お喋りバードは自由に生きたい

Mikura

名もなき鳥モンスター

0.はじまり


 谷山美空たにやまみそらは白み始めた空を見上げ、滑るように飛んでいく鳥を見ながら深いため息を吐いた。

 本日は夏至である。東の空が明るくなってくる時間というと、午前4時を過ぎたぐらいだろう。ついさきほどまで残業に明け暮れ、パソコンの光る画面とにらめっこしていたなんて信じたくない。



「鳥はいいなぁ、自由で。私も自由に空を飛びたいわ……」



 この国の人間なら大体が知っている、神に対して翼を求める歌が脳内をよぎる。ついでにそのままメロディーを口ずさみながら、軽いとは言えない足取りで家路を歩く。

 この時間帯は流石に人も車もほとんどない。静かなものである。


 疲れ切っていたのだろう。誰もいないのをいいことに、大人が結構な声量で頭に浮かんだ曲を歌いながら横断歩道を渡って、カーブを全力で曲がってきた車に跳ね飛ばされた。

 あぁ、最近の車は静かだもんね。自分の声で音が聞こえなかったわ。


 宙を舞った私が最後に見たのは、翼を広げて飛び立つ黒い影。



(神様、生まれ変わるならどうか、自由に……―――)






 ――――――――――と、いうのが最後の記憶。正確に言うと、前回の生での最後の記憶である。



(神様……!!違うよ……!!違うんだよ……!!)


 ピィピィ。ピヨピヨ。ふわふわもこもこの灰色ヒヨコに囲まれ、大きな赤い鳥に見下ろされた私は。どう考えても人間ではなかった。

 私の足は黒色で、体も黒っぽい色で。顔はよく分からないけどきっと周りのヒヨコたちと大差ないのだろう。



「ビィィィィィィイイイ!!!!(本物の鳥になりたかった訳じゃないんだよぉおおおおお!!!!!)」



 私の魂からの叫びは、神には届かないけど親鳥には届いたらしい。赤い鳥は私に視線を向けて、大きく開いた私の口に、餌であろう桃色の塊を突っ込んだ。


 ちが、お母さん(?)、私ご飯を求めてたんじゃなくて………あ、でも美味しいです。もぐもぐ。


 こうして私のバードライフが幕を開けた。

 あぁ、もう、この際開き直って、鳥として自由に生きて行こう。決意を胸に、私は元気よく叫んだ。



「ピィイイイ!!(おかわりください!!)」





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