34.C-5

「決めました…… 次のファシリテイターは…………」


 こんなつもりじゃなかったんだけどな……
















「白川さんです」


 ……!?


 自分で自分の発言に驚く。それもそのはずだ。俺が言おうとしたのは……


「承諾しました。では、白川さんが次のファシリテイターに確定しました」


 お掃除ロボットは事務的にそう告げる。


 ちょっと待て……! 俺が指名しようとしたのは俺自身だ……!


「……っ!? ……まさか……白川さん……」


「まだ慣れていないせいか行動は制御できても精神は乗っ取れていないみたいですね」


 ファシリテイターに指名されたその人物は淡々とそんなことを言う。


「……もしかして白川さん、平吉に<コントロール>を使った?」


 察しのいい水谷が本人に確認する。


「お気になさらず。七回も八回も大して違いはありませんから」


「……白川さん」


 早海さんが心配そうに彼女の名前を口にする。


「そうですね。でも、今回はいろいろと初めてのことが起こりました。私の心境も今までの六回とは少し違ったものなのかもしれません」


 白川さんは少しだけ表情を緩め、穏やかにそう言う。


「さてさて、これで全プログラムは終了です。ファシリテイター以外の皆さんは、まもなく意識を落とさせてもらいます」


 人工知能に空気を読む機能は実装されていないようだ。


「!?」


 突然、光線銃の効果音のような奇妙な連続音が聞こえ始める。


 ここに連れて来られたあの時と同じだ。


「白川さん……!!」


 俺は何を伝えるべきかが思い浮かばず、とにかく必死で彼女の名前を呼ぶ。


「木田さんとの約束……ちゃんと果たさないとダメですよ……」


「……!?」


「だけど、貴方が私を……私達を救おうとしてくれたこと……本当は、少しうれしかったです」


 白川さんは、これ以上ないというくらい眉を八の字にして、困り顔を見せている。


「ですが、貴方は一番の魔物殺しキメラキラー……奴らにとってはまさに死神です。ここに残ってはいけないんです」


「そんな……俺はそんなんじゃない!!」


 無我夢中で叫ぶ。それで結果が変わるわけでもないのに。視界がグニャグニャになり、もう本当に時間がないことを悟る。


「いいえ、貴方は一番の魔物殺しキメラキラーです。だから、きっと……きっと、こんな私を助けに来てくれます」


「っ……!!」


 その言葉は特に強い口調で言われたわけでもなかったのに、妙に俺の心に突き刺さった。


「!?」


 ふと白川さんの顔を確認すると、目を細めて、屈託のない笑顔を見せている。


 グニャグニャになっていた視界が、その瞬間だけは鮮明になったような気がした。


「ごめんなさい、平吉さん……また、洗脳の力を使っちゃいました」


「え……?」




「きっと…………また……どこかで……」


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