子供達の地図 りんな

櫻井あやめ

第1話

私は捨てられた。

理由は分からない。でも年間数十人の捨て子がいると聞く珍しい話ではなかったのだろう。

でも、幸い私は拾われその家で育てられることになった。

母は私を拾う直前に子供を亡くしていた。死産だったとのこと。

心を壊した母が公園で私を見つけ、死産した子供だと思ったのだ。児童施設も人が足りてなく私をすぐに引き取るのは困難だったそうだ。

父は自分の経営している病院に私を入院させ、自分の娘と相談したとのことだ。

どうせ児童施設に入れられるのなら、母の心の安定のために私を引き取ろう、死んだ子供と同じ性別だったしお金に苦労してないからベビーシッターを雇えばいいと。

母は入退院を繰り返していた。精神科だった。だから子育ては誰かに頼まないと出来ないが、私が家に来てから母の症状は比較的良くなったらしい。

母は私を愛してくれた。死んだ自分の子供だと信じ切って。悪いとは思ったが姉は貴女のおかげで母は喜んでる、ありがとうと言ってくれた。

嬉しかった。

でも。

私はずっと心苦しかった。この家の実の子ではないから。どうしてもその事実は苦しかった。

ベビーシッターの笹原さんは本当のお母さんみたいに優しかった。

父の親戚らしい。

子供ができない体だからと離婚されて元いた保育園で働きだしたころ、父から私の世話を頼まれたそうだ。

それを聞いた時父は非常識だと思ったが、笹原さんは赤ちゃんである私を育てられて本当に嬉しかった、感謝していると言ってくれたのだ。

すごく嬉しかった。

笹原さんは第二の母だ。

私は捨てられていたけれど、とても幸せに暮らしていた。

姉と歳は離れていたがとても可愛がってくれた。

姉は父の経営する学校の教師に惚れていた。バツイチ子持ち。所謂シングルファザーだ。

あまりにもびっくりした。姉と歳が離れすぎてる。息子が私と同い年だった。

確かに若い頃子供が出来たらしいので子供の年齢から考えたら若い。でも姉の恋人になるには歳をいきすぎている。

姉は何度も振られてたらしい。けれど何度もアタックしていたと。

そこまで惚れていた。

父は物凄く悩み1度止めようとしたが頑なに話を聞こうとしなかった。

好きにさせてあげて欲しい。

笹原さんは父にそう言った。そういう時期なんだし、無理に止めようとすると暴走するから、と。

父もそれから少し見守ることにした。でも親戚から姉に見合いの話が来た。今の時代に見合い?と思う人も居るかもしれない。

うちの両親は家柄もよく多角経営していて、本家との事で親族から見合いがよく持ち込まれていた。

とうとう断りにくい案件が来てしまった。

父の取引先で結構厄介な相手との事だった。

姉は飛び出した。そして再度アタックして結婚してくれないと死ぬ。他の人と結婚したくないと泣きついたそうだ。

姉の想い人、昭弘さんという名の素敵な人は姉の事を好きだったらしい。

熱心にでも無理矢理でもなく愛情表現されて絆されていったと。

死ぬくらいならと姉を抱きしめて結婚しようと言ってくれた。

後から聞いたら息子さんは姉の事惚れていたらしい。実の父がライバルで負けたのだ。それは本人が笑って後日私に話してくれたのだけど。

姉の苗字が変わって。

少しずつ私の生活は変化してきた。

そんなことに気づくのはもっと後の事なんだけど。

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