32.C-4
日比谷は、俺に対する疑惑の発言を中断する。
中断というよりは言葉を発することが難しくなったのであろう。
「かはっ……」
日比谷の脇腹からは光り輝くブレイドが突き出ていた。
「……生温いですね」
「なっ……!?」
「平吉さんが洗脳されているか否かの証明ができないなら……そのスキルをいただきます。そして、この愚行をやめさせるまでです……」
そう冷たく言い放つと、白川さんはブレイドを勢いよく引き抜く。
「ぐぁあ゛あ あぁあ゛あ ああ!!」
日比谷の左右の脇腹の二つの穴から勢いよく血液が飛散する。
日比谷の体は力を失い崩れ落ちる。
その過程は、時間が圧縮されているかのように、ゆっくりと流れたような気がした。
ふと崩れゆく日比谷と目があったような気がした。
その瞬間、これまでの戦いの記憶が蘇ってくる。
そして思う。この人がいなかったら、ここまで来られなかったんじゃないかって……
「……お前の勝ちだ。平吉……」
「っ……!?」
「私は……強力なスキルを有する核となる人物にしか……関心がなかった……一方で、お前は……皆に目を向けていた……」
「……」
「何より私は……背信に脅え……能力に溺れ、疑心暗鬼となり……人として……失ってはいけないものを失ったのだ……」
俺には理解できない上に立つ者にしか、わからない重圧があったのかもしれない。
「……私に……勝ったのだ……他の誰かに、簡単に……負けるんじゃ……ねぇぞ……」
やがて日比谷から強い光が発生し、その光は白川さんへと向かう。
「いやいや、しかし、なかなか興味深いものを見れたよ」
黙ってここまでの成行きを見守っていた自動掃除機の声を久方ぶりに聞いた気がする。
しかし、それに反応するものはいなかった。
「さて、これで本当に終わりだけど、思い残すことはないかな?」
皆、同様に沈黙を続ける。
「では、一つ情報を訂正致します。戻ったら、スキルを奪えなくなるというのは、誤情報でした。申し訳ありません」
「……!?」
「元に戻ってもスキルを奪うことができるので、安心して欲しい。先程のブラフは強化プログラムの一環なんだ。悪く思わないで欲しい」
「っ……」
怒りが込み上げてくる発言であったが、誰もそれに反論しようとはしなかった。
AIも拍子抜けとでも言いたげに、クルクルとその場で数回、回転した。
きっともうこんなこと少しでも早く終わりにしたかったのだろう。こいつに怒りをぶつけたところで何かが変わるものでもない。
これが終わっても、まだ戦いは続くのかもしれないが、それよりも何よりも今この状況を一刻も早く終わりにしたかったというのが本音だろう。
「大丈夫そうですね。それでは、最後のイベント、ファシリテイター決めに移行します。平吉さん、次のファシリテイターを指名してください」
「……!」
先刻までの出来事で一時的に失念していたが、そういえば、俺には、その務めが残っていたのであった。
「……」
ふと、残っているメンバーを改めて見渡す。皆もこちらを見ていた。友沢、早海さん、宇佐さん、水谷、土間、王さん……そして、白川さん。
「……」
こんな役回りってあるか?
過去六回はずっと白川さんが指名されてきたのだろう。その過程を知る手段は今はないけれど、白川さんは、どんな気持ちでその指名を受け続けてきたのだろうか。
「はぁ……」
溜息を一つつく……
「決めました…… 次のファシリテイターは…………」
こんなつもりじゃなかったんだけどな……
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