言えなかった別れ話

マホロバ

13回目

「別れよう」


 デート中に立ち寄ったファミレスで彼氏に言われたその言葉は、アタシの心を抉るものでは無かった。


「アンタさぁ…これで何回目?」

「今回で通算12回目だ」

「数えてたんかい!」


 コイツと付き合い始めたのは5年前。高校2年生の時に告白されて付き合い始めて、それから浮気も無くここまで一緒にいた。

 確か4年目からかな?コイツは定期的に別れ話を切り出しては次の日も何事もなく接してくる、そんなことを繰り返すようになったのは。


「何で毎回別れようって言うわけ?アンタはもうアタシのこと好きじゃないの?」

「そんな訳ない」

「じゃあ何でよ!」

「それは…………………」


 ほら!またこれだ。コイツは昔っからそうだ!

 無愛想で無口で、悩んでも人に本心なんか話しゃしない!それでどんだけ周りに誤解されて来たことか!


「いい加減にしてよ!何年も何年も好きな人からデート中に別れ話される方の気持ちも考えてよ!」

「っ!…………今、何て?」

「こっちの気持ちも考えてって言ったの!」

「いや、その前だ」

「はぁ!?好きな人からデート中に別れ話されるの辛いって言ったの!」


 そう言った途端、コイツは俯いて震えていた。何?アタシそんなにショックなこと言った?

 数秒黙っていたかと思うと、今度は赤くした顔を上げた。


「その……すまなかった」

「何が」

「……何度も別れ話をしたこと」

「謝罪はいいから理由聞かせてよ」

「……怒ったり笑ったりしないか?」

「理由による」


 1年以上も続けられたんだ。下手な理由なら殴る権利くらいはあるはずだ。

 だけどコイツが言い出した理由はアタシの予想していたものとは全く違っていた。


「キミに……まだ好かれてるのか確かめたかったんだ」

「…………へ?」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。何その理由、思春期の女子かよ!


「アンタまさか……アタシが愛想尽かしてると思ったから別れ話をしてたわけ…?」

「だって最近はデートしてもキスとかしてないし、一緒に寝たり手も繋いでないし……もう俺のこと好きじゃないのかと思って」

「は、はぁ!?な、何をその、もうアタシら子供じゃないんだよ!?」


 心底驚いた。だって普段無口な彼氏がそんな中学生みたいなこと気にしてるとは思ってなかったし、今更すぎて呆れたし。


「……怒ってるのか?」

「怒るよ!そんなの一言聞けば解決じゃん!それすら聞けないってアタシなんだと思われてるわけ!?」


 何年一緒にいると思ってんのよ!そもそもアンタが別れ話なんかするようになったからしなくなったんじゃん!アプローチの仕方くらい調べとけ!


「…アンタさ、いつまでこの関係続けるつもりだったわけ?」

「13回目で本当に別れようと思ってた。けど、その必要が無くなって今は安心してる」


 そう言ってコイツは笑った。

 不器用そうな笑顔は昔から1ミリも変わってなくて、不思議な安心感を覚えた。

 そっか、コイツは寂しかったんだ。

 近すぎる距離に慣れて、当たり前すぎてちゃんと付き合ってなかったんだ。


「はぁ……寂しかったのはアタシも同じか」


 何度も別れ話をされても無視して、いつか話してくれると期待して、未練がましく一緒に居たなんて。結局は同じ穴の狢か。


「ほら、さっさと行くわよ」

「行くってどこへ?」

「デート、今度はちゃんとしたいし」


 目を丸くしてる彼を掴んで店の外に出る。行き先はどこにしよう。2人で楽しめるところがいいな。


「行き先はアンタが決めて。んでちゃんとアタシと一緒に楽しんで」

「……わかった、最大限努力しよう」

「努力じゃ嫌。約束して」

「急にワガママだな」


 苦笑しながらも彼は頷いた。歩き出した彼の手はアタシの手をしっかりと握っていた……

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言えなかった別れ話 マホロバ @Tenkousei-28

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