1.現状把握と金のスライム



 右には灰色のひよこ。左にも灰色のひよこ。ついでに後ろにも灰色のひよこで、前にも同じものが居る。この巣には私を含めて合計五羽の雛と、餌を運んでくる親鳥が二羽がいる。親鳥はどちらも色鮮やかな赤の体躯を持つ美しい鳥で、今の私の三倍はある。……私の体の大きさの基準が不明なので、正確にどのくらい大きいかなんていうのはわからない。


 兄弟たちは皆灰色の産毛に覆われているけれど、将来は美しい赤へと変わるのだろう。私は……なぜかちょっと、他の兄弟よりも黒い毛に覆われているのでどうなるのか分からない。黒ずんだ赤とかくすんだ赤とか、とりあえずあの親の美しさと違う色になったら嫌だなとは思う。


 最近、親鳥が持ってくる餌が肉片から弱った小動物に変化した。角のあるネズミとか紫のカエルとか、粘性の半透明な――前世でいえばスライムと呼ぶような動物と言っていいかよく分からないものを色々と運んでくる。今世は随分とファンタジーな世界である。


(いや、人間から鳥に生まれ変わった私が一番ファンタジー……)


 それはさておき。その、弱った小動物もとい恐らくモンスターと呼ばれそうなそれらは、広めの巣の中を逃げ回り、私たちはそれを追いかけて仕留める。つまり、狩りの練習をさせられているのだけど。自分が食べる分だけ動いてあとは自堕落にしていようと思っていた私の頭に、突然浮かんだ言葉があった。



『レベルアップしました!各ステータスが向上しました!』


「ピッ!?(はい!?)」



 レベルアップ?ステータス?そんなものがあるんですか?え?弱ったモンスターの止めを刺したら経験値が入ってレベルが上がるってことですか?ゲームかよ!

 そうと分かればやることは一つである。兄弟たちと全力で競争し、誰よりも早く獲物を仕留めて経験値を得る。ヒヨコの知恵など、人間の頭脳を持つ私に勝てるはずがない。弱点と思われる場所を見つけ、そこを体でもっとも頑丈な嘴で突く。どんどん倒してどんどん強くなってこの世界を自由に飛び回ってやんよ!!


 ……と意気込んだのはいいものの、レベルが上がれば経験値の入りが悪くなるのも当然のことで。9回レベルが上がってから何匹も弱ったモンスターを仕留めているが未だにレベルアップの音がしない。残念。暫くは兄弟たちに譲ろう。



(パピー、マミー、いい子にしてるからもうちょっと強いモンスターを是非お願いしたい……)



 親鳥が帰ってくる方向を見つめつつそのように願ってみる。暫くすると、遠くのほうからキラキラと光るものが近づいてきた。

 なんだなんだと目を凝らしてよく見る。この鳥の体は視力がとてもいいようで、前世の頃なら絶対に見えない距離でもよく見える。そんな私の目によると。キラキラ光っているのは親鳥が足でつかんで運んできている餌で、なんと金色のスライムである。



(え、何あれ……なんであんな光ってるの……)



 黄金に輝くスライムはそのまま無事に巣まで運ばれてきた。兄弟たちはいつものように運ばれてきた餌に突撃することなく、不気味に輝くスライムを遠巻きに見ている。

 金のスライム。どう考えてもレアモンスターである。レアモンスターは経験値が大きいのが定石だ。つまり―――。



「ピィイイイ!!!(突撃じゃぁああああ!!!!)」



 兄弟たちの「え、マジで行くのお前?」という目に見守られながら、私は金のスライムに突っ込んだ!

 その柔らかな体を貫通し、中心部にある核を貫きそして。



『レベルアップしました!各ステータスが向上しました!レベルアップしました!各ステータスが向上しました!レベルアップしました!各ステータスが向上しました!レベルアップしました!各ステータスが向上しました!レベルアップしまし―――』



 ガンガンと頭の中に鳴り響くような、大量に情報が流れ込んだような、とにかくひどい頭痛に襲われて私は直ぐに意識を手放した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る