09.M3-1

 ミッション3――


「ミッション3は、キメラ<タイプ:MTS>を合計五十体以上討伐して、五時間以内にスタート地点に戻ります」


 ファシリテイターこと白川さんが、三つ目のミッションのクリア条件を提示した。


 白川さんはもはや灰色の女性のホログラムを使用することもなく、そのままの姿でミッションの説明をしていた。


 それはそれとして、今回はタイプ:MTSというようにキメラの指定があった。


 これまでは何でもいいからひとまずキメラを倒せばよかったらしい。


 しかし、初回はカエルマンしかいなかったし、二回目も俺はカワハギマンしか狩っていない。


 だが、話によると宇佐さんと水谷の隊はカワハギマンではなく、犬と猿が合わさったようなキメラと戦ったらしいので、実際、どんなキメラでもよかったようだ。逆に、あのウツボ恐竜を狩っていても一体としてしかカウントされなかったのだろうか。


 ◇


 30分後――


「矢印はこの中を指していますね」


 チームの先頭を歩く水谷が立ち止まり、ショッピングモールのような外観をした建物を見つめる。


「あの……このショッピングモールって……マンマモールに似てないですか?」


 友沢が皆もきっとそう思っていたであろうことを呟く。


「似てるってか……これ、マンマモールじゃ……」


 林さんが皆があまり認めたくなかったことを直球で、言葉にする。


「マンマモール……言わずと知れた日本最大級の小売業者ですね。郊外型の大型ショッピングモールを中心に事業展開し、日本全国に三百を超える店舗を出店していますね」


 今度は、王さんが補足する。

 流石の俺もマンマモールくらいは知っていたが、仮にも母国は国外であるのに、王さんは、よくそんな細かい数値までわかるなと感心する。


「まさに……まんまマンマモール……」


「……」


 冗談なのか、煽りなのかはわからないが、唐突に、白川さんが、ぼそりと言った駄洒落はシュール過ぎて、誰も反応できなかった。


「なんで……マンマモールあるの……?」


 茂原さんが素朴な疑問を呟く。


「さぁな……今はそのことは考えないでおく方がいいだろう……」


 日比谷が建設的なことを言う。確かにその通りかもしれない。


「しかし、屋内ということか……」


 続けて、日比谷が呟く。マンマモールのことばかりに気を取られていたが、確かに屋内であることはこれまでの戦いとの差異として、懸念すべき点かもしれない。


「行くしかないですね」


 水谷が言う。


 確かに、懸念点があったとして、退路なんてどこにもない。


 そんなことを考えつつも、ショッピングモールに足を踏み入れる。内部は荒れてはいるが、原型はとどめている。


 大きな通路の脇に店舗が並んでいる一般的なショッピングモールの造りだ。


「特に何もいませんね……」


 水谷が言う。


「ファシリテイターさんは何か知っているんですかね?」


 水谷の後ろに続く、ランキング五位の林さんが皮肉っぽい言い方で尋ねる。


「いえ、割と本当にわかりません。キメラの種類はバリエーション豊かですから。私も毎回、命懸けなのですよ」


「本当ですかね?」


 林さんが疑いの目を向ける。


「いずれにしても私から出てくる情報はありませんよ」


 白川さんが冷たく返答する。


「……まぁ、もう少し進んでみるしかないですかね?」


「そうしよう。注意しながら進もう」


 水谷の提案に、日比谷も同意する。


 矢印は確かに、ここを指していたにも関わらず、何も起きないことに不気味さを感じながらも、周囲を警戒しつつ、ゆっくりとショッピングモールのメインストリートを進んでいく。


「うーん、何も起きませんね」


 先頭を歩く水谷が何気なくそんなことを言いながら、後ろを振り返る。


「え……!?」


 水谷は驚いたことだろう。それまで水谷のすぐ後ろにいた林さんが突如、横にスライドするようにいなくなったからだ。


「うわぁ゛あ ぁあ!!」


 無意識にそちらに顔が向く。


 体長2・5メートルくらいあるだろうか。カマキリのような姿をした生物が頭を下にして、壁に貼りついている。


 カマキリの姿をしているが、体を覆う皮膚は爬虫類のような質感をしている。


 カマキリの特徴とも言えるその巨大な鎌には、今しがた捕えられた林さんがじたばたとうごめいている。


「ぎゃぁあ゛あ あ゛あ ……いだぃ゛い 」


 カマキリは顎を林さんの腹部に押し当て、もごもごと動かしている。


「っ……!」


 ビームのような音と共に連続で閃光が発生する。宇佐さんがミッション1の時に獲得したと言っていたミニレーザーらしき攻撃で壁に貼りついたカマキリに攻撃しているようだ。


 カマキリは甲高い奇声を上げるが、致命的なダメージを受けたようには見えず、意に介さずに食事を続けている。


「……堅い」


 宇佐さんが呟く。


 壁の高い位置に貼りついているカマキリへの攻撃手段を持たない俺はひとまずシールドを展開し、早海さんの近くに陣取る。


「木田さん、友沢! 何で検知できなかったのでしょう?」


 とりあえず俺は情報を収集しなければと検知能力の高い二人に確認する。


「あっ……何でだろう……」


 友沢は困惑している様子で解を持ち合わせていないようだ。


「私は動いている物を察知はできるが、全く動いてない物に対してはあまり効果がないのだと思う。奴は全く動かずに待ち伏せをしていたのだろう」


 極めて強い検知性能を持つ空間察知にも、そんな弱点があったのか。木田本人も初めて気づいたのであろう。


「恐らく擬態…… 皮膚を背景と同化するように変色させることで、視覚での認知を難しくしているのかもしれない」


 白川さんが一つの可能性を提示してくれる。


 元々、カマキリには擬態を得意とするものもいた気がするが、カメレオンのような皮膚を得ることで、より高度な擬態が可能ということだろうか。


 ゆっくりと考察している時間はないため、一旦、そうであると仮定する。


 となれば、通常の襲撃であれば木田が検知できる。今はあの一体に集中して良いということだ。


「あぁ゛あ あぁあ……いだぁあいぃ……だすけてぇ」


 林さんの悲痛な叫び声が続いている。すでに腹の一部は欠けており、痛ましい。


「……!」


 その姿を見て、やるべき一つの行動が思い付く。その行動はいろいろな面で利点が多く、合理的であった。


「っ……」


 だが、俺には実行できなかった。


「宇佐さん……やって構いません……」


「っ……!」


 そう静かに告げたのは日比谷であった。


 次の瞬間には、すでに宇佐さんの周囲には光の粒がキラキラと漂っていた。


「あぁ゛あ あぁあぁあああああ…………――――」

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