薬草採取
なんでも一瞬でこなしてきたルシフェルでも人の説得には時間がかかるようだった。
あまり美味しくない食事を終えたあと、すぐに転移したルシフェルを見送った俺は山へと出向き、何か食べられるものがないか探していた。
ゲームだと探索に出たら簡単に拾ってくる木の実や薬草も実際に探すとなると一苦労である。
「くっ、こんなことなら木登りの練習をしておくべきだったか……」
木の実ができているのを発見し、意気揚々と登り始めたまでは良かったのだが、肝心の俺自身の木登りスキルが低すぎて全く取れる気配がなかった。
せっかく目の前に食べ物があるのにそれが取れないもどかしさ。
しばらく未練がましくその木の実を見ていたが、いい加減諦めがついて簡単に取れそうな植ってるものを探すことにする。
すると見慣れた草を発見する。
「こ、これは!?」
神々しいまでに青々と光る。
天を貫かんとしているのか、真っ直ぐに伸びた三本の葉。
まさにこれこそRPGの醍醐味。
初心者のお供たる薬草だ!!
それを見た瞬間に俺はそれを採取していた。
ただよく見るとこの辺りには似たような草がたくさん生えている。
「もしかしてここは宝の山なのか!?」
目を輝かせながら薬草採取に励んでいた。
◇ ◇ ◇
すっかり小屋のそばには薬草の山が出来上がっていた。
目の前に落ちているものがあったら拾ってしまうのはゲーマーの癖だな。
「……飯、どうしよう」
結局、俺が山で採取できたのは薬草のみ。
「これ、煮込んだら食えないだろうか?」
さすがに生で囓る気にはなれずに試しに煮込もうとする。
ただそこで調理道具が一切ないことを思い出す。
「くっ、そのまま食うしかできないのか……」
薬草を掴む。
見方によってはほうれん草にも見えなくはない?
そう考えると案外食える気もしてきた気が……。
思考が迷走し、悩んだ結果一口食べてみることにする。
恐る恐る口に入れる。
その瞬間に口の中に広がる強烈な苦み。
良薬は口に苦し、とはまさにこのことをいうのだろう。
その苦みを通り越すと今度は臭みが鼻を襲う。
くっ、ゲーム主人公たちはこれほどの地獄を感じながらHPを回復していたのか。ひたすら薬草で体力を回復させて申し訳なく思えてきたぞ。
ようやく臭みが引いたかと思うと今度は舌が痺れてきた気がする。
これでもまだ体力が回復した気配はない。
いったいいつ回復するのだろうか?
今度は吐き気が襲ってきた。
寒気もする。
「ってこれは薬草の効果じゃないだろ!!」
俺は慌てて飲み込んだものを吐き出していた。
「見た目は全部薬草なのにもしかして違うものなのか?」
思えば転生前に道ばたに生えている草の種別を見極められた事なんてない。
そんな俺にこの草が本当に薬草かどうかなんて判断がつくはずもなかったのだ。
でもそうなると――。
「この草っていったい何なんだ?」
薬草だと思った草の山から一つ取り出す。
今取りだした草は黄色をしている。
採取したときは一緒のものだと思ったのだが、こうしてみると全く別のものだとわかる。
「もしかしてこれは雑草の山なのか?」
昼間の俺の作業が無駄になった事がわかり、ガックリと肩を落としていた。
もしかして俺には辺境暮らしの適性がないのだろうか?
知識もなく能力もない。
一人で小屋も作れなければ食材を取ることもできない。
これなら最難関ダンジョンに引きこもっていた方が良かったのだろうか?
いや、それだといずれ破滅してしまうだけだ。
生き延びるためにはダンジョン以外で暮らしていくしかない。
能力は上げられないが、知識が必要ならこれから身につけていけば良い。
平穏な暮らしのために使えるものは全て使ってやる!
そう固く決意をするのだった。
ただ、その決意はあっさりと崩されることになる。
他ならぬ元部下である四天王の一人、ノームのルルカによって――。
小屋をノックする音を聞き、ルシフェルが戻ってきたのだろうか、と扉を開ける。
するとそこに居たのは小柄な金髪の美少女だった。
「マオー様ー♪ あなたのルルカがお迎えに来たよー♪」
ルルカはそのまま俺に抱きついてこようとしたので、そのまま扉を閉める。
するとルルカはそのまま扉に衝突していた。
「ど、どうして閉めるの?」
「騒がしい奴が来たからだな」
「マオー様に刃向かう奴がきたんだ? それならボクが始末してくるよ!」
「お前のことだよ!!」
「またまたー。マオー様が呼んでるってルシフェルのやつから聞いたよ」
なぜか頬を紅潮させながら言ってくる。
いや、別に呼んでないが?
とは言い出しにくい雰囲気だった。
そこで俺はルシフェルが何をしに出かけていたのかを思い出していた。
「もしかしてルルカが畑を作ってくれるのか?」
「土魔法と言えばボクだからね。任せてよー」
確かに土を司るノーム。
その中でも特に魔法に優れる四天王のルルカ。
その力は大地を割り、地形を変えるほどだった。
ただそれはイベントだけで戦闘中はせいぜい全体攻撃を頻繁にしてくるだけの四天王最弱を言われていた男でもあった。
畑作りにこれほど適した四天王もいないだろう。
その性格だけはかなりの難ありだが――。
「わかった。畑についてはお前に一任する。立派な作物を作ってくれ」
「任せて! ボクにかかればどんな
既に致命的な齟齬が生まれている事に俺はまるで気づいていなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます