ラスボス越えの爆炎魔術師~モブ転生した俺は、推しと添い遂げる為に『主役』と『黒幕』を越えることにした~

青薔薇の魔女

プロローグ 俺の現状

 主人公じゃないから……ヒロインとの結婚は諦めてモブとして二人を祝福する、それこそが俺の幸せだ‼ 

 なんて、そう思えるような馬鹿にやっぱ俺はなれないな。


 声を上げ今にも襲い掛かってきそうな黒ローブの悪役を目の前に俺は一人過去を振り返っていた。


 ◇◇◇


 俺はある日剣と魔法の世界に異世界転生した。


 大学生だった俺はバイトに行って、家に帰って学校行って、ただ漠然とした不安を将来に抱えている、そんな普通の毎日。そんなある日、トラックに引かれて死んだ俺は、気が付けばこの世界に転生していた。


 小さな村の村人の家に生まれた俺は、生まれた瞬間からハードモードの毎日だ。

 始めは裕福だった俺の村だが俺が三歳の時にに飢饉に襲われ、俺は口減らしの為に森の神への生贄として捨てられた。


 まあ、三歳の時には俺の自意識が完全にはっきりしてたから、何とか知識を総動員して生贄にならずに生きながらえることが出来たが……それからが本格的に大変だった。


 頭脳が大人と言っても俺の体はまだ三歳の小さな体。

 生きるために何でもやった。


 幸い『魔法』の才能があった俺は、独学で習得した火属性の魔法を使いスラムで一人生きることが出来た。


 スラムで悪事に手を染める俺についた仇名は【爆炎の魔女】。


 一応言っておくが俺は男だけど、当時は小さかったし、髪切ってなかったから髪が長くて……女の子と間違われることが多かったんだよな。

 ……今も、伸ばしてはいるけど。


 まあ今はそれはどうでもいい。


 盗んだり、騙したり……あ、でも一つだけ。俺はやってないことがある、それは人殺し。

 それだけはやらなかった……まあ、裏を返せばそれ以外の罪は一通り全部やったことになるが。


 そんな毎日を送っていた俺は、ある日この世界の正体に気が付くことになる。

 まあ、正体と言ってもそこまで大げさな物じゃないが……


 まあ兎も角、そんな世界の正体に気が付いたきっかけは一枚のビラだった。


「も、もうやめてくれぇ……有り金全部おいてくからよ……」


 その日も俺はいつものように裏路地で通りがかった酔っ払いから金を巻き上げていた。


「駄目だ、金だけじゃねえ……その荷物も、服も。テメェが持ってるもの全部置いてけ」


 あ、金だけじゃねえ、荷物も全部か。


「で、でも……」

「でももだってもねえよ。お前……死にてぇのか?」

「ひっ」


 そう俺がドスの効いた声を出しながら炎を手に纏わせると、男は小さく悲鳴を上げて服を脱ぎだした。

 五歳のガキでも、魔法を使えば簡単に大人を脅せる。

 ……これだから魔法は最高だ。


「ああ、下着はいいぞ。おっさんのパンツは売れないからな」


 ゴミになるだけだ。

 女の子……美少女のパンツは別だが。

 しばらくしてパンツだけになった男は、服を置いて逃げ出していく。


 無様すぎて笑えるぜ。


「風邪ひくなよー……さて」


 逃げてく半裸の男を優しく(笑)見送った俺は、男が置いてった服をごそごそと漁る。


「……お宝開封タイムと行きましょうか」


 そう言った俺が一番初めに触れたのは、男の財布だった。

 革製で使い古された物だ。


「……こいつは売り物になんねえな。さて中身は……うわぁ、しけてんにぇ」


 おそらく今日の分は全てお酒に消えていたのだろう。

 財布の中には小銭が数枚入っていただけだった。

 まあ貰うが。


「さーてお次は……」


 中身のコインを抜き取った俺が、次なる宝を探して服を漁っていた時だった。


「ん? なんだ……?」


 男の服からはらりと一枚の紙が落ちて来た。


 興味からふと見たその紙こそが、俺のこれからを完全に決定づける結果になった。


 かかれていたのはクアドラ王国のクシアーネというお姫様の誕生を祝う報告だった。


「クアドラ王国の王族の誕生ねぇ……まあ、俺には関係ない」


 そう思っていた俺だったが、クアドラという名前が何故か頭に引っかかる。


「何だ、すっげーモヤモヤする」


 クアドラ、クアドラ……クシアーネ………クシ……

 何度も繰り返していた俺の頭に突然電流が走る。

 

