一章①
机と
「はいエクシア・フィラデルフィアくん、二回目の不合格おつかれさま」
「ふ、不合格、ですか……」
図書館長はにこにこ笑いながら不合格通知を
長い
図書館長は性別
だがこう見えて、
図書館。
それはノーザンクロス王立学園のシンボルであり、ノーザンクロス王国の技術の
地上十階、地下百階にも
この図書館にある本を読んだり、研究したり、修復したりできるのが『魔術師』と呼ばれる研究者であり、その職位に応じて図書館内の立ち入りできる場所や
エクシアが
だからエクシアは、絶対に合格したかったのだが──。
結果は、不合格。
「『上級魔術師』への昇格試験には、筆記と面接、口述試験があるけれど、どこで落ちたと思う?」
「……口述試験でしょうか」
消え入るような声でエクシアが言うと、図書館長は両手でバツ印を作りながら、とても
「ぶっぶー! 面接です!」
と
「筆記は申し分ないし、口述試験も悪くはなかった。この図書館における最年少の『魔術師』だけのことはある」
「……じゃあ、どうして
「それはもちろん、君には『上級魔術師』になるための重要な資質が欠けているからだ。それも
強調されるたびに、エクシアの
「私には、何が足りないのでしょうか」
「それは自分で見つけなくちゃ。少なくとも、今のやり方を続けるようであれば、合格はさせてあげられないね」
エクシアは
図書館長の方を見ないまま、エクシアは
「本を読んで、中身を読み解いて、研究する。それでは『上級魔術師』にはなれないということでしょうか」
「なれないね」
きっぱりと言い放った図書館長は、ショックを受けてさらに
「どうすれば『上級魔術師』試験に合格できるのか、君は自力でそれを見つけなければならない。うん、考えようによっては、これも試験の一つと言えるだろう!
館長室を出たエクシアは、ずっしりと重い体を引きずるようにして、一階から二階へと向かった。
地上十階、地下百階。
すずらん形をした不燃性のカバーに
その明かりが照らすのはエクシアだけではない。中型犬ほどの大きさもある、
「蜘蛛」と呼ばれているこのオートマタは、
蜘蛛たちは書物の貸し出し
その中でも特に親しくしているオートマタが、ちょうどエクシアの前を横切った。
「おつかれさま、ビビ」
エクシアが呼ぶと、そのオートマタはカシャカシャという関節音と共に立ち止まった。
背中に本を積んでいるところを見ると、仕事の最中だろう。エクシアを認めると、赤いルビーの目を
蜘蛛型のオートマタは、個体識別番号を持っているだけで、名前はない。けれどエクシアは勝手にこの個体をビビと呼んでいた。
(他のオートマタに比べれば、動きはぎこちないし、関節の軋みも他の子より大きいんだけど……。何かそこが
オートマタという
エクシアは馬に角砂糖をやるような感覚で、自分の魔力をビビに
『……び?』
魔力を飲み込んだビビが、微かに小首を
「私の魔力から感情を読んだのね。
『びー』
鳥の鳴き声を
「
エクシアが
エクシアは図書館において最年少の『魔術師』だ。その
(『上級魔術師』試験に合格すれば、フクロウの刺繍が入ったローブを着ることができたのに)
口述試験や面接に自信がなかったため、筆記試験で点を取ろうと
すると書架がドアのように開き、隠し階段が現れた。
エクシア一人がようやく通れるほどの
「現れよ」
エクシアの持つ魔導書は、小型の持ち運び可能なタイプだ。今のように、部屋の
エクシアにとって必要な魔術をコンパクトにまとめてある、彼女専用の魔導書だ。表紙にエクシアの目の色である
(まあ、図書館で使える魔術はこれくらいのものなのだけれど)
現れた横穴に体をねじ込ませると、天窓のある小部屋がエクシアを
卵のような形をした部屋は、天窓から差し込む光に満ちている。部屋の真ん中にはエクシアが作業をするための写本台があり、広いアルコーヴには、エクシアお気に入りのクッションが
ここはエクシアの小さな仕事場だ。
最も目をひくのは、あちこちで無造作に積み重ねられた本だろう。
しかもそれは
エクシアは読みかけの魔導書を手に取ると、クッションの中に思い切り飛び込んだ。
「本を読んでるだけじゃ『上級魔術師』になれないなんて、そんなの聞いてないわよ。『魔術師』になるのはそこまで難しくなかったのに……」
『魔術師』とは、図書館において、
魔導書とは、魔力を込めた糸や紙、
魔術の出力は、本人が持つ魔力と、その魔導書の出来によって決まる。ゆえに、製本に
けれど、技術と知識の
「この魔導書を写本するのに、地下二十階の本を参考にしたかったんだけど」
エクシアの職位では、地下二十階には入れない。
そこに置かれた書物は、貴重な魔術の情報がたんまりと書かれており、『上級魔術師』にならなければ立ち入ることも読むこともできないのだ。
「『上級魔術師』試験に合格するための方法を、自力で見つけなければならない、なんて……難易度が高すぎるわ」
これからどうすればいいか分からないエクシアは、ミントの
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