第10話 気持ちに寄り添う
「えっ」
骨拾いってたしか、形代サマが骨獣を見つけてあれこれすることじゃ……。
雛は小さく異論の声を上げるが、継喪は止まらない。
「どうせ今後同じような仕事を続けるのです。まずは一人でやってみなさい。ま、どうしようもなくなったら助けてあげなくもありませんので」
「ちょっと、継喪……!?」
「それでは、あとはよろしくお願いしますよ、雛」
にこりと笑って、それだけを言い残すと、継喪はさっさと部屋から出て行ってしまった。残されたのは引き留めるために半分だけ手を伸ばした姿勢で固まる雛と、驚いた顔の桐子、そして額を押さえる獣飼いだけだ。
「そういうところが誤解を招くと申し上げているというのに……」
深く嘆息する獣飼い。そんな彼に雛は助けを求める目を向ける。
「えっ……俺これどうしたら……?」
「うーん、自力で骨獣を探すしかなさそうだね」
「ええー……」
降ってわいた無茶ぶりに雛は困惑の声しか出ない。
「仕方ない。ちょっとやり方を教えようか。雛くん、おいで」
手招かれるままに雛は獣飼いへと近寄り、すとんと腰を下ろす。
「僕の目を見て」
言いながら獣飼いは、雛の目を上から覗き込んでくる。なんとなく、継喪に以前された『視る才能』とやらを確認されているのだと理解したが、不思議と彼の目を見てもあまり怖いとは思わなかった。
なんというか、継喪って何やっても何か企んでそうで嫌なんだよな……。
継喪の時に感じたあの言い知れない気味悪さを思い出し、雛は背筋を震わせる。
ぼんやりとそんなことを考えているうちに、獣飼いの確認は終わったらしい。彼は雛をそっと解放するとふむと考え込んだ。
「やっぱり形代さまに比べれば視る力はまだ弱いね。でも……どうやら君は視分ける力に優れているようだ」
「視分ける?」
「それが誰の骨なのか分かると言えばいいかな。骨組人形は自分の骨のことはわかるけど、他者の骨はわからないから希有な能力だよ。誇っていい」
よく分からないが褒められた雛は頭をかいて照れる。
「とはいえ、まずは見つけないことには話が始まらないからね。最初は目撃証言をもとに地道に場所を絞っていくんだ。それらしき骨獣を見つけてからが勝負だよ」
「見つけたあと、どうすればいいんだ?」
「そうだね、少し感覚の問題になるんだけど……骨獣も含めた、相手の気持ちに寄り添ってほしい」
「気持ちに寄り添う?」
「共感するというのが一番近いかな。じっくり骨獣の持つ未練を受け取って、その内容を言葉にするんだ。それが合っていれば、無事に骨獣は骨組人形の中に戻るからね」
「そうやって人形の中に骨を戻すのが、骨拾いってこと?」
「うん。その通り」
話を聞きながら、雛は出会ったときに形代が骨獣に対してやっていたことを思い出していた。骨獣の持つ記憶を視て、その内容が「母からの贈り物」だったと看破した。だから、骨獣は本体に戻り、骨組人形は黄泉の国に行けたということだろう。
納得する雛をそのままに、獣飼いは居心地が悪そうにしていた桐子に顔を向けた。
「桐子ちゃん」
「は、はい!」
まだ継喪がいたことへの緊張が抜けていない桐子は素っ頓狂な声を上げて姿勢を正す。獣飼いはそんな彼女をまあまあと落ち着かせた。
「雛くんの能力なら君の骨獣を探し出して取り戻せるかもしれない。駄目なら形代さまに頼むことになるけれど……雛くんと一緒に探してみる?」
桐子は数秒目をしばたかせた後、ぐっと覚悟を決めた顔になった。
「探したい。私、自分の手で自分の未練を取り戻したいもの。雛、手伝ってくれる?」
彼女の真剣な視線を正面から受け止め、雛は少したじろぐ。
正直なところ、自分の能力に関しては半信半疑な部分はある。だけど……。
雛はそらしかけた視線を桐子に向ける。桐子はまっすぐ雛を見つめていた。雛のことを信じて頼ろうとしていた。
その気持ちを無視するのは、なんとなくだけれど嫌だった。
「やってみる。どこまでできるかはわからないけど……」
「ありがとう、雛!」
「うわっ」
桐子は飛びつくようにして雛の手を取る。腕の中の人形を取り落としそうになった雛は、慌てて手に力を込めた。
「そうと決まればすぐ行きましょう、今行きましょう!」
すっかり調子を取り戻した桐子は、雛を連れて意気揚々と出ていこうとする。その後ろ姿を獣飼いは呼び止めた。
「あまり無理しないようにね。最近、『折れ骸』が出て危ないから」
「『折れ骸』?」
聞き覚えのない単語に尋ね返すと、獣は深刻な顔になった。
「いつまでも『黄泉の国』に行かない魂はね、魂がすり切れて、ついには『折れ骸』という怪物になってしまうことがあるんだよ。大半は、『折れ骸』にならずに、そのまま壊れてしまうことが多いのだけれど」
「『折れ骸』は骨組人形のことも骨獣のことも襲うから気をつけないといけないの!」
桐子に補足され、雛は首をかしげる。
「じゃあみんなさっさと黄泉の国に行かないとじゃん。獣飼いさんのとこに骨を預けてたらだめじゃないの?」
素直な疑問を口にする雛。
獣飼いは静かに笑った。その表情には深い諦めがにじんでいるようにも見える。
「……そうだね。本当にその通りだ」
どこか寂しそうなその表情に、雛はそれ以上追及できなくなってしまう。その隙をつくように、獣飼いは雛たちを送り出した。
「いってらっしゃい。どうか気をつけてね」
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