第3話 二次試験説明
帯刀許可証を得るために必要な要素は「倫理観」「正義感」「観察眼」そして「妖刀奇剣を祓う能力」の4項目。
最後以外は既に各々の地元で有識者に認められた人間でなければ受験自体が認められないため、この試験会場では最後の戦闘能力のみが基準となる。
これには運や巡り合わせも考慮に含まれており、例えば甫が腕試しで戦った17番の受験者も、他の組と戦っていたら勝ち残っていた可能性の高い腕利きだった。
あるのは偶然と必然、誰が何をするかだけ。
妖刀奇剣を祓うことで市井の被害を防げるのであれば、それが例えばハッタリや幸運の産物であろうと構わない。
それが公的機関「AKM」が重視する帯刀許可証を与えるに相応しい人物像である。
さて、準備が整ったということで次の試験に進む24人には一人一振りの刀が手渡された。
一次試験の腕試しに用いた奇剣とは異なる正真正銘の打刀。
妖気など欠片もない。
「二次試験は諸君らに配った刀を用いて一対一で奇剣を祓ってもらう。相手は私の術法によって堕ろしたモノだ」
堕ろすとは膨らんだ妖気が自我を得て一個の妖として確立した姿を指す。
試験官の説明の通りであれば術法によってその状態を擬似的に再現したのだろう。
帯刀許可証を得た士が退治する仮想敵はこの妖と妖刀奇剣に飲まれた人間「憑き物」の2つ。
まさか試験のために憑き物を用意するわけにはいかないだろう。
二次試験は受験番号順と言うことで76番の甫の順は後ろの方。
待っている間、甫は支給された刀の具合を確かめた。
「ティッシュを当てても切れないし刃先は研がれていないみたいだ。妖気が一切無いってことは作られて日が浅い現代刀か居合練習用の模造刀あたりなんだろうな。士ってのは剣気を用いて妖気を御するって言うけれど、試験官さんも難しい課題を出すものだよ。さて、どうやって戦おうか」
呟いた甫と似た感想を浮かべた受験者は多数。
数多の血を啜り妖気を纏った妖刀や人為的に妖気を持たされた奇剣が持つ超常的な力の源となる妖気。
それを一切持たない刀でそれらに立ち向かうことは真冬に下着姿で屋外を歩き回るようなモノである。
たしかに達人の域にある剣聖たちからすれば妖気による剣気の増幅に頼ることは未熟者の甘えだろう。
だが剣聖でなくてもこの課題はクリア可能なのもまた事実。
対抗策はいくつかあるのだが甫はどの手段を選ぶであろうか。
「3番、合格」
例えば先人を切る形となった3番の受験者が見せた手段もその一つ。
彼は妖の核である奇剣の目釘を的確に突くことで妖を弱体化させて切り倒していた。
他にも「剛腕を用いて物理的に奇剣を破壊する者」や「剣気に対して妖の妖気が弱いためそのまま祓うことが出来た者」など、いくつかの解決策見せるが半数は不合格。
そんな中、21人目の挑戦者として甫の番号が呼び出された。
「それでは試験を開始する」
呼び出された甫と対峙した妖が握っているのは木刀。
一次試験の際に頑丈さに目をつけて選んだ黒壇を握る黒い影の姿がそこにあった。
どうやら二次試験で祓う妖は一次試験で選んだ奇剣になるらしい。
なまじタフな奇剣を選んだ甫の場合は難易度が上がっているようだ。
(黒壇は木刀ということで腕試し試験で選ぶ人間が少なく、故にいつまでも祓いそこなっている奇剣だ。だが奇剣としてはシンプルさが生む強度と妖気のお陰で目ざとい士が扱えばC級とはとても思えない傑作。だからこそ黒壇を選んだ受験者がいる場合の二次試験は決まってこの妖試しにしているが……あの少年は何処までやれるかな?)
試験官の中でも試験内容を決定する権利を与えられており、疑似妖を生み出す術法主でもある烏丸(からすま)は甫の戦いぶりに注目している。
甫はそんな思惑など知らぬまま刀を構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます