4.身体検査
「普通、テイム出来ないほど能力も意識も強いモンスターは言うことを聞かないものなんだがな」
モンスター屋は訝し気な目で私を見ている。それは私が、ここまでとても素直に彼の求めることを実行しているからだろう。
手を伸ばされれば大人しく捕まり、秤らしきものに乗せられれば大人しく動かず、妙な粉を振りかけられても逃げ回らなかった。とても良い子にしていたと思う。
だって、痛いのは嫌だしね。腰につけてる様々な大きさのムチが目に入ったらもう……それが何に使われるかよくわかるし、従うしかないよね。
「大人しすぎるな。睡眠耐性は確かにあったが……他に病や呪いを持ってたりはしないだろうな」
私を持ち上げてあちこち毛を弄りつつ観察するモンスター屋。あ、待って待って、鳥とは言え女の子なので!あ、ちょっとそんなところ見ないで!嫌ぁああ!!
「妙な斑紋はなし……オス……いや、メスだな。鳥系モンスターは分かりにくくて面倒だ」
モンスター屋に余すところところなくじっくり見分された私は、体力的に問題はなくても精神的にぐったりしていた。うっお嫁にいけない……いや、でも私が普通にお嫁に行く想像できないけどね。他の鳥モンスターとそういう関係になるとか考えられないし……私はもしかして生涯独り身の寂しい鳥なのか。そうなのか。
私を降ろしたモンスター屋は、私の落ち込みなど歯牙にもかけない様子でさらさらと手元の紙に書き込んでいく。おそらく私を売るための情報が載っている書類なのだろう。言葉は理解できても文字の方は見た事もない記号の羅列で、さすがに読めない。
「おい、鳥。お前妙に物分かりがいいが、俺の言葉が分かるとかじゃないよな」
文字が増えていく書類を覗き込んでいたら、ジロリと睨まれてそのようなことを言われてしまった。ここは何も知らないフリだ、可愛らしく首を傾げて何もわかっていない動物を演じてみる。わざとらしいな、などと言われてしまった。
「モンスターってのは目を見れば大体何を考えてるか分かるんだが、お前は分からない。お前、本当に何だ?」
「ぴ(そのようなこと言われましても……)」
「ちょっと俺の言葉を真似してみろ。カナリーバードだろ、喋れ」
かなりの無茶振りだと思う。モンスター屋が一語ずつ「お・は・よ・う」と真剣な顔で言っているのが面白くてついガン見してしまったが、私はモンスターだ。ここで何を言っているか分からないフリで通すべきかどうか悩んだけれど、彼が腰に引っ掛けてあるかなり小さな鞭を取り出した時点で分からないふりをやめた。痛いのはごめんである。
「ピャ%…#…$…ゥ……?」
「お、は、よ、う」
「@%…#…$…ゥ……」
……む、難しい。元人間とはいえ、鳥の体は人間のものとは違うのだろう。言葉ではない節の付いた妙な音が出てくる。しかしモンスター屋は満足げな顔でニヤリと笑っている。
「ヒナは体が出来上がってないし、喋れなくて当然だ。それよりもお前、やっぱり俺の言う事分かってるだろう?」
ち、違うよ。分かってないよ。なんとなく求められてることが分かってなんとなくやってたらそれっぽく出来てるだけのただのモンスターだよ。兄弟達と何も変わらないよ。
「おい、今そこで飛び跳ねて見ろ。跳ねなきゃ打つ」
ビシ、と細いがそれでも小鳥が打たれれば痛そうな鞭を構えられたら飛び跳ねるしかあるまい。私がビビリな訳じゃないよ。チキンな訳でも……あ、チキンですね、鳥でした私。
「ふん、やっぱり分かってるな。完全に特殊な変異個体だ。カナリーバードに言語理解スキルがついてるとすると……過去最高額で売れそうだな。感謝するぞ、モンスター。お前は売る前に、出来るだけ言葉の教育をするから覚悟しとけ」
拒否権は、もちろんないようだった。
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