②第六節 冬の再来

 十一月に入ると、周りはサッカーにいていた。

 「日本代表が、ドイツに歴史的な逆転勝利」

 周りの友達も、その話題で盛り上がっていた。

 サッカーのルールは皆無かいむだが、ドイツが強豪であること、勝ったことがどれくらいすごいことかは理解していた。

 みんなが楽しそうに話していたのを覚えている。

 十二月だと、政府と世界平和統一家庭連合、いわゆる旧統一教会とのニュースが多く出ていたのが印象に残っている。

 私はニュースをよく見るので、周りの友達よりかは情報をよく知っている方だと思う。

 ただ、どちらのニュースにもあまり興味はなかった。

 大晦日おおみそかのことしか考えていなかった。

 時は、少しずつ過ぎていった。


 十二月二十一日、私にとっては大切な日だ。

 そして、あまり思い出したくない日でもある。

 「自殺未遂みすい」と言えば、分かるだろうか。

 㮈結なゆ舜吾しゅんごが助けてくれた日。

 舜吾しゅんごは東京の大学に進学し、大阪には居なかったため、この日は電話を繋いで話をした。

 まず、多く出てくるのは「なつかしいよなぁ」や「もう一年経ったの!?」だった。

 時が過ぎるのは、意外にも早いものだ。

 電話は二時間ほどで終わった。

 私にとって、その時間はとても幸せな時間だった。

 二人と電話ができて、嬉しかった。


 二〇二二年十二月三十一日、大晦日おおみそか

 私は、久々に三人の地元の友達と一緒に年をした。

 カラオケで何故なぜか経済学の勉強をし、地元の大鳥大社おおとりたいしゃ初詣はつもうでに行った。

 ついでに、という感じでおみくじを引いたのだが、結果は中吉だった。

 「中吉って、微妙びみょうな感じじゃない?何か起こりそう。」と友達は私に言った。

 それに対し、「いやいや、微妙びみょうでも俺に何か起こることはない!」と私は返した。

 それを聞いた三人の友達はそろって「お前は本当に何か起こりそうだから、怖いんだよ!」と言った。

 確かに…。そう思い、言い返せなかった。

 しかし、決して暗い気持ちではなかった。

 私や友達の顔には、笑顔があふれていた。

 無為徒食むいとしょく、人生がつまらないという意味の四字熟語だが、その言葉が似合わないくらいに、表面上の私は元気だった。

 そう、表面上だけは。

 裏面は、前よりひどくはないが、心身の疲労やストレスが、対処できずにまり続けていた。

 そんな状態が、春がすぐそこに迫るまで続いた。

 め続けているものが爆発したり、あふれ出たりすることは全く無く、ほぼほぼ平和と言えるような日々が続いた。

 

 春の始まり、三月。

 春と聞くと、真っ先にイメージされるのは、やはり桜だろう。

 花粉は天敵だが、快晴の日であれば、花見もできるだろう。

 大学で言えば、卒業式と入学式があり、新学期も始まる。

 そして、それは二回生への進級するということでもある。

 新生活とは言えないが、新たな気持ちでスタートはしやすいだろう。

 私も、気持ちを全て切り替えるつもりで、二回生での大学生活をスタートさせた。

 最初は順調だった。驚くくらい何もなかった。

 あのことが起こるまでは、ね。

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