第22話 笑う雌虎

 品川、上野と立て続けに襲撃される演説現場の状況。

 斬九郎からの緊急事態を知らせるメッセージスタンプを見て上野の状況を察した銀時は周囲に気を配る。

 その頃、予告状にあった他の4個所でも都議候補者の演説会場が浪人の襲撃を受けていた。

 銀時とは個人的な仲が深い斬九郎のように手早く簡潔に状況を説明する手段を担当の係長らが持ち合わせていないだけで自体は逼迫している。

 特に新宿などは偶々大鴉左馬之助が間に合って居なかったならば大虐殺が起きていた。

 これで最後は楓華が担当する池袋のみ。

 ここまで来てこの街だけが無事な理由など当然無い。


「お嬢さんが隠れている士たちの責任者かにゃ?」


 背後からの声に驚いた楓華が振り向くと、そこにはショートヘアーの女性が居た。

 毛先に癖のある乾いた栗のイガに似た茶髪と豊満な乳房。

 おそらく90センチ超えの胸囲だろうか。

 そして竹刀らしきものをその手に握っていた。

 ただし目元は虎柄のマスクで隠されており正体は計り知れない。

 こんな見逃すはずのない不審者に今まで気づかなかったことに楓華の背中が汗で濡れる。


「まあ良いにゃ。隠れている警官隊──出てこいや!」


 バシンと音を立てて地面を叩く姿はさながら高圧的な体育教師のようだ。

 その音に呼応するように周囲から立ち上る光の線。

 楓華の刀からも放たれるそれは妖気か。


「あたしの感覚はバッチリにゃ。この場でいちばーん強い妖刀を持っているお嬢さんが、いわゆるデカ長で間違いなさそうにゃね」

「係長ですわよ。士は警察勤めになっても刑事ではありませんので」


 この正体不明な覆面女性──理人からはタイガーと呼ばれていた女性の間違いを正しながら楓華が愛刀を抜くと光はふっと消えてしまう。

 そのまま切っ先をタイガーに向ける楓華は彼女を睨む。

 各地で浪人が暴れているこの状況においてあからさまな不審者を見逃すほうが間抜けすぎる当然の反応といえよう。


「それよりも……あなたの目的は与党所属の岩久さんの襲撃なのでしょう? 逃がしませんわよ」

「にゃがにゃがにゃが……」

 他の士たちの光も同様なので今のは一時的なモノのようだ。

 そのまま切っ先をタイガーに向ける楓華は彼女を睨む。

 各地で浪人が暴れているこの状況にてあからさまな不審者を見逃すほうが間抜けすぎる当然の反応といえよう。


「それよりも……あなたの目的は与党所属の岩久さんの襲撃なのでしょう? 逃がしませんわよ」

「にゃがにゃがにゃが……」


 楓華の指摘に対して覆面越しでもあからさまなニヤけ面を見せるタイガーは竹刀の先を楓華に向ける。

 だが妖気を纏うだけあり普通ではないと推測していたタイガーの獲物は竹製ではない。

 つまり竹刀風に整形された鉄の塊のようだ。

 しかも妖気まで纏っている。

 さきほどの発光を鑑みれば特殊な奇剣か。


「頭の回転が早くて助かるにゃ。ぶっちゃけて言えばあたしの目的は強いと噂のデカ長と剣(ドカ)を交えたいだけよ。そのついでに妖刀フレンズのお手伝いをするだけにゃ」

「では品川で女子高生を操っている外道や上野に現れた浪人はあなたのお友達ということですわね」

「御名答」

「だったら話が早いですわ。岩久さんには申し訳ありませんが……最優先であなたを伊達にして一味を一網打尽にしてあげますわ!」

「出来るものならやってみることにゃ」


 やってみろと宣言するのに合わせて竹刀を振り回しての旋回は一見すると威嚇。

 だがこの動きは彼女の背後に迫っていた二人の士を一刀に伏す為のモノだった。

 彼らの奇襲が決まればと期待していた楓華の思惑を外すように軽々とタイガーは剣士二人を圧倒してしまう。

 その無駄のない動き。

 空眼の目付けとも呼ばれる背中にも眼が付いているかのような空間把握能力に気圧された楓華の額に汗が滲む。

 これが剣士としての鍛錬で人並み外れている楓華から見ても驚くほどという事実。

 おそらく彼女は目をつぶってでも相手の動きを見切れるのだろう。

 俗に言う心眼をこの一見ふざけたデカパイ女が持ち合わせているという恐怖に同じ女として楓華には恐怖しか無い。

 だがこんなアバズレを相手に逃げてしまったら銀時に会わせる顔がない。

 負けて斬られれば二度と会うことは叶わない。

 楓華は一旦脇に構えて、軽く左手の親指を自ら刃先で傷つけてから、滲ませた血を紅のように唇に塗りつける。

 スイッチを切り替えた楓華はタイガーの豊満な胸に視線を集めて八相に構えた。

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