


 それでも食材は食材だ。


 普通のものが食えるようになっただけで、俺としてはとてもありがたい。


 食材も確保したことが、次に必要なものは……。


 そこで俺は皿などが全くないことに気づく。



「皿なら木があれば簡単に作れるな」



 幸いなことに木ならたくさんある。


 それを利用して皿が作れないかと試してみることにした。

 そして出来上がったのが、ただの板きれである。


 地面には何度も皿らしい凹みを作ろうとして、失敗した残骸たちが転がっている。


 もう少し簡単にできるかと思ったのだが、想像以上に難しかった。

 結局、ものを置くだけなら、平らでもいいことに気づき、急遽そちらを作ったのだ。


 あとはついでに箸を作った。不揃いで不格好なものだが。


 でも使えればそれでいいだろう。


 最低限の準備を終えると俺は大量の魚と共に小屋へと戻るのだった。




       ◇ ◇ ◇




 小屋ではいつの間にか目覚めたルルカがのんびりと俺のことを待っていた。



「やっと帰ってきたー」

「目が覚めたんだな。もう体は大丈夫か?」

「マオー様が僕の体を心配してくれるなんて、感動だよー」



 ルルカは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。



「それとマオー様が遅かったから、勝手に畑を作っちゃったけどよかったかな?」



 俺が色々と苦労しても上手く作れなかった畑を片手間に作り上げてしまったようだ。

 さすがは土を司る四天王のルルカだ。


 ……別に悔しくはないからな。



「本当に畑ができたのか?」



 思わずルルカの肩を掴むと彼はなぜか頬を紅潮させる。



「マオー様、ちょっと激しいよ。続きはその、夜になってから……」

「そういうのはいいから早くその畑に案内してくれ」

「ぶー、ノリが悪いですよ、マオー様」



 頬を膨らませながらもルルカは畑へと案内してくれる。

 そこは俺が電気を流してしまった畑だった。


 ただ違う点はなぜか動き回る触手のようなものが生えており、更に状況がわからないが、そこに少女が捕らえられていたのだった――。

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