11.M3-3

 宇佐さんがメインストリートに衝撃波を放つと、こちらの目論見は成功する。ギィギィと異様な奇声を発する巨大なカマキリが六体、姿を露わにする。


 予想通り、カマキリは臨戦態勢になると擬態を維持することができないようだ。


 突然の痛覚への刺激に混乱したように、真っ直ぐとこちらに襲い掛かってくる。


「こうなっちまえば、でかいだけのカマキリだ!!」


「倒してやるヨ!」


 沼倉さんと王さんが最初の一体を迎え撃つ。


「せいっ!!」


 沼倉さんが鍛えられたたくましい腕を豪快に振り回し、側面からカマキリにブレイドを叩き込む。ブレイドはカマキリの腹部にクリーンヒットする。沼倉さんも手応えを感じたはずだ。


 だからこそ、沼倉さんの体が上下に切断されていることがすぐには理解できなかった。


 堅い……? これまでのキメラはブレイドがクリーンヒットしていれば、一撃で倒すことができた。こいつはそうではないということか?


「ぎゃぁああああ!!」


 王さんが絶叫する。王さんの目の前では、カマキリが沼倉さんを殺傷した鎌とは反対の鎌を今にも振り降ろそうとしている。


 その瞬間、何かが高速でカマキリの懐を駆け抜けたような気がした。


「…………あれ? 生きてるネ」


 カマキリは振り上げた鎌を振り降ろすことなく、停止している。


 視線を上げると、今度はカマキリの頭部が無くなっている。


 その事象を引き起こした高速移動物体が停止することで、それが何であったのかが分かる。


「大丈夫? 王さん」


「あ、ありがとね。水谷さん……じゃぁね!」


 王さんは命の恩人に感謝の意を伝えると、一目散に後ろに下がって行った。


「あ……王さ……」


 それを呆気に取られたように眺めている水谷の能力は高速移動だろうか……?

 攻めては速度を利用した威力増加と弱点特攻。守っては回避に長けており、攻守に隙のない能力だ。


 俺のシールドも方向性は違えど、攻守のバランスが良い方だが…… 水谷には、ブレイド強化スキルも付いているのか、ブレイドから粒子状のエフェクトが発生しており、なんとなく向こうの方がスマートだなと思ってしまう。


「きゃっ……!」


 早海さんが小さな悲鳴を上げる。


 別のカマキリが前方の対角上にいた水谷を通り越し、俺や早海さんがいる方向に目掛けて、突進して来ていた。


 カマキリは停止すると、両の鎌を振り上げる。


「やば……」


 横方向にワイドな鎌攻撃で両サイドから挟撃されるとシールド一枚では防げないかもしれない。そう考えているうちにも、カマキリは鎌を薙ぎ払うように振り降ろす。


「っと……」


 幸い、俺の体も早海さんの体も、上下に分かれてはいないようだ。


 作戦がうまくいったようだ。片方の鎌をブレイドで受け止める。だが、シールドを使っていないわけではない。


 実は、前のインターバルで訓練に明け暮れる内に得たことが二つある。


 一つは脳波コントロールだ。これは正確に言えば、ミッション2のウツボ恐竜との対峙の時に、無我夢中で動いていた時に体得していた。訓練により意識的に使えるようになってきた。不思議な物で一度、コツを掴むと再現性が増してくる。今は、基本的な動作はコントローラ、特殊なアクションは脳波コントロールというような使い分けをしている。


 そして、もう一つは<シールド>の隠れた特性に気付いたのである。これは脳波コントロール体得の副産物かもしれない。

 一つ目は限度こそあれど、シールドの大きさは拡大・縮小することができる。

 もう一つは、体の近くであれば任意の位置に発生させることができたのだ。今までは左腕付近でしか発生させられなかったが、これにより防衛の幅が広がった。


 この特性を利用し、シールドを左肩付近に発生させ、右鎌を防ぎ、ブレイドで左鎌を受けることで、カマキリの両の鎌を防ぎ切った。


 カマキリも怯むことなく連続で鎌を振り回してくる。こちらもシールドとブレイドで応戦する。


 カマキリの鎌はブレイドに接触してもダメージを受ける様子はなく、何度か鎌とブレイドがぶつかり合う。


 シールドで上方を守りつつ、カマキリの鎌の下に潜り込む。カマキリは垂直に鎌を振り上げ、そして振り降ろす。


「ギィイ!?」


 カマキリはまるで驚いたかのように奇妙な鳴き声を上げる。


 予想していた接触が起こらなかったのだろう。


 俺はシールドを使わずに回避を選択したからだ。


 それにより、鎌は地面に突き刺さり、一瞬の隙が生まれる。


「効いてくれっ!」


 水谷を倣うように、空を突くように、ブレイドをカマキリの頭部に突き立てる。


 カマキリは一瞬の停止の後、ゆっくりと力を失う。


 1の数値がポップアップし、討伐の成功を確認する。


「あ、ありがとうございます」


 早海さんが申し訳なさそうにお礼を言う。


 早海さんは自身を不甲斐なく感じているかもしれないが、こんな状況下においても誰かの役に立てたのかと思うと、少しはポジティブな気分になれた。




 周囲を確認すると、残りの三体のカマキリも力尽きていた。


 二体は頭部が無くなっている。倒したのは水谷であろうか。


 一体は損傷が激しい。宇佐レーザーの餌食になったのだろう。


 そして、残り一体となったカマキリが今まさに、近くにいた日比谷を目掛けて突進している。


 カマキリは、日比谷の目の前まで来て、鎌を振り上げる。


「日比谷さん!!」


 水谷が上司の名を叫ぶ。


 しかし、日比谷は微動だにしない。


 だが、不思議なことにカマキリも鎌を振り上げたままピクリともしなくなる。


 日比谷は落ち着いた素振りで、ブレイドを発生させ、抵抗することのないカマキリをあっさりと断頭する。


 皆、呆気に取られたように見ていた。

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