第56話 内緒話

「それで? 俺とテオドールにだけしたい話というのは?」

「……国の中枢で動いている裏切者と、近々戦争が起こるかもしれないって話をしたいんだ」


 はい、面倒な話が来たな。


「裏切者については、曖昧な話だがテオドールに聞いた。誰が裏切者かまでは分かっていないが、宰相を裏から操った者がいると」

「うん。その正体は僕の方でも探っているんだけど、中々見つからなくてね……もしかしたら敵は王都の中にいないかもしれない。それか……中枢過ぎる場所なのか」


 中枢すぎる場所って言うのは……たとえば王様の側近とか? でも側近の魔法騎士が裏切ったぐらいではなにも変わらんからな。精々暗殺しやすいとかそんなもんじゃね。


「それより、戦争というのは……本当なのか?」

「戦争と言うか……内戦だね。王国が2人に割れそうになっているんだよ」

「クーリア王国が割れると言うのか? それは……何故?」

「まぁ、簡単に言えばアルディーニ第1王子と、ミカエラ第2王子のどちらが次期国王を継ぐって争いになりそうでね。それが……国を割るほどになるって話さ」


 王位継承権の争いね。普通に考えると第1王子が継ぐんだろうけど……それに対して第2王子が反対している、ってよりは周囲が第2王子を推しているんだろう。そして……恐らく国王自らが第2王子のことを可愛がっている。そうでもなければ、第2王子派閥が第1王子派閥に対してそこまで強気にならない筈だ。

 やれやれ……現国王は日和見主義だとは聞いていたが、まさか王位継承の話までそうなるとは。となると……第1王女が脳筋だから見逃され、第2王女のエリッサ姫はそこそこ政治に興味がある様子を見せているから、どちらかの派閥によって帝国に嫁がされそうになっていると。俺はてっきり帝国の皇子様とやらがクーリア王国を割ろうと画策でもしているんじゃないかと思ったが、身内の事情とは。愚かすぎて考えてもなかったわ。


「その……フリスベルグ家は大丈夫なのか?」

「……ある意味大丈夫だと言えるし、ある意味危ないとも言えるかもしれないね」


 だろうな。なにせフリスベルグ家はただの公爵家ではなく、王子と王女が全員いなくなった時に間違いなく国王に選ばれるであろう血族だ。端的に言うと、エリッサ姫よりも低いが王位継承権を持っているのと同じだ。大袈裟に動けば、第1王子派閥と第2王子派閥のどちらからも敵扱いされてしまう。ただし、目立った動きを見せなければ中立であると証明することもできる……筈だ。


「問題なのは、国の中枢にいる裏切者と、国内を割ろうと第1王子と第2王子を敵対させている人間が同じってことだろ?」

「……テオドールの言う通りだ。間違いなく、王位継承権の争いは誰かによって扇動されている」


 だよな……だって今まで15年以上もこの国に生きていて、王子兄弟の仲がそんなに悪いなんて聞いたこともないからな。そうするとつい最近、誰かに唆されて王位を求めて争い始めたってことだろ。


「そうすると一番の問題があるな」

「問題?」

「考えてみろ。王位継承権の争いを扇動しているのが中枢にいる裏切者だとしたら、なんの為にやる」

「国の……弱体化、か?」

「そうだ。その為には王位継承権の争いを激化させて内戦を起こす必要がある。だが……今は小競り合いで済んでいるはずだ」

「そうだね」


 王位継承権の争いが起きていると言っても、現時点では小競り合いというか……嫌がらせに近いような小さなことしか起きていない筈だ。それは何故か。


「王位継承権を激化させるには決定的な要素が足りていない」

「足りていない要素……」

「空白の玉座だ。中枢にいる人間の狙いは……現国王の命そのものだ」

「……は?」


 そうとしか考えられない。宰相を利用してお粗末な事件を起こしたのは、非常時の王都の戦力を詳細に分析する為かもしれない。地方の貴族が大きな反乱を起こせば、魔法騎士団だって動かざるを得ない。

 国王を殺したいと考えている地方貴族は、多くいるだろう。クーリア王国に属しているからと、全ての貴族が王族に敬意を持っている訳ではない。クーリア王国だって後ろ暗い歴史は幾つもある。その怨恨が、今にまで残っていてもおかしくはない。


「相手は継承権の争いを扇動できるような奴だ。地方貴族を唆して反乱を起こさせ、再び手薄になった王都内で白昼堂々と国王を殺すだろう。そうすれば……クーリア王国は一気に内戦状態だ」

「ど、どうにかする方法はないのか!?」


 この状態を打開する方法……ない訳ではないが、敵の最終目標が見えてこないから少し厳しいな。

 相手はなにを目指して国王を殺して内戦を始めようとしているのか、それがわからないんだ。国を恨んでいるから、王族を恨んでいるから、自分の利益になるから、西側諸国のスパイによるもの……候補が多すぎる。


「現状ではできることが少なすぎる。そもそも誰が黒幕かもわかっていないのに……どうすることもできないだろう」

「しかし、クーリア国王が倒れるなど……」

「状況は最悪……とまではいかないけど、崩壊一歩手前だね」


 冷静に言っているが、エレミヤの立場はかなり危ういものだ。だって、国王が倒れて王族が内戦によって共倒れした時に最も得をするのは、フリスベルグ家だ。こうやってエレミヤが色々と喋ってくれていなかったら、俺が最初に疑っていた人間だ。まぁ、エレミヤはそれを理解しているから俺に喋ったんだろうが。

 エレミヤがアッシュにこのことを話したのは、剣を交えて信用しているからと言ったが……新興貴族でここまでの争いに関わることができないが、無害な貴族だからだろうな。


「とりあえず、相手は国家を簡単に操っているような輩だ。あんまり考え無しに行動すれば……簡単に潰されかねない。今はただ学生を演じながらゆっくりと対策をしていくしかない」

「学生は演じている訳じゃないけどね」


 黙れ。


「味方を増やしていくしかない……ということか」

「あ、テオドールの派閥ならあんまり問題はないと思うよ。僕が個人的にアイビーさんを信用していないだけだから」


 爽やかなイケメンフェイスで、さらっと毒を吐くのはどうなんだろうか。イケメンだからこそ許されるけど、フツメンがしれっと毒を吐いたら多分袋叩きにされるよな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る