「そうだ前世にやってたRPGに出て来た名前だ」

 

 クアドラ王国は、メインヒロインの王女様の出身地、クシアーネはそんな王女様の五歳年の離れた妹の名前だったはずだ。


 物語に出てくる彼女は確か小学生くらい。メインヒロインの王女様に嫉妬して突っかかってくる女の子で、個人的に一番かわいかった思い入れがある。


 ぶっちゃけ、推していた。


 一人称ボクで、白髪ツインテールでロリ……そしてクーデレ属性と若干重たい過去を持ち合わせていて……正直、できれば結婚して幸せにしたいとさえ思ってた。


 まあ設定上主人公に恋してたってことで若干複雑な気持ちがあったけど……それでも恋人になる妄想はしてた。


 ロリコンだと思うなら笑えばいい。


 それくらい好きだったんだ。


 だが、今のは所詮、ゲーム内のお話。


 さっきまでの話は、前世でやったRPGの中の話だ。この世界には関係ないはず、だけど……


 そう思ってもう一度紙を広げて見た。


 なんで前世のゲームの地名とお姫様の名前がこのビラに書かれてるんだ? この世界は現実だぞ?

 いったいなぜ……

 

「まさかっ」


 如何せん前世の記憶があるせいだろうな、俺の理解は速かった。

 そして行動も。


 俺はゲーム内で出て来た名前の場所を探してクアドラ王国の街の中を走り回る。


「確かここを曲がったら武器屋……ある。そっちは教会が……あるな」


 多少の差はあれど、間違いなくこの世界はゲームの世界だ。


「おいおい、この世界って……ゲームの世界だったのかよ」

 

 最高かよ……


 別にそこまでやりこんだりしたゲームではないのだが、やっぱりゲームの世界に転移したってことでそれだけで高揚感がある。


 最低で、最悪な日々を送っているっていうのに、未だに俺はどうやら異世界への強い憧れを持っていたようだ。


 現実を知っているはずなのに、何故か未だに喜びさえ思えるのはそのせいだろう。


 そんな感じで喜びに浸っていた俺だったが、ふと一つの事実に気が付きスキップ交じりだった俺の足が止まった。


「ん? あれ? でもよく考えたらあのゲームの世界だとしたら、俺主人公じゃねえのか」


 その事実とは俺がこの世界で『主人公』じゃないという事だ。

 この世界の主人公になるのは、時代に選ばれし勇者だ。


 このゲームのストーリーを軽く説明すると、百年前に封じられた魔王を復活させようとする教団を、ただの街人だった主人公が学園でお姫様と出会い、仲間と友情を深めながら打ち倒すという感じの話。


