6.お喋り鳥
「おい、お前、何者だ?」
その声はとても疑心に満ちて、振り向いた先にあった目は警戒心を露わにしていた。
そんなことを訊かれても、困る。私は谷山美空という人間だったが、今は違う。名もないただのモンスターと言うには少し無理のある存在だ。だが前世の、しかも異世界に生きた記憶があるなんて、説明しても信じられるものだろうか?そもそも、私を商品として見ている商人に話していいことだとも思えない。彼にとって私は商品で、私は対等な立場として見られていない。そんな相手を信用も信頼もできるはずがなく、私の核心と言えるようなことを話せるはずもない。
ここは、どう答えるのが正解なのか。どう答えても不正解な気がして、黙り込んでしまう。
「お前はモンスターか?」
それは勿論YESだ。たとえ特殊な事情のある、そう他に類を見ないような特殊な存在だとしてもモンスターであるのは事実だ。頷いて答えると、モンスター屋は真剣な目で言った。
「お前はカナリーバードか?」
「?……カナリーバード、ナンデショウ?」
質問の意味が分からない。そもそも私をカナリーバードだと言ったのはハンターとモンスター屋ではないか。他の兄弟がカナリーバードなら、私だってカナリーバードだろう。首を傾げているとため息を吐かれた。
「その反応はホントに分かってないな……何か別のモンスターが変化してるのか、って意味で訊いたんだよ」
「ナルホド」
「…………お前はカナリーバードなんだな?」
「私に、ワタシヲ判断スルノハ…難しい。自分の姿モ、ミタコトナイ」
「そうか。じゃぁもうカナリーバードでいい。何で人間の言葉が分かる?」
そのようなこと言われましても。前世で人間だったし、ここが異世界のくせに日本語をしゃべっているからです、なんて答えられませんって。
「質問を変える。お前は生まれて一か月程度しか経っていないはずだ。それなのになんで、お前の中にあるはずのない知識がある?」
……私が迂闊すぎるのか、モンスター屋が鋭いのか。原因はどちらもあるだろうが、前者が強い気がする。でもどうしようもないだろう。二十年以上生きた記憶とその意識を持っているのだ。そこで身に着いた知識は、習慣は、無意識の行動に現れてしまう。
「……………えー…わかりません」
「今までで一番流暢なのに棒読みに聞こえるのは何でだ」
一切心がこもってないからです。と思いつつ目を顔ごと逸らした。その反応を見て彼は先程より深いため息を吐く。こんな尋問をされて、ため息を吐きたいのは私の方だ。
「お前と話してると、人間を相手にしてるみたいな気がしてくる……数えきれないくらいモンスターを相手にしたが、モンスターらしい感情を持たないモンスターなんてお前が初めてだ」
「……どういうコト?」
モンスター屋云わく、モンスターの感情やその表現の仕方は人間とは違うらしい。そして当たり前のことだが、私の反応はモンスターではなく人間っぽいのだとか。流石プロ、私には兄弟達の感情表現と人間の感情表現の違いなんて分からない。
「あと、お前今日で少し喋るのが上手くなったんじゃないか?ゆっくり話せばそれなりに聞こえるはずだ」
「エ、ホント!?ヤッター!!」
「興奮すると駄目だな。ゆっくり喋れ、アホ」
「………そんな言い方しなくても…いいじゃナイ…」
「あぁ、そんな感じだな。割と聞きやすい」
私の意見はまるっとスルーして、そのようなことを言うモンスター屋。
私が少し成長して、口や喉の構造が出来上がってきたのだろうと勝手に納得しているモンスター屋とそのままお喋りの練習が始まってしまった。
私はその日、流暢に人語を話す完璧なお喋りバードになった。
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