 ふと足を止め、自分の手を見る。

 スラムで生きる、汚れた小さな手。


 主人公とは程遠い……小汚い貧民の両手。


「これは、駄目だな……主人公なんかじゃねえか」


 無論現実に『主人公』なんて存在しないはずだ、けどもし、この世界があのゲームの世界で……クシアーネが現実に存在していたとしたら。


「絶対渡したくねえ」


 この気持ちがたとえ転生者のエゴだとしても、もし俺にチャンスが一度でもあるのなら……


 ◇◇◇


 それからの俺は明らかに変わった。

 真っ当な生き方をしていなかった俺だが、仕事についた。


 仕事についたと言っても、俗にいう冒険者という名の誰でもなれる様な職業だが……まあ、国に認められたまともな職業ではある。


 尚、入ったギルドのギルド長は良い人で俺が孤児だとわかると、ギルドに住まわせてくれる様になった。

 ……これなら、早く冒険者ギルドに所属しておけばよかったと後悔したのは内緒だ。


 そして、仕事につき、住む場所を手に入れた俺は仕事の傍らで魔法の修行に一層励んだ。


 まともに金を稼げるようになった上ちゃんとした保管場所が出来たおかげで、魔導書を補完することもできるようになり俺の魔法の腕はメキメキと上昇していった。


 無論、魔法の修行は一筋縄ではいかない。

 何度も壁にぶつかって、そのたびに俺は乗り越えて来た。


 魔法の修行をしていることが分かると、ギルド長は俺に知り合いの魔法使いを紹介してくれ、その人の弟子になった俺は更に魔法の腕を上げていくことになった。


『お前が強くなるとギルドが儲かるから、紹介してやっただけだ』と言っていたが……まったく。

 ギルド長は良い人すぎた。だから……いや、この話は今は良いか。


 まあ、そんな感じで俺は強くなり成長し……そして現在俺は15歳。この世界の成人年齢は20歳で俺はまだまだ子供だが、実力は並の大人を越えるほどの強者となっていた。



 そんな俺は現在街外れの廃墟の中、少女たちを守りながら黒ローブの男たちと対峙していた。


 一、二、三……全部で十五人。

 ここの外にも二人位いるから全部で十七。

 

 こいつらは『魔王の教団』俗にいう悪役って奴だ。目的は、ざっくり言うと魔王を復活させること。


 如何にもな悪役の目的って感じだな。


「男……いや、女か」 


 ……俺は男だよ。


「まあどちらでもいい。貴様、何故我々の邪魔をする」

「逆に聞きたいんだが……女の子たちを誘拐して邪魔されないとでも思ったのか?」


 仮面をかぶった付けた俺は師匠から貰った黒ローブを翻しながらそう尋ねた。

 何故俺がこんな感じで、いかにもな悪役から女の子たちを守っているのかというと……これは全てクシアーネ推しを守るためだ。


 ゲームの世界、クシアーネは昔、一度誘拐されたという話がある。

 そのことが分かっていた俺は、登下校中の彼女を毎日ストー……ゲフンゲフン。勝手ながら見守っていたのだ。


 正確な日時が分からなかったからな、大変だった。

 ……とまあ、そんな感じで見守っていた俺は、今日とうとう彼女が誘拐される現場を目撃し……今に至る。


「ふざけた奴だ」

「ふざけてないんだけどなぁ……」

「まあいい、どちらにせよお前はここで死んでもらう」

「展開速いな」

「魔王様の生贄となれ……」


 そう言うと男たちは、各々の杖を構え俺に向けてくる……


「なるほど、魔法で一気に片を付けようってわけか、なら俺も魔法でって……ん?」


 そう言って魔法を唱えようとした俺のローブの裾が引かれた。


「ボクたちを、たす、けて……」


 ふと振り返った俺が見たのは、怯えボロボロと涙を流す長い白髪をツインテールで結んだまだ幼い”推しクシアーネ”の姿だった。


……いつも大人びててクールで冷静なクシアーネだってのに、今の彼女はまるで小鹿だ。

 

 まあでも考えれば当たり前か、ゲームの世界で、現実で……どれだけ冷静で大人びていても所詮まだまだ子供なんだ。

 そりゃ、怖いよな。


 いきなり襲われて……連れてこられてさ。

 大人だって怖いもん、子供ならなおさらだ。


 更に殺されそうになって、頼れる大人が謎の仮面のお兄さんだけ。

 不安になるし、怖いよ。


 でも……


「……大丈夫」


 そう言って俺は初めて彼女の頭に触れる。


 電子じゃない、これが本物……


 本来の世界……否、空想ゲームの世界彼女はここで、友を失い、悪魔と契約し、重たい使命を背負って物語の世界へと関わっていくことになる。


 ……だが、そんな未来は訪れない。


 


 


 ……あの日、モブだと分かったビラを拾った日からこの世界はゲームから俺の物語現実に変わった。


 右腕を伸ばし、左手で支え銃の形に指を構える。


「爆炎……」


 この世界はゲームじゃない、現実だ。

 ゲームにはシナリオがある、だが現実にシナリオは存在しない。

 だからこそ現実は本気で望めば変えることができる。


「プロミネンス・バーン」


 絶望の未来を希望に変えて、俺は自らの幸せを掴み取る。

 それこそ俺がこの世界に生まれたな意味なのだ。